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第百四十八話 使ってみるが無双できない


「貴也。わたしに使って」


「でも、どんな副作用があるか」


「そんなの、いまのアスカに使えないでしょ。わたしなら大丈夫だから。わたしで試して」


 そう言う優紀を見ながら貴也は眉間に皺を寄せていた。

 優紀は自分だけ助かろうとして言っているわけではない。

 この血を注射した時の副作用について考えているのだろう。

 アスカの今の容態ならどんな些細なことでも最悪の事態を招きかねない。


 それに問題が一つ。


「アスカの血液型がわからない」


 通常、血清は血液を凝固させその上澄みを使ったり、遠心分離機で製造したりする。

 だが、ここではそんな時間も設備もない。


 となると、この血を直接注射することになるのだが……


 幸いなことに貴也はO型だ。

 優紀もO型で問題はない。RHも両方+だ。


 厳密にいえばもっと細かいのがいろいろあるのだが、その辺はこの際目を瞑る。

 それでも他者の血液を何の処理もしないで注射するのは拒絶反応リスクがある。

 まあ、輸血事態にリスクがあるから、いくら気にしてもきりがないのだけど……


 問題は魔法によってどんな効果が出ているかだ。

 魔法はイメージが重要となる。


 今回、優紀が行ったのは血液の免疫力を高めるものだ。

 上手くいっているかはわからないが、もし上手くいっていたとして、それがどのように作用しているかがわからない。


 優紀にはどの抗体が今回のウィルスに効くのかなんてわからないだろう。

 となると、すべての抗体や免疫系が強化されている可能性だってある。


 自己血でないので貴也の血が異物と判断され攻撃されるリスク。

 また、逆に貴也の血が優紀の身体を攻撃する恐れもある。


 これは賭けだった。


 貴也は優紀を見る。

 彼女は瞳を熱っぽく潤ませ、息を荒げている。


 しかし、しっかりと貴也を見返してきた。

 覚悟はできていると


「わかった」


 貴也はそう言うと注射器の針を彼女の腕に差し入れた。





 効果があるか時間経過を待つ。

 優紀は荒い息を吐きながら目を閉じていた。

 いまの状態は寝ているのか、意識を失っているのか分からない。

 状態は貴也の血を打ってから変わっているようには見えなかった。


 これは悪化していないことを喜ぶべきか

 それとも快方に向かってないことを嘆くべきか

 判断に迷うところだ。


 貴也の血が効果を現すまでどれくらい時間がかかるかわからない。


 時計を見るが時間は遅々として進まない。

 もう一日は経過していると思われたが、まだ一時間くらいしか経ってない。


 そして、アスカはというと


 こちらははっきりとわかる。

 意識を失ってもう長い時間が経っていた。

 荒かった息はすでに弱弱しくなってきている。

 身体中から血が噴き出し、服は血に染まっている。

 包帯を巻いたり、布を押し当てて圧迫止血することは既に諦めた。

 何度も身体を拭いているが血が止まらないので全く意味がない。

 貧血を起こしているのか顔色どころか全身が嫌な色をしている。


 貴也は懸命に看護していた。

 が、身体を冷やしたり身体を拭いたりするくらいしか出来ないので当然良くなるわけがなかった。


「くそ!」


 思わず叫んでしまった。

 こんな状態ではもし貴也の血に効果があってもアスカの助かる見込みは……

 最悪の想像が頭を過る。

 そんな考えを振り払う為に自分の頬を思いっきり叩いた。

 少し気合いが入る。

 いま弱気になるわけにはいかないのだ。


 その時だった。


「なるほどな。どうやらお前は賭けに勝ったみたいだな」


 テンペストが笑っていた。

 無表情だった男の笑顔。

 そして、今まで何も言わずに様子を伺っていた男が、突然、口を開いたことに貴也は驚いていた。

 正直、こいつのことをすっかり忘れていた。

 それぐらい貴也は追い詰められていたのだ。


「って、いまなんて言った?」


 貴也はハッとなりテンペストを凝視する。

 目が合ったが彼は笑っているだけだ。

 そして、その言葉の意味に気付いた。

 貴也はそれどころではないと慌てて優紀に向き直った。


「優紀!」


 貴也は優紀の状態を確認する。


 意識はない。


 だけど、先まであれほど荒かった息は元に戻っている。

 額に手を当てると火傷するように熱かったはずなのに貴也の手の方が熱いくらいになっていた。


「熱が下がった」


 服をまくってみると身体中から噴き出た血も止まっている。

 心持ち斑点状に出来ていた内出血も治まっているようだ。


「その娘は快方に向かっている。もう死ぬことはないだろう」


 なぜだがその言葉を信用できた。

 貴也は優紀の無事を確信し、ホッと肩の力を抜くのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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