第百六十一話 内心行きたくないのだが無双できない
「これって断ってもいいんですかね」
「そんな訳ないでしょう」
エドのツッコミが思いの外早くて貴也は苦笑していた。
そんな貴也の態度を見てエドは眉間を揉みほぐしながら
「いいですか。魔王ルビーアイ様と我々は初代からの付き合いなんです。我々に現在の地位があるのはルビーアイ様のおかげだと言っても過言ではありません」
「何か弱みでも握られているんですか?」
「失礼なことを。あの方は立派な方です。何度あの方の助言で我々が助けられたことやら。初代が魔導を極められたのもルビーアイ様の教えがあったからとも言われています」
「でも、魔王なんでしょ」
「貴也さんにも偏見はあるんですね。魔王というのは魔王の核を持っている者という意味以外なんの意味もありません。というか魔という響きが悪いのか教会のように毛嫌いする者も多いですが、彼等は身体能力と魔法に優れた人族ですよ」
「それは理解しているのだけど、オレのあったことがある魔王は『あれ』だけですからね」
そう言うとエドは何かを思い出したように顔を顰める。
そして、溜め息を吐きながら
「あの方とルビーアイ様を一緒にされては困ります。確かに魔王の中には個性豊かな方が多いですが、ルビーアイ様は別です。悠久の時を生きてきた偉大な賢者ですよ」
何かを思い出しながら遠い目をするエドははっきり言って不気味だった。
この雰囲気は見たことある。
そうだ。薔薇騎士団の……
狂信者のアレに近い。
なんてことを言うと怒られそうで言わないが、この城で唯一真面だと思っていたのにかなり残念だ。
と言う訳で話を戻す。
まあ、執事としては主の命に逆らいうことなど出来ないのだけど。
「う~ん。そうだ。この招待状には日時の指定がないですよね。これって近くにお寄りの際はお立ち寄りくださいって意味じゃないんですか?」
「そういう意図で送られることはありますが、今回の場合は忙しくなければ出来るだけ早く来て欲しいという意味だと思いますよ」
「なら、重要な案件があるのでその後でということで」
「貴也さんに任している仕事はなかったと思いますが?」
エドすら知らない密命が出ている可能性を頭で考えながら貴也に尋ねる。
「いえ。というか、現在、執事はクビになっているのでオレは公爵家とは関係ない身分ですよ」
「だったら、どんな仕事があるんですか?」
「それは研究でしょう。今回の旅でいいデータが取れたんで色々試してみたいことがあるんですよ」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべる、貴也。
いつもならそれに乗ってくるエドだが、その表情があまりにも危険なものに感じて一歩引いている。
「うんうん。僕は忙しいんだ。だから、当分はいけないな。これで先延ばしにして有耶無耶にすることにしよう」
「そんな事許されるわけないじゃないですか。とっとと準備をしてください!」
しまった。思わず本音が口に出てしまった。
エドに大声で怒鳴られては重い腰を上げざるをえない。
「はあ、魔王がなんでオレなんかに」
どうやらまた厄介ごとに巻き込まれそうで大きな溜め息を吐く貴也だった。
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