第百五十八話 生き残りの可能性を聞くが無双できない
「まさかな」
テンペストの呟きを貴也は聞き逃さなかった。
貴也が訝しんでいると彼は首を振りながら頭を過ったことを説明してくれた。
「ミュウテーションスライムは我々の手で絶滅させた。ただ、我が君が可愛がっていた一匹だけはその後も生きていた」
「もしかして、それが――」
貴也の言葉にテンペストは首を振る。
「いや。それはない」
テンペストは辛そうな顔をして語りだした。
「あの者は白様が初めて生み出した者だった。白様はその後も傍らに置き、大層かわいがっていらっしゃった。それに応えるかのようにあの者はすくすくと成長し知性まで持った。そして、白様の神気を浴び続けたせいか、別の存在へと昇華していた。あの者は実力では我等に到底及ばないにしても、白様にとって我々に次ぐ、いや同等と言って良い存在だったのだ」
そこでテンペストは天を仰いで一呼吸置く。
思い出すだけで辛そうだったが、貴也はその話を止めようとはしなかった。
「そして、悲劇が起こった。奴らが白様を――」
唇を噛み締め、口の端に血がにじむ。
殺気が迸り、目に怒りの炎が宿っていた。
だが、その炎はすぐに消えた。
「我々は何も出来なかった。我々は白様に魂を分け与えられ生み出された存在。魂のレベルで白様に危害を加えられないように出来ている。そして、その対象は白様の同胞たるあやつらにも及んでいた。我等は白様が殺される瞬間、ただ見ていることしか出来なかった。その身を投げ出すことも叶わなかったのだ」
テンペストは力なく肩を落とす。
そして、何かうらやむように視線を天に向けた。
「だが、あの者は違った。あやつらは白様と同等、絶対に敵わぬ存在なのに我が君の前にその身を投げ出した。まあ、絶対者を前にして瞬きする時間も稼ぐことは敵わなかったのだが……」
重苦しい空気が流れる。
聞かなくても分かっていることだが、貴也はあえて確認した。
「それでその者は?」
「塵も残さず消滅してしまったよ。争いが終わった後、魂だけでも残っていないか探したが見つかることはなかった。多分、あやつらの神気の前に消し飛んでしまったのだろう」
テンペストはそう告げると目を瞑り黙り込んでしまう。
貴也は黙ってそれを見ていた。
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