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第百六十二話 忘れていたからって無双できません


「では早速、魔王の元に向かうことにしましょう」


 そう言って席を立ち、部屋から出て行こうとする、貴也。

 だが、不意に立ち止まって振り返る。

 その様子にエドは小首を傾げていた。


「何かありましたか?」


 嫌な予感がしているのか、眉をひそめて、そう尋ねるエドに貴也は会心の笑みを浮かべて答える。


「いえ、そんなに警戒する必要はありませんよ。ただ――」


 貴也はもったいぶって一息溜める。

 その態度にエドの警戒レベルが上がったのが感じられた。

 貴也は内心ほくそ笑みながら淡々と続きを話す。


「アスカの件をよろしくお願いします。まだ、ジルコニアでごたごたが続いているようなので面倒だとは思いますが」


「あっ」


 エドは呆然としていた。

 普通なら教会がらみ、しかも騎士団に関することだ。

 決して忘れられることではない。


 余程、魔王ルビーアイからの書状に動揺していたのだろう。

 というかアスカの件は本気で忘れたかったのかも。


 そんなことを想像しながらもエドの対応を待つ。

 肝心のエドはというと口をパクパクさせたり、頭を捻ったりと苦悩している。


 うわぁ。悩んでるわ。

 いつも沈着冷静なエドをここまで悩ませる魔王と教会。

 うん。絶対に関わりたくない。


 事の中心にいるのに、どこか他人事のように考えている貴也だった。

 というか現実逃避だろう。


「それではわたしはこれで。旅の支度がありますので」


 貴也は早々と部屋から立ち去ろうとする。

 それを慌ててエドが引き留めた。


「ちょっと待ってください。薔薇騎士団の団長を放置していかれるのは困ります」


 日頃、凛としているエドには珍しく眉をへの字にして嘆いている。

 そんな珍しい光景に貴也のSの血が騒ぎだした。


「そうは言っても魔王の招待には迅速に答えないといけないんですよね」


 ニヤリといやらしい笑みを浮かべて意地悪を言う、貴也。

 エドはぐぬぬと呻きながらも言い返すことが出来ないみたいだ。


 少し可哀想になって来たが、よく考えると公爵家の嫡男が頭を抱えるような無理難題を押し付けらえていたわけだ。

 それって酷くないかと思いながらも大きく溜息を吐いた。


「はあああ。意地悪でしたね。でも、実際に二つを迅速に片付けることなんて不可能ですよ。魔王からの招待は名指しなのでわたしが行くしかありません。そうなるとアスカの件は任せるしかないんですけど?」


 そう言うとエドが涙目でこちらを見てくる。


「どんだけ騎士団が怖いですか。それにそんな厄介ごとをオレみたいな下っ端に任せないでくださいよ」


「いやいや、今回の件はわたし達の制止を振り切って貴也さんが勝手にやったことですよ。わたし達には関係ないんですからちゃんと責任もってくださいよ」


「じゃあ、魔王の招待を断ってくださいよ」


「そんな大それたこと出来る訳ないじゃないですか!」


 急に大きな声を上げて怒鳴られてしまった。

 なんか納得いかないがアスカの件は独断専行なのであまり強く言えないだからここは折れておく。


「そうですね。ここはクロー」


「それは出来ません」


「早いですよ」


 どこにいたのかクロードさんが言い切る前にツッコんできた。

 貴也は苦笑してクリードを見る。

 彼は大きく手でバッテンを作っていた。

 断固拒否するという意思表示なのだろう。


「そんなに大変なことじゃないですよ。いま状況はどうなってます?」


 貴也はエドの方を向いて確認を取る。

 普通ならエドが知っていてクロードが知らないことなど皆無なのだが、教会関係のことは別だ。

 特にクロードは華の騎士団に関しては一切かかわろうとしない。

 というか、話をしだすと逃げるレベルだ。


 うん。教育というのは怖いね。

 というか、実害があったのでは?


 本気で少し調べた方が良いように思えてきた。

 まあ、それは置いておいてエドの話を聞く。


「現在、薔薇騎士団の大半はジルコニアからの撤退を始めています」


「教皇が動いてくれたんですよね」


「ええ、当初は教皇もあまり強く出られなかったのですがね」


 トップと言えども華の騎士団にはそうそう強く出られないのが実情らしい。

 教会一の武装集団というのもそうだが、それ以外に治安維持や教会の健全化を古くから任されている。

 過去には教皇の粛清を行ったこともある者達だ。


 その事件は記録にも残っており、不正など横暴を極めた教皇を騎士団の団長が三人で捕縛。

 大聖堂の前にある広間に集まった人々の前で首を切った。


 ただ事態はそれだけでは収まらない。

 教皇を殺めた三人の騎士団長は責任を取ってその場で自らの首を両断。

 それに続き騎士団の幹部も次々に自らの首を落としたという。

 それを見ていた団員は皆、血涙を流しながら後に続けないことを嘆き。

 そして、団長たちに秩序は残された者達が守ると誓ったそうだ。


 この話を聞いた時は心底ゾットした。

 はっきり言って教皇と言えど関り合いたくないのだろう。


 なら潰せばいいのに、と思うだろうが、奴らには私利私欲と言う物がない。

 不正でもしてくれればそれを口実に取り潰しことも出来るのだが、そんな隙は何百年もなかった。

 恐るべき狂信者集団である。


 閑話休題


「それでも教皇が動いた」


「ええ、幸か不幸か騎士団長が行方不明になってしまった。その件で何か不正があったのではないかと騎士団を呼び戻したそうです。まあ、一部は団長の捜索を理由に残ったそうですけど」


 その残った一団というのがなんだか怪しいのだが、今の貴也には手の出せることではなかった。

 一抹の不安を感じつつもその件には目を瞑る。


「それで教皇とは連絡がついたのですか」


「ええ、アスカさんの無事を喜んでおられました。ただ、しばらく、極秘裏に預かっていて欲しいと懇願されました」


「なんかきな臭いですね」


「ええ」


 貴也達は視線を合わせて大きな溜め息を吐く。

 そこでクロードが何か思いついたのか目を輝かせた。


「エドワード様、教皇猊下は騎士団長を秘密裏に匿ってくれとおっしゃられたのですね」


「そうです。だから困っているのですが?」


 突然、当然なことを聞きだすクロードにエドは眉を寄せる。

 それに対してクロードは満面の笑みで答えた。


「だったら、貴也と一緒にルビーアイ様の元に行ってもらえばいいのではないですか? 魔王様の元ならスパイなどの心配もございませんから秘密が漏れることもないでしょう。それにあれほど安全な場所はこの世界でもまれでしょう」


「おお、確かにそうですね」


 二人が勝手に納得している。

 けど、あのアスカを魔王の元に連れて行ってトラブルが無い筈がない。

 貴也は慌てて抗議するが彼等はただ笑うだけで聞いてくれなかった。


 ああ、余計なことを言ったせいで厄介ごとが増えてしまったようだ。

 こんな事ならこそっと出て行けばよかった、と嘆く貴也だった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

まだまだ続くのでこれからもよろしくお願いします。

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