第百五十六話 スラリンの素性が判明するが無双できない
「それにしてもなんでこんなところに。ミュウテーションスライムは既に絶滅したはずなのに」
「絶滅?」
いきなりの新事実に貴也は驚いていた。
そんな貴也にテンペストは大きく頷き説明してくれる。
「ああ、彼等は一度この世界を滅亡の寸前まで追い込んでいる。だから、神の分身体が自ら乗り出してすべて殺しつくした」
「こいつが?」
貴也はその愛らしい姿をしたスラリンからは想像できない話に困惑していた。
だが、テンペストが嘘を言っているように見えない。
貴也は半信半疑ながら話の続きを促す。
「かつてこの世界に魔力は存在しなかった。そこで白様はこの世界を魔力で満たすためにミュウテーションスライムを生み出したのだ。彼等は陽の光などのエネルギーから植物、鉱石など、あらゆるものを体内に取り込みそれを魔力に変換する能力を持っている」
「なんですかそのチート能力は……」
「そのチートという意味は分からないが確かにとんでもない能力だ。だから、白様はミュウテーションスライムに繁殖以外に高い能力を与えなかった。スライムと同様に食物連鎖の底辺として生み出した魔力を世界に還元させようと意図なさったのだ」
テンペストの説明に貴也は唸っていた。
破壊神の分身体で創世記に世界をグチャグチャにしていたと聞いてたのに意外と思慮深い。
だが
「ただ、問題が発生した。ミュウテーションスライムを捕食した動物が魔力を溜めだしたのだ。現在いる魔物の原型が誕生したわけだ」
スライムが死ぬときそれまで溜めてきた魔力は世界に放出される。
だが、その放出される際に捕食者がその魔力の何割かを体内に蓄えてしまった。
まあ、スライム一匹分の魔力などたかが知れているが塵も積もれば山となる。
そうしてスライムを食べ続けた個体が魔物となり強者となる。
そして、また、魔力をため込んだ強者をさらに強いものが捕食し、その力を増大させていく。
魔力のない世界では単純に身体が大きく身体能力が優れたものが勝ち組だったが、そこに魔力と言う物が加わり世界は混沌としていったそうだ。
「早いうちに何か対策を立てなかったのですか?」
「我が主はそういう細かいことは気にしない。『弱肉強食? 何が悪いの?』という方だった」
うん。前言撤回やっぱり破壊神だ。
そんな感想を貴也が抱いている間もテンペストの話は続く。
「それでも世界は安定に向かいつつあった。魔力と身体能力が高い物がある程度固定されてきて世界に秩序が生まれかけていたのだが……」
テンペストは盛大に溜息を吐く。
それを貴也が訝しんでいるとテンペストは語りだした。
「ミュウテーションスライムの中に成長した個体が生まれだしたのだ」
「ああ」
貴也は苦笑する。
それはそうだろう。
魔力というのが重要な地位を占める弱肉強食の世界で唯一魔力を自らの力で生み出せる存在。
そんなものがただの捕食者で終わるわけがない。
成長前なら取るに足らない存在でもその魔力が一定値を越えたら一気に強者に早変わりだ。
普通なら捕食される側でも一万体もいれば一体くらい生き残ってもおかしくない。
テンペストの説明は続く。
「そして、その個体は知性まで持ってしまった。彼は仲間を守り、そして、その成長を促した。気付いた時にはこの世界の頂点にまで上り詰めていたのだ」
貴也は頭を抱えてしまった。
そうなることを懸念して能力をわざと抑えていたのに結局最悪の事態になってしまったのだ。
そして
「さらに厄介なことは彼等にとって他の生物が必要ない存在であること。彼らは魔力があれば生きていける。その魔力は陽の光さえあれば十分なのだ。だから、彼等は自分たちの脅威になりえる者を排除しだした。
貴也は、ごくりとつばをのむ
「そして、世界から半分の生命体が失われて、ミュウテーションスライムが大地を埋め尽くすことになった」
貴也は傍にいたスラリンがそんなとんでもない存在だと知って言葉を失う。
だが、そんな貴也の気持ちなど気付いてないのか、スラリンは不思議そうに小首を?(首なんてないのだが)傾げていた。
うん、カワイイじゃねえか。
そんなどうでも良いことが頭を過るが今後こいつをどうすればいいのか頭を悩ませる貴也だった。
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