第百六十九話 魔王様の城が思いの外遠くて無双できない
遅れて申し訳ありません。
来週はいつも通り月曜に更新する所存ですm(__)m
多分……
「はあ、はあ、はあ、まだ着かないの?」
「何言ってるの? まだ、歩き始めたばかりじゃない」
優紀の呆れたような声が返ってくる。
貴也はそれに反論する気も起きずに荒い息を吐いていた。
「これだから、脳筋は嫌いだ。オレは頭脳労働専門でこんな山道を歩くようには出来てないんだよ」
「自分の運動不足を棚に上げちゃって。貴也はもう少し運動した方が良いと思うな」
貴也は首を傾げる。
なんでこいつは心の声を察知したのだろうか。
まさか、空気を読むというスキルに目覚めたのか?
それは大変めでたいことだ。
これからはどんどん周りに気を使って、こちらに来る被害を減らして欲しいものだ。
なんてことを貴也が考えていると隣を歩くアスカが盛大に溜息を吐いた。
「貴也殿。考えが漏れてるだけですぞ」
アスカの言葉にハッとなる。
どうやら疲れすぎて独り言を言ってしまったようだ。
だが、それもどうでも良いことだ。
いつも言っていることなのでフォローする必要もない。
というか、まだ着かないのか?
パルムの村を出てから車で一時間ほど走り、魔王の領域に差し掛かるところで車が通れる道が終わった。
そこからは徒歩移動ということなのだが……
既に歩き始めて一時間は経過していた。
慣れない山道は貴也の体力をガンガン削っていく。
話によるとルビーアイの城は山に囲まれた盆地にあるそうだ。
山一つ越えないといけないと事前に聞いていたがはっきり言って舐めていた。
山間を抜けるので標高400mくらいだと聞いていたのだが……
一応、道らしいものは有るがそれは獣道に毛が生えた程度である。
魔王に会いに行く人間などほとんどいないので道の整備などしていないのだろう。
なら、魔王はどうしてるかって?
彼の魔王は魔法の天才なので空を飛んで移動するらしい。
魔法ズルい。
飛行魔法は貴也能力なら習得できるのだろうが、いかんせん燃費が悪い。
魔力がほとんどない貴也には使いこなせないのだ。
「はあ、でも魔王に会いに来る偉いさんもいるだろうに、こんな山道をみんな昇っていくのか?」
「この世界の貴族や王族は魔力適正や身体能力が高い人が多いですからね。これくらい苦じゃないと思いますよ」
アスカが平然とそんなことを言ってのける。
まあ、彼女の言うことには一理あるのだろう。
この世界には魔物がいる。
そして、支配者層はこの魔物の脅威から群衆を守る為に立ち上がった人達の末裔だ。
この世界でも能力は遺伝することが多い。
そして、現在でも魔物の脅威に立ち向かう義務を背負っているために鍛えているのだ。
執事見習いになってから鍛え始めた貴也とは年季が違うのである。
貴也は盛大な息を吐きながら歩き続ける。
こうして、さらに二時間ほど進んだ時だった。
「貴也、着いたよ!」
優紀の言葉に顔を上げる。
森の切れ間に小さな城が見えた。
「やっと着いたか」
貴也はホッとしたのかその場に座り込む。
今の貴也には小さいが趣のある城のことなど気にするような余裕はなかった。
そんな貴也に苦笑を浮かべながら優紀たちは貴也を抱え上げる。
「もうちょっとだから、城まで行こうね」
「こんなところで休むより城で寛いだ方が良いですよ」
貴也もそれには同意だったのでふらつく足に力を入れる。
その時だった
「えっと、あれなんだ?」
貴也は前方を指差した。
優紀はそれを見て首を傾げる。
「ヘリコプター?」
「ヘリで来れるならこんな苦労する必要性なかっただろうが!」
貴也の叫び声が虚しく森に木霊していた。
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