第百六十六話 相変わらずの面々にほいっこりするが無双できない
「そんじゃあ、これをルイズのところに届けに行くべ」
「オレも行くよ。この時間だと話は出来ないだろうけど、ランチくらいは食べて行ってもいいだろうしな」
「それは良いずらな。おいも食べていくんなまし」
久し振りにあったがカインの訛りが一層おかしくなっているみたいだ。
異世界翻訳機能は本当に大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えながら貴也達はルイズの店に向かう。
道すがら村の様子を見てみたが、ここは相変わらずのどかな場所だった。
うん、空気が美味い。
貴也は両手を上にあげて伸びをする。
胸いっぱいに空気を吸い込むと心が洗われるようだった。
まあ、そうはいっても公爵領内はどこも工業汚染などされていないので気分的な物なのでしかないのだが、それを言うのは野暮と言う物だろう。
「そう言えばルイズとはどうなんだ?」
「まんず、元気だべ。店も相変わらず繁盛してるけん。元気に働いてるっぺよ」
「そういうことを聞いてるわけじゃないんだけどな」
「???」
カインが頭に疑問符を浮かべている。
貴也としてはルイズとの恋の進展を聞いたつもりだったのだが、どうやらカインは『と』を聞き逃したようだ。
相変わらず、この手の話には鈍感な奴だ。
ルイズも難しい相手を好きになった物である。
本当に不憫だ。
貴也は肩を竦めて大きな溜め息を吐いておいた。
その反応にカインは余計に混乱している。
そうこうしている内にルイズの店についた。
貴也達は裏口から入って行く。
「ルイズ。頼まれていた野菜をもってきたっぺ」
「あっ、カインさん。ごめんなさい。いま手が離せないの。仲間で運んでくれる」
「了解だっぺ」
勝手知ったもので野菜を入れた籠を厨房の脇に置きに行く。
貴也はというと懐かしくて店の方に向かっていた。
店内はまだ清掃中のようでテーブルの上に椅子を上げていた。
そこに
「すいません。まだ、準備中なんですけど……って、あんた貴也じゃない」
そう大きな声で話しかけてきたのはミラノさんだった。
忘れている人がいるかもしれないが、マリアさんの親友でこの店のホールを任されている女性だ。
ちなみに新婚さん。
だったよね?
「おひさしぶりです」
「あんた公爵家の執事になったって聞いてたけどもうクビになったの?」
「って、クビになんてなってませんよ!」
と素早くツッコんで置くが……
いや待てよ。
オレって執事辞めたよな。
その後、再雇用とかされていないような気がするんだけど。
あれ? マジでいま無職なんじゃ。
改めて思い出して貴也は汗を掻いていた。
その反応を見て動揺したのはミラノの方だった。
「あれ? 冗談のつもりだったんだけど、シャレになってなかった。なんか、ごめんね」
申し訳なさそうに頭を下げる、ミラノ。
貴也は慌てて頭を上げさせる。
「いや、別にクビになった訳じゃないですよ」
「いいのよ。わたしにまでそんな強がらなくて。いつでもここに戻ってきてくれていいんだから」
「いやだから別に本当に――」
勘違いしたミラノサンは貴也がどういっても信じちゃくれない。
本当に違うのにと貴也がほとほと困っていると
「もうミラノさん。あんまり貴也さんのこと揶揄っちゃダメですよ」
厨房の方からルイズやって来た。
小柄なのに厨房服の上からでもわかる巨乳は今でも健在です。眼福
「って揶揄う?」
貴也が彼女の言葉に小首を傾げる。
するとそんな貴也を見て、堪えられないとミラノさんが腹を抱えて笑い出した。
どういうことか戸惑っている貴也にルイズが苦笑しながら
「貴也さんがこちらにいらっしゃると公爵家から連絡があったんです。今日のディナーの予約も貴也さんたちの為なんですよ」
ポンと手を叩いて納得した、貴也。
そんな貴也を見てさらに笑い転げるミラノさんだった。
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