第百五十九話 テンペストが去るが無双できない
二週間も更新を止めて申し訳ありません。
「すまない。つまらない話をした」
「そんなことないです。辛い過去を思い出させて。こちらこそ申し訳ありませんでした」
テンペストが頭を下げるのを見て、貴也は慌てて頭を上げさせた。
神の眷属に頭を下げられるのは心臓に悪い。
それに良い話を聞けたのは事実。
このような重要な話は滅多に聞けるものではないだろう。
その時だった。
テンペスト不意に視線を逸らした。
その先には優紀が眠っている。
「そろそろ目を覚ましそうだな。我がいるとまた揉め事になるだろう。この辺りで消えさせてもらう」
そう言うが早いか彼の周りに一陣の風吹いた。
貴也は舞った砂埃を避けるために咄嗟に目を背けた。
そして、視線を戻した時にはすでにテンペストの姿は消えていた。
貴也は大きな溜め息を吐く
「ホントに現れるのも消えるのも突然な人だったなあ」
苦笑を浮かべながら貴也は一人ごちた。
だが、彼に会えたのは収穫だった。
優紀や噂で聞いていたような悪い人ではなかった。
まあ、規格外の存在だからいるだけで人に迷惑をかけてしまうのだろう。
また、会うことが出来るかなあ、と遠くを見ながら貴也は呟いていた。
テンペストが去り、しばらくすると優紀が目を覚ました。
ただ、魔力が若干回復しただけで本調子には程遠い。
アスカも回復に向かっているがすぐに動ける状態ではないだろう。
貴也達はここで一晩疲れをとることに決めた。
デッドリーポイズンスパイダーの巣の中で野宿など他人が聞けば気が狂った所業としか言えない。
だが、実際に問題はなかった。
索敵魔法にも反応はなかったし、実際にスラリンと一緒に偵察に行ったがナイト種どころか通常種すら存在しなかった。
もしかすると、テンペストが片付けて行ってくれたのだろうか。
まあ、クイーンが死んだことを察知して逃げて行っただけかもしれないが
日が変わり、動けるくらいに回復した二人と共に貴也達は巣を脱出、森を抜けていく。
昨日まで死にそうだった二人は今ではそんな片鱗を見せることなく出てくる魔物を蹂躙していく。
これで本調子でないというのが納得いかない。
本当に貴也の周りは化け物しかいない。
この十分の一でも良いから力を分けてくれないかなぁ、と溜息交じりに呟いていた。
そして、無事タイタニウムに帰還した。
その間にもいろいろ騒動があったのだが、それはまた別の話。
決して話したくないわけではない。
まあ、思い出しただけで頭痛がするのだが……
一言だけ言うなら
「あの二人うぜえ。もう少し一般常識を覚えろ! ぜえぜえぜえ」
ということである。
そんな風に日常が返ってきたある日のこと
「貴也さん。こんなものが届いているのですが」
そう言ってどこか緊張した顔のエドがやって来た。
彼がこういう顔をするのは珍しいので貴也が驚きながらその書状を受け取ると
「これって本物ですか?」
貴也はその封書を見て目を見開いた。
エドは黙って頷いている。
きっと魔力鑑定も済んでいるのだろう。
どこにでもある白い封筒。
ただ、裏に有名な紋章と署名が書かれていた。
貴也も執事見習いとして貴族、王族、有力者の紋章は覚えている。
今回の封筒に描かれている物は王族の紋章より先に覚えさせられたものだ。
もう一度まじまじと見てみる。
紋章は署名とも一致している。
「これって公爵宛ての間違いじゃないですか?」
「いいえ、貴也さん個人への書状です」
「なんでオレなんかに……」
貴也は呆然としながら呟く
「魔王ルビーアイ」
その署名の主は最古の魔王の名前だった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これで第四章は終了です。
そして、物語は佳境へと進んでいきます。
真の敵の登場、そしてエンデイングへ……
そう上手く行くのかなあ。
この話、行き当たりばったりだし
そうぼやく作者でした
とりあえず、まだまだ続くのでこれからもよろしくお願いします。