第百六十八話 いざ魔王の元へ向かうが無双できない
「さあ、面倒くさいが魔王の元に向かうか」
溜め息交じりにそう言った貴也は椅子に座った状態で大きく伸びをする。
ここはカインの家のキッチン。
カインが用意した朝食を食べ終え、貴也は優雅に紅茶を啜っていた。
今日の朝食はサラダとベーコンエッグ。
サラダと言っても塩コショウと酢、オリーブオイルというシンプルなドレッシングがかかったタダの生野菜だ。
だがこれが絶品なのだ。
野菜自体の甘みや旨味が凝縮しており、瑞々しくシャキシャキした触感などが舌を楽しましてくれる。
流石、カインが手塩にかけて育てた野菜たちだった。
本当にこいつの腕には感心させられる。
この国一の農家というのも伊達ではないのだろう。
そんなカインが間抜けずらを浮かべながら
「もう行くだか?」
「ああ、あまり気ノリはしないのだが、先延ばしにするわけにもいかないからな。なにせ相手は魔王だ。機嫌を損ねる訳にもいかないだろ?」
「そうだか? 確か、貴也は魔王に喧嘩を売ってた気が?」
こいつ都合の悪いことを覚えてやがって『カインの癖に生意気だ』と思いながらも貴也はそれを聞き流す。
第一、あんなものは魔王にカウントしてはいけない。
魔王とは威厳のあるものなのだから。
「それにそろそろあいつ等も来る頃だろうしな」
そんなことを言っているとタイミング良くチャイムがなった。
どうやら、優紀たちがやってくきたようだ。
貴也は今度こそ重い腰を上げる。
スラリンもそれを察したのか貴也の頭にピョンっと飛び乗った。
「世話になったな。帰りにまた寄らしてもらうよ」
「気にすんなっぺ。気兼ねなくいつでもきんしゃい」
本当にいつ聞いてもこいつのなまりは変だなあと思いながら軽く握手して玄関に向かう。
カインも見送りについてきた。
「そんだ。これも持っていげ」
そう言うと籠いっぱいの野菜を出してくる。
「こんなくそ重たいものを持っていけるかよ。帰りに寄るからその時にくれよ」
「違うっぺ。これは魔王様へのお土産だ。このハイテンションフルーツなんかは魔王様の好物なんだべ」
そう言えば魔王はこいつの野菜のファンだったとか聞いたことがある。
それならと思い籠を上げようとしたのだが……
「相変わらず、ひ弱だなぁ」
カインの苦笑に貴也はイラッと来たがそこで文句を言うほど貴也は大人気なくない。
身体強化魔法を使って籠を持ち上げる。
『昔のオレとは違うのだよ』とニヒルに笑って見せるが
「まんず。こんくらいのことで魔法を使って威張ってたら行かんずらよ」
尤もな意見だったが、とりあえず「カインの癖に生意気だ」と言っておいた。
ちなみに今更だけど夕べのディナーの話はありませんよ。
まあ、色々あったんだけどね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ちなみに最後のはふりでも何でもありません。
SSとか書くつもりはありませんよ。
って、なんか本当にふりっぽくなってきた。
書かない。書かないと言いていると書いてしまいそうになる、オレの芸人魂が……
バカなことはこの辺で(;^_^A
今後もよろしくお願いします。