第百三十九話 からくりを説明するが無双できない
「どうやら、上手く行ったみたいだ」
貴也は肩で息を吐きながら力を抜く。
だが、直ぐに気を取り直した。
ここはまだ戦場だ。
油断できるような時ではない。
貴也はナイト種に視線を送る。
ナイト種は腹を縦に裂かれて崩れ落ちている。
あの傷は間違いなく致命傷だろう。
傷口からは内臓がこぼれ、体液がとめどなく流れている。
そんなナイト種の視線がこちらに向いた。
なぜだ、と言っているような気がした。
それはそうだろう。
貴也にはナイト種を傷付ける力はなかったはずなのだ。
もし、こんなことが出来るのならナイト種はとっくに死んでいたはずだから。
力を出し惜しみする意味がない。
そんなことを考えているのだろう。
貴也でもそう思う。
だが、今の方法は貴也としてもこれはやる予定ではなかったのだ。
貴也はスラリンか優紀が来るまで時間稼ぎをするだけのつもりでいた。
しかし、思いのほかナイト種が強くてそんな余裕がなくなったのだ。
そう命を賭けないといけないくらいに
実験もせずにぶっつけ本番だなんて今までやったことがない。
貴也は『石橋を叩いて、叩き過ぎて壊す』タイプなのだ。
理論上の成功は確信していたが実際にやってみないと出来るかどうかはわからない。
そんな不確かなことに命をかけるようなことはしたくなかった。
何をやったのかというと。
この世界には魔力という理不尽なものに支配されている。
高ランクの魔物は身体に魔力を帯びている為、こちらも魔力を帯びた攻撃をしない限りダメージを与えられない。
そして、ナイト種はBランク。
これは毒の特性で危険度が上がっているのだが、それを差し引いてもCランクだ。
貴也のありったけの魔力を使っても致命傷を与えるには程遠い。
それは先程の戦闘でも明らかだった。
ならどうしてナイト種の腹に剣を突き立てられたのか?
魔力が無ければあるところから持ってこればいいのだ。
そう貴也はその魔力を借りることにしたのだ。
貴也は剣の柄から手を放し、そこに包まるようにしていたスラリンを見る。
「サンキュウ。助かったよ」
そう言うと、スラリンは元の形状に戻って地面に降り立った。
いつもの十分の一程度の大きさのスラリンがピョコピョコと跳ねている。
本当にスラリンがいて助かった。
そうスラリンに力を借りたのだ。
スラリンは魔力操作に長けている。
通常、魔物は物に魔力を流すようなことは出来ない。
人間型の魔物は武器を持って戦うことがあるがそれは非常に稀なのだ。
だが、うちのスラリンは違う。
こんな不定形生物なのに物に魔力を流すことが出来るのだ。
それが出来るようになったのが、カインが鍬に魔力を流して畑を耕していたのを真似してというのが何ともスラリンらしいが。
そう言えば魔法も水撒きの為に覚えたんだよなあ。
本当にこのスライムは凄いのか凄くないのか分からない。
と言う訳で、スラリンの分裂体を剣の柄に仕込んで魔力を流して貰った。
それを貴也が振るってナイト種を倒したわけだ。
この方法は前々から考えていた。
ロボットで身体能力を補い。
武器へ流す魔力はスラリンを使う。
これが貴也の構想の一つだ。
まあ、これだけではないのだが……
そんなことを考えている間にナイト種の目から光が消えた。
どうやら死んだようだ。
「ふう」
今度こそ貴也は一息ついて周囲に視線を巡らす。
スラリンは最期の一体を翻弄していた。
小さく圧倒的に素早さが上のスラリンにナイト種は攻撃を当てられず振り回されている。
優紀とクイーンとの激闘は続いているが、明らかにクイーンが弱っている。
優紀の勝利は間近だろう。
どうやら決着はついたようだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




