第百七十一話 スラリンが暴走して無双できない
見上げる先にいるのは壮年の紳士。
穏やかそうな柔和な笑みを浮かべる彼が魔王ルビーアイなのだろう。
見た感じは敵対の意思を感じない。
ただ、この雰囲気は油断できない。
彼の笑みからは老獪さが感じられた。
伊達に何百年も生きてはいないのだろう。
貴也は魔王を見上げながら頭を下げ――
「キュキュキュ~~~」
何かが貴也の視界を掠める。
そして、それは魔王に向かって一直線に飛びついていった。
「スラリン!」
貴也が叫ぶが時すでに遅し。
魔王にスラリンが体当たりしていく。
いきなりの出来事に貴也は唖然としていた。
そして、我に返ると慌てて……?
「キュキュキュ」
「どうした。お客様の前には姿を現すなと言っておいただろ」
魔王は笑みを浮かべてスラリンを撫でている。
魔王に粉々にされてしまうと思っていた貴也達は唖然としていた。
そんな貴也達を見て魔王は苦笑する。
「ああ、すまない。これは我の使い魔のような……うん?」
そこで違和感を覚えたのか、スラリンを掴んで伸ばしたり、光に透かしたりしだした。
スラリンは遊んでもらっているとでも思っているのか嬉しそうに鳴いている。
「なんでお主はこんなに成長しておるのだ?」
そこに執事服を着た少年が現れた。
「魔王様。それは我が城の侍従ではありません。工場から出て森に住み着いた物の一匹でしょう」
「なんと、それは驚きだなあ。この辺の魔物はかなり強い。コブリンにすら勝てないこ奴らが生き延びてここまで成長するとは」
魔王は驚きながらも嬉しそうにスラリンを撫でる。
スラリンも褒められていることがわかっているのか喜んでいる。
そんな二人を面白くなさそうな目で見ている少年。
貴也はそんな二人に声を掛けた。
「スラリンが申し訳ありませんでした」
貴也が階段を駆け上がり謝罪する。
すると、その意味がわからないのか魔王は首を傾げていた。
貴也は今までの経緯を掻い摘んで説明する。
「そうか。こやつは君に救われたのだな。我が眷属を助けてくれて改めて礼を言おう」
魔王の感謝の言葉にも驚いたが、それ以上に聞き逃せない言葉があった。
「眷属?」
「そうだ。この者は我が生み出した眷属だ」
なんだかとんでもないことを聞いてしまった。
スラリンがただ者ではないことは知っていたが、まさか魔王の眷属とは……
思わぬ事態に貴也の思考は完全に停止してしまった。
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