第百五十二話 伝説にも残らなかった話で無双できない
「あのようなトカゲに成り下がった卑怯者たちと一緒にするな」
激しい感情の発露に貴也は気圧され身動き一つ取れなくなった。
これが神に連なる者の力なのか
その偉容だけで心臓が止まるかと思った。
だが
「すまん。感情的になってしまった。貴様には関係ないことなのにな」
貴也は黙ってその謝罪を受け入れる。
まあ、死にかけたのだから何か言ってやりたい気持ちもあるが、そんな恐ろしいことは流石に出来ない。
ただ
「何があったのですか?」
古傷を抉るような行為はするべきではないと頭ではわかっていたのだが、好奇心に勝てなかった。
口から出た言葉にしまったと思いながらもテンペストの様子を伺う。
彼は既に無表情に戻っており、少し天を仰いで瞑目した後、とつとつと話し始めた。
「白様があのトカゲ共に殺されたことは知っているか?」
「はい。伝承では破壊神は魂を七つに分けてこの世を統治しようとして上手く行かずにその七柱が争いその過程で一柱が消滅したと」
「白様は消えてなどおらん!」
一瞬だけ覇気が周りを覆ったがすぐにそれは収まった。
彼は軽い苛立ちを浮かべながらすまんと謝罪した。
もしすると彼が無表情なのは感情が表に現れるときに漏れる力を恐れているからかも知れない。
そんなことを考えながら彼が落ち着くのを待った。
しばらくして彼は話を続ける。
「他の者と違って白様は比較的うまくこの世界を統治していた。その理由は我ら眷属を生み出したからだ」
「眷属?」
「そうだ。白様の力は七等分されたとは言え、まだまだ、大きすぎた。失敗を繰り返してそのことに気付き考えた。そして、破壊神様が己の魂を等分されて分身体を作ったのを思い出し、自らの魂のごく一部を割いて眷属を生み出したのだ。そして、この世界の統治は我等に任して自分は世界を見守るだけに留めた。だが、その思慮深さが仇となった」
テンペストの顔が苦渋に歪む。
「しばらくして世界の統治が上手くいかないことについて分身体全員で話し合うことになったのだ。だが、話し合いは上手くまとまらない。破壊神と呼ばれるような神だ。皆気性が激しく我が強いのだ。ちょっとした行き違いから、とうとう争いになってしまった。その時だ。奴らは卑怯にも全員で白様を襲ったのだ」
テンペストが震えていた。
怒りを漏らすまいと必死に堪えている。
口の端から、握りしめた拳から血がにじんでいる。
彼は話を続ける。
「わかっているのだ。あの場にいたのは全て同等の存在。争えばどちらもただでは済まない。そんなか、一人だけ力の弱い物がいればそこを狙うのは当然だ」
「ちょっと待ってくれ。全員同格の存在なんだろう。なんで白様だけが狙われたんだ」
貴也の質問に彼の目に怒りの炎が宿った。
いや、違う、確かに怒りだがその中に悲しみや悔恨の情が混じっている。
どうしてか
「それは我等を生み出したからだ」
「でも、お前たちに与えたのは自分の力のほんの一部なんだろう」
「ああ、我等の力をすべて合わせても多分1パーセントに満たないだろう」
「だったら」
テンペストは首を振って貴也の言葉を遮る。
「1パーセントとは言ってもそれは神レベルの話。極限の世界に生きる彼等にとってそれは大きな差となる。しかも戦闘に特化している神達がその差に気付かないわけがない。そして、弱点は真っ先に狙わけるものだ。こうして白様はその場で殺された」
「なるほど……って、それじゃあ、やっぱり死んでるんじゃないのか?」
「いや、神の魂は不滅だ。龍も殺されれば時間はかかってもどこかで蘇るだろ」
貴也はその話を思い出してハッとなる。
「白様はこの世界のどこかにいる」
テンペストの言葉がシーンとしたあたりに響き渡った。
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