第百四十七話 起死回生の一手を思いつくが無双できない
あけましておめでとうございます。
今年初投稿です。
遅れて大変申し訳けありませんでした。
本年もよろしくお願いいたします。
「そんな」
貴也は愕然としていた。
アスカに抗体がないことは薄々感じていたが、それがこの世界の全ての人間に対してだとは思っていなかった。
しかも、すでに優紀まで感染している。
これはもう絶望的だった。
だが
「しかし、なぜ、そなたはまだ元気なのだ」
怪訝な顔をしてテンペストが語り掛けてくる.
その言葉に貴也はハッとなった。
そうだ。なんで今まで気付かなかったのだろう。
貴也にはまだ症状が出ていない。
普通に考えればアスカとの接触の多かった貴也の方が先に感染して、症状が現れるはずだ。
それはどうしてなんだ?
ただ、抵抗力が強いからまだ症状が出てないだけなのか?
でも、いくら抵抗力が強いと言っても抗体を作り出すことが出来ないウィルスに対して抵抗なんて出来るのだろうか?
それともテンペストの言っていることは偽りなのだろうか?
奴はこの世界の人間には抗体は出来ないと言っていた。
こいつの言うことを信じていいのか?
貴也を諦めさせるために嘘を言っている可能性はある。
会ってすぐさま信頼できるものではない。
ましてやこいつは過去にいくつもの都市を壊滅させた者だ。
天災とさえ呼ばれて恐れられている存在の言うことを真に受けて後手に回るのはいかがだろう。
でも、こいつの雰囲気は超然としている。
こいつから感じる気配は魔王とか神とかと同じ気配だ。
神にはあったことないけどそれくらいはわかる。
そんな存在がただの人間に嘘など言うだろうか?
「じゃあ、なんで俺だけ元気なんだよ」
唇を噛み締めながら貴也は声をこぼしていた。
その時だった。
「もしかして」
貴也はガバっと顔を上げる。
頭に一筋の光が走った。可能性という光が。
貴也はカバンの中を漁る。
焦っているのでなかなか目的のものが見つからない。
手が震え上手く探せない。
「テンペストはなんて言っていた。奴は『この世界の者には抗体は出来ない』と言っていただろう」
貴也は自分を落ち着けようと考えを口に出していた。
その間も手と目はあるものを探している。
もしもの時の為に色々持ってきていたのだ。
この世界は魔法もある。
だが、医学もしっかり進歩していた。
魔法を使えない人の為に鎮痛剤や麻酔薬などもある。
もちろん、注射で投与するような物も
「あった!」
やっと見つけた。
貴也は金属製のケースを開け、注射器を取り出す。
そこに一緒にあった薬液など一切気にしない。
そして、貴也は注射器を取り出して自分の腕に刺した。
医者ではないから一発で出来るか不安だったが、やってみる者である。
医学部の友達の実験台になった時に試しに自分でもやって置いて良かった。
「何をしているんだ?」
訝しむテンペストを無視して貴也は血を抜き出した。
そうだ。抗体が出来ないのはこの世界の者だけ。
地球からきた貴也なら
一縷の望みをかけて優紀に駆け寄り、彼女を抱き上げる。
「貴也、わたしのことは良いから早く逃げて」
荒い息を吐きながら潤んだ目でこちらを見上げてくる、優紀。
貴也はそんな彼女の言葉を無視して声を荒げる。
「そんな事どうでも良い! 優紀! お前、回復魔法はまだ使えるか」
「何言ってるの? 早く逃げ――」
「良いから黙って答えろ! 出来るのか? 出来ないのか!」
優紀は軽く息を飲んでいた。
ただ、貴也の真剣な表情を見て取ってコクリと頷く。
貴也はそれを見て大きく息を吸い込んだ。
「優紀。これに活性化の魔法をかけてくれ」
そう言って貴也の血が入った注射を差し出す。
優紀は黙って目をつむり、詠唱に入った。
もう何の疑問も抱いてないようだ。
いつもほとんどの魔法を無詠唱で行っているのに今の状態ではそれは無理なようだ。
苦しいのか、時折、眉間に皺を寄せながらも集中している。
そして、注射器が淡く光った。
どうやら、成功したようだ。
はっきり言って血に回復魔法が作用するかは不安だった。
物に対して回復魔法を付与するのは非常に難易度が高いのだ。
それを一発で成功させる優紀にこんな時でも嫉妬を覚える。
だが、今はそんな余裕はない。
これをどうするかだ。
「貴也。わたしに使って」
迷っている貴也に優紀ははっきりとそう言った
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからも宜しくお願い致します。




