第百四十六話 男の宣告を前に無双できない
今回は非常に短めです。
申し訳ありません。
「優紀!」
貴也は優紀に駆け寄って抱き起こす。
そして、この時、初めて気が付いた彼女の変調に
「貴様。一体、優紀に何をした!」
貴也は優紀を抱きかかえたまま男を睨み付け叫んだ。
「我は何もしていない。その娘が勝手に病にかかっただけだ」
ただ、ありのままのことを淡々と告げる、男。
そこに一切の感情は感じられなかった。
多分、この男は嘘を言っていない。
だけど、その反応に貴也の怒りが燃え上がる。
その時だった。
「貴也、ダメ……直ぐに逃げて」
熱い息を吐きながら優紀が声を絞り出す。
いつもの優紀からは想像も出来ない弱弱しい声に貴也は動揺していた。
貴也は彼女を抱く腕に力を籠める。
だが、反応は返ってこない。
既に麻痺が始まっているのか全身が弛緩している。
そして、触れているだけで熱が伝わってきた。
「優紀、しゃべるな!」
「逃げて、そいつはアブナ……」
「優紀!」
声を絞り出そうとしたのだが、優紀は最期まで言葉を続けることが出来なかった。
彼女はぐったりと目を閉じている。
どうやら気を失ってしまったようだ。
そんな時だった。
その男が口を開いた。
「もうその娘は助からない。この病は不治の病だ。感染した時点でその死は確定している」
「何を言うんだ。そんなことわからないだろう!」
「わかるのだ。我は幾度となくそれを見てきた」
気のせいか男の表情がわずかに曇った。
だが、感情の昂っている貴也がそれに気付くことはなかった。
「お前はこの病の正体を知っているのか」
「知っている。この病はデッドリーポイズンスパイダーの毒がウィルス化したもの。この病の本当に恐ろしいところはその毒性の強さや感染力、多様な症状ではない」
そこで男は一言言葉を区切る。
そして、重い口を開いて決定的なことを告げた。
「この世界の者には抗体が出来ない病なのだ」
お読みいただきありがとうございます。
最近、公私ともにバタバタで全く書く時間が取れていません。
書き溜めもなくなっている状態なので年末年始は更新が出来ないかもしれません。
申し訳ありませんが更新できませんでしたらご容赦してください。