第百五十五話 スラリンは空気を読まないので無双できない
「ところでさっきからお前のスライムがわたしの足に噛り付いているのだが……」
そう言って自分の足元を見るテンペスト。
そして、首を傾げながらスラリンをジッと見詰めている。
「コラ、スラリン。なにしてんだ!」
言われて初めて気付いた貴也は慌ててスラリンを引きはがした。
こいつ本当に命知らずだなぁ。
それにしても
「おかしいなぁ。こいつは敵でもない人に咬みつくことなんてないのに」
貴也は小首を傾げながら疑問に思う。
こいつは頻繁に貴也に咬みついてくるが、それはじゃれているようなものだ。
貴也以外に噛むのなんてアルくらいだろう。
優紀とたまにバトルしていることはあるがあれはじゃれついているのとは違う。
例外だろう。
貴也はスラリンの頭を叩きながら「メっ!」と怒っておく。
その対応にスラリンは不満そうで貴也の腕から逃げてしまった。
そして、またテンペストに咬みつこうとする。
「コラ、マジで止めなさい」
貴也は必死にスラリンを掴まえようとする。
テンペストがいくら寛容でも限度があるだろう。
こいつの力ならスラリンなんて一瞬で塵すら残らない。
それに巻き込まれて……
ブルリと全身を振るわせて捕獲を再開する。
しかし、素早さではもうスラリンには勝てない。
ひらりひらりと貴也の腕から逃げる、スラリン。
そして、楽しくなってきたのか、「キュキュ」と鳴きながらこちらをからかってくる。
こいつ、これを遊びと勘違いしてるんじゃないだろうな。
貴也は内心ではイラッとしながらも、それどころではなかった。
でも、そう簡単に掴まえられそうにない。
だから、とりあえずスラリンを放置し
「すみません。うちのスラリンが」
とテンペストに謝罪する。
本当に土下座くらいしたいくらいだ。
「いや、別に構わない」
だが、そんな怯える貴也とは正反対にテンペストは何とも思ってないようだ。
それどころか彼はスラリンを温かい目で見ている。
そこにはどこか懐かしそうな雰囲気が
貴也が訝しんでいるとテンペストはスラリンから視線を外して答えてくれた。
「多分、そ奴は我が主の匂いをわたしからかぎ取って懐かしんでいるのだろう? これくらいのことでわたしは腹を立てたりしない」
「え? なんで、貴方の主の匂いをスラリンが? スラリンはタダのスライムじゃないんですか?」
貴也の混乱に拍車がかかっていた。
そんな貴也にテンペストはとんでもないことを告げる。
「いや、そいつはタダのスライムではない。ミュウテーションスライム。我が主が生み出した魔物だ」
「ほえ?」
ただのスライムにしてはおかしな存在だと思っていたが、なんだか変な話になってきた。
貴也はしげしげとスラリンを見る。
かくいうスラリンは遊びが突然中断して不満そうにこちらを見ていたのだが、二人が見詰めていることに気付いたのか、その身体を赤く染めだした。
こいつ本当に器用だなあ。
照れると身体を赤くするんだ。
って変なところに感心しながらも
「照れてんじゃねえよ」
とりあえずツッコんでおいた。
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