第百五十話 優紀が目を覚ましたが無双できない
祝百五十話
それでと言う訳ではないのですがタイトルを変更しました。
これからもよろしくお願いします。
あれから一時間が経過した。
アスカの状態に変化はない。
タダ、今まで悪くなる一方だった症状が止まっているのだ。
血の効果が出ていると信じたい。
「うっ、う~ん」
「優紀!」
優紀の呻き声を聞いて貴也は彼女の方に振り返った。
目を覚ましたのか彼女の目がゆっくりと開いていく。
まだ、熱が下がりきっていないのか顔が赤いが、それ以外、特に異常は見られない。
「貴也?」
寝起きで、まだ、状況がつかめていないのか彼女はぼおっとした口調で貴也の名前を呼んでいた。
「優紀、大丈夫か!」
自分が考えていた以上に彼女のことを心配していたのか声が思っていたより大きくなっていた。
貴也は彼女を気遣い語気を緩める。
彼女はまだ本調子ではないのだ。
そんな中、優紀が起き上がろうとした。
貴也は慌ててそれを止める。
「まだ、寝てないとダメだ。いつ容体が急変するかわからないのだから」
貴也の言葉に優紀は頷くとゆっくりと身体を横たえた。
そして、呻くように
「貴也、いまどうなってるの? わたしは生きているの?」
「ああ、大丈夫だ。オレの血が効いたみたいだ。もう心配はいらない」
「そう……」
そう言って彼女は目を閉じる。
しゃべっているのがつらかったのか、彼女の息が少し荒くなっていた。
快方に向かっているとは言え、かなり体力を消耗しているのだろう。
ここになって回復魔法を覚えてなかった自分に腹が立ってくる。
そんな風に貴也が後悔している時だった。
彼女は何かを思い出したかのように身体を起こした。
「アスカは! アスカはどうなったの」
「何やってるんだ。いいから、お前は休め」
「そんな事より、アスカは!」
「優紀!」
大きな声を上げて貴也は優紀を押さえつけ、無理やり寝かせる。
それに抗っているようだったが、彼女は難なく貴也に押さえつけらえていた。
いつもなら貴也の力など軽々と跳ねのけれるのに……。
その弱弱しさに貴也の表情が歪む。
それを勘違いしたのか、優紀の目が伏せられた。
貴也は慌てて彼女の勘違いを正す。
「違う。アスカはまだ生きている。オレの血を注射して今は経過を見ているところだ」
優紀はジッと貴也の目を見ていた。
そして
「生きてるのは本当のようね」
そう言うと優紀は身体を起こそうとした。
だが、それは身動ぎしただけで終わる。
今度は本当に力が残っていなかったみたいだ。
体を起こすことすらできない。
彼女は悔しそうに貴也を見る。
「アスカが生きてるのは本当ね。でも、状態は深刻なんでしょ」
流石、長年の付き合いである。
貴也の言いたくなかったことを見事に読まれてしまった。
多分、貴也が隠そうとした理由にも気付いていることだろう。
真っ直ぐにこちらを見詰めてそう言う優紀に対して貴也は目を逸らしかけた。
だが、それをしてはいけない。
貴也は優紀を睨み返す。
「身体を起こすこともできないのにアスカを助けられ訳ないだろ」
「……」
「それに回復魔法を使えるのか? 体力も魔力もないだろう」
「…………」
しばらく、二人で見つめ合っていた。
だが
「ああ、、もう強情だな! オレがお前に勝てるわけがないんだよ!」
貴也は声を荒げながら自分の髪をくしゃくしゃにする。
そして、盛大に溜息を吐きながら彼女を抱き上げた。
「だから、貴也のこと好きなの?」
「そんな告白聞きたくねえよ」
耳元でそんなことを囁く優紀にイラッとしながらも貴也は彼女をアスカの前に誘う。
「無茶はするなよ。限界だと思ったらお前を殺したって止めるから」
「そんなことできないくせに」
優紀は微笑みながら回復魔法の詠唱を始めるのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
前書きにも書きましたがこの話も百五十話になりました。
本当に良くここまで来ました。
って言うか、どこまで行くんだろう?
何とか完結させられるように頑張ります。
これからも良ければお付き合い下さい。




