表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/200

第十四話 店を立て直してハーレム無双できない。前編

 結局、ラインに紹介されてルイズの店に行くことになった。

 ラインの言う通り、彼女は現在、店を一人で切り盛りしている。


 と言っても。


「暇ですねェ」


「本当に暇ですねえ」


 時間はお昼時、飲食店なら絶好のかきいれ時だ。

 それなのに、この店にはお客さんが一人もいない。


「やっぱり、昼間の営業は止めた方がいいんじゃないですか。夜だけで十分利益が出てるし、それにこの店って採算度外視なんでしょ」


「それはそうなんですけど……」


 ルイズが不満そうに口を尖らせている。


 不満の理由はわかっている。

 多分、お客が来ようが、来なかろうが関係ないと言ったことが引っ掛かっているのだろう。

 それは料理人として断じて認められることではない。


 やっぱり、料理人はお客さんに料理を食べてもらってなんぼの物だ。

 いくら給料が貰えると言っても何もしないのではプライドが許さない。

 それに料理人とっての最大のご褒美はお客様の笑顔。

 それが得られないのは辛いことだ。


 だが、困ったことにここは高級料理店。

 こんな辺鄙な村にあるのが間違っているような店だ。


 ここを利用するお客様は主に、遺跡や魔王関連で訪れる国の重鎮や超一流冒険者。

 村人は年に一度の贅沢やプロポーズや告白などの大イベントにしか使わないし、使えない。

 そんな敷居の高い店なのである。


 隣の高級宿屋と共に迎賓館みたいな性質が強く、この地方の領主である公爵が経営しているのだ。

 そういう意味で普段は店を閉めていても問題ないのである。


「はあ、わたしの料理って美味しくないのかなぁ」


 お客さんが来ないのでルイズはかなり落ち込んでいるようだ。


「始めたばかりだから仕方がないじゃないですか。気長に頑張りましょうよ」


 そう言って慰めてみるが、全然心がこもってなかった。

 まあ、お客さんが来ない理由はわかっているから。


 はてさて、どうしたものか。



=====================================



 貴也がここの店で働くことはすぐに決まった。

 ラインの紹介であることでルイズは碌に面接をすることもなく決めてしまった。


 まあ、貴也にとってはありがたい事だったが、少し心配になってしまう。

 思わず、ちゃんと面接しなくていいの? 

 と聞き返したくらいだ。

 だが、笑顔で『大丈夫ですよ。それとも貴也さんは悪い人なんですか?』なんて小首を傾げて言われては反対することなどできない。


 マジカワイイ、ルイズたん


 それはひとまず置いといて。

 ルイズは貴也が入ったことを機にお昼も営業したいと言い出したのだ。


 それまでは仕込みなどの都合で一人では昼、夜の営業は厳しかったのだ。

 そこに貴也が入ってきたので調度良いと考えたのだろう。


「なんで昼も営業したいんですか?」


「お父さんにも言われたんですけど、わたしには経験が足りないと思うんですよ。今はどんなものでもいいから一品でもお客様に食べてもらって、その反応を見なければいけないと思うんです。それにこの店に来る人ってみんな決まってるんですよね。わたしの料理を味わってくれるんじゃなくて、この店で食事をするために来ているんです」


 彼女の言ってることは正しいのだろう。

 高級店とはそういう側面が強い。

 店の味もそうだが雰囲気や接客、それらを全て含めた時間を提供するのが役割だ。

 中にはご飯を食べにくるのではなく接待や契約などお仕事で来ている人も多いのだろう。

 村人なんかはプロポーズや告白のことで頭がいっぱいなっていて味なんて感じられない人も多いかもしれない。


 確かに、そんなお客様ばかり相手にしていては経験を詰めないかもしれない。

 まだ、20代半ばなのにしっかりとした考えを持っている娘だ。


 だけど、


「でも、ランチなんか始めても大丈夫なんですか? この店のランクだとお昼から食事で来れる人はいないんじゃないですか?」


「だから、ランチは値段を下げようと思ってるんです。食材のランクは下げられませんが、利益なしの原価なら、少し高いランチくらいでしょ。なんだったら、わたしの修業の為ですから赤字でもいいと思うんですよ」


 なんてことを言うんだろう。

 やっぱり、料理しかできない世間知らずのお嬢様だ。

 コストでガタガタ言われるのは勘弁してほしいが、赤字でいいなんて考えは責任者として問題外だ。


 貴也はイラッとしながらも、何とか抑えて一言。


「こんな重大なことを勝手に決めてはいけません。お父さんとこの店のオーナーの公爵様に確認してからにしましょう」


 貴也が言えたことはこれだけだった。


 結果は……OKだった。


 お父さん曰く

「いい経験になるだろう。赤字でもいいから頑張ってみろ」


 公爵様曰く

「別に好きにすればいい。それで優秀な料理人が育つなら万々歳だ。赤字があんまり続くようならその時は止めるように言おう」


 貴也の思惑と外れてしまった。

 でも、このままではどうしようもない。

 ルイズが喜んでいるところに冷や水を被せるようで嫌だったが貴也は電話を替わってもらった。

 

「従業員の貴也と申します。失礼ながら一言申し上げたくて電話を替わって貰いました」


「うん。なんだね」


 貴也は初の貴族との会話にいささか緊張している。

 汗が噴き出てきたのでズボンのポケットを探り、固いものに手が当たる。

 いつもの癖でポケットに入れてたっけ、これは保険だな。

 貴也は逆側からハンカチを取り出し話を進める。


「ランチタイムの件ですが、本当によろしいのですか?」


「うん? 何か問題があるのかね」


「はい。今回のランチ営業ですが、値段を下げて客層も幅広い層に対応することになると思います。そうなると店の格に合わないのではないでしょうか?」


「ふむ。言いたいことはわかるが、それが問題か?」


「はい。今までのご利用いただいていたお客様がそれを不快に思うのではないですか? 高級料理店は料理の味だけを楽しむ場所ではありません。その店の雰囲気をも楽しむものです。誰もが簡単に入れない店だからこそ利用したいと言うお客様は少なくないはずです」


「なるほどな。君の意見はわかった。だが、別に構わんよ」


「ふえ?」


「その店の目的は外から訪れる来賓の対応だ。来賓が来た時だけ食事を出してくれれば別に営業などしなくても良いんだ。その宿も店も元々はただの迎賓館で、遊ばせておくのはもったいないとここにいる料理長や前の宿屋の主が勝手に始められたものだからな。好きにするといい」


 公爵の物言いに貴也の頭には血が昇っていた。

 なぜか異世界に来てから喧嘩っ早くなっている気がする。


「では、勝手にしていいんですね」


「うむ」


「もう一度聞きます。昼の営業に向けて色々準備をしますが好きにしますよ」


「しつこい奴だな。領主のわしが好きにしろと言ってるんだ。何も問題はない」


「わかりました。その言葉しっかり覚えていてくださいね」


 貴也の声のトーンは低かった。そこに不穏なものを感じたのか公爵が


「もう一度君の名前を聞いていいかね」


「申し訳ありません。相場貴也と言います」


 その名前に聞き覚えがあったのか。公爵は嬉しそうに笑った。

 貴也も一緒に笑う。


「ああ、最近こちらにやってきたっていう異世界人は君だったか。いやあ、退屈していたんだよ。君が何をやってくれるか楽しみにしているよ」


「ご期待に沿えるかわかりませんが鋭意努力させていただきます」


 二人の笑い声が響き電話が切られた。

 こうしてランチの営業は決定したのである。



=====================================


 

 さて、どうしようか。

 公爵に啖呵を切ったがそうそう無茶をする気はない。

 だが、落ち込んだルイズを見ているとこのままにしておくのも忍びない。


 店の格式を落とさず、夜の営業に支障をきたさないようにあんまりお客様が来ないようにする。

 一番大切なのはバランスだ。


 貴也は腕を組んで考え込んでいた。


「難しいですね」


「なにが難しいんですか?」


「夜の営業に差し支えないようにお客様の数をほどほどに抑えることがですよ」


「夜の営業を気にしなければお客さんを一杯に出来るんですか?」


「別にそう難しくは……」


 目の前に目をキラキラと輝かせているルイズの姿があった。

 貴也は自分の考えが口から出ていたことに気付き頭を抱える。


「貴也さん。出来るんですか。そんなこと」


「えっ? 何のことですか?」


「この店をお客さんで一杯にすることです」


「え? そんなこと言いましたか?」


 無駄だと思ったが惚けてみた。

 そんな貴也の反応にルイズはショボンと肩を落とし軽く涙目になっている。


「やっぱり、無理なんですね。どうせ、わたしの料理じゃ――」


「そんなことないですよ。ルイズさんの料理は美味しいし、手なんていくらでも」


 女の子の涙に免疫のない貴也は狼狽える事しかできない。

 だから、不用意な発言が口をついてしまった。


「本当ですか?」


 パッと華が開くように笑顔になったルイズ。

 この娘、わざとやってるんじゃないだろうなあ。

 と思いながらも渋々首を縦に振った。


 さてどうなるか、ここからはやってみないとわからない。

 ここからはルイズの腕と貴也のアイデアにかかってくる。

 貴也は今後の方針を語って聞かせた。


「願わくは、あんまり流行ってほしくないなあ」


 なんてことを独り呟いていた。



====================================



 結果、大忙しである。

 やっぱり、やるんじゃなかったと後悔する。


 まず、貴也がやったことと言えば、ランチタイム帯のお弁当や飲食店の調査。

 これは比較的簡単だった。

 マリアに一言聞いただけ。


 価格帯からお薦めのお店、弁当をすぐに紹介してくれた。

 貴也はルイズと一緒にお店を食べ歩いた。


 そして、わかったことは


 値段は700~1200ギル。

 昼の休憩時間は決まっているのですぐに出てきて、速く食べられるものがいい。

 冒険者や農家などの肉体労働系の人が多いので売れ筋はガッツリ系。

 昼間は村の中にあまり人がいなくて、朝早くお弁当を買っていくか自分で作っていくのがほとんどだと言うこと。

 お弁当は一口サイズで手掴みやフォークだけで食べられるものが好まれる。

 外でも温かい食事が食べたいのでエネルギーキューブで温めることができる物がいい。


 以上が調査の概要だ 


「ということを踏まえてどんな店にするか決めましょう」





まとめると文章量が多くなりそうだったのでここで区切りました。

初の前後編です。

レストランの話はルイズの話は次で終わります。終わるよね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別作品の宣伝です。
カワイイ男の子が聖女になったらまずはお尻を守りましょう
良ければ読んでください。

あと宜しければ下のリンクを踏んで投票していただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ