第百三十五話 二対二になったが無双できない
スラリンの実力を知られる前に一匹仕留められたのは幸運だった。
もし不意打ちが成功せずにスラリンの実力を知られていたら三対二で非常に厳しい闘いになっていただろう。
負けるとは思ってないが。
とはいえ、二対二になったからと言って油断が出来る者でもない。
スラリンは貴也より素早く、魔法も使え、何よりナイト種に致命傷を負わせられる攻撃力を持っている。
一対一なら余裕があるんじゃないかと思われるが、残念ながらそうとも言えない。
小さく、素早いスラリンに攻撃を当てるのは大変だろうが、当たればスラリンもタダでは済まない。
実はスラリン。
出会った頃に予想した通り、打撃にはかなり高い耐性があるが、刺突や斬撃が弱点なのだ。
そして、ナイト種にはあの鎌のような爪と杭のような爪がある。
それに問題はあの毒だ。
貴也には効かない毒でもスラリンは別だ。
あの猛毒を受ければただでは済まない。
掠り傷が致命傷にさえなるのだ。
ついつい雑魚扱いしてきたが、デッドリーポイズンスパイダーの脅威はそこにある。
う~ん。やはり、ここは貴也が前に出るべきだろう。
相手の注意をひいて攻撃を捌きながら、スラリンには遊撃として牽制と攻撃を任せる。
そう判断して視線を送る。
いつの間にか肩に乗っていたスラリンは了解したというように一跳ねした後、弾けるようにっ右に。
貴也も思いっきり左に跳んだ。
「あっぶねえ」
ナイト種の一体が体当たり気味に飛び込んできたのだ。
そして、逃げる貴也達に爪の鎌を振り回してくる。
貴也は何とか躱しきり、ホッと一息ついた所に
「って、こっちもか!」
毒液の弾が貴也に直撃した。
貴也は毒液まみれになりながら、その勢いに負けて吹き飛ばされる。
上手く着地することも出来ずゴロゴロと転がっていき、何とか止まったのは5m程先だった。
遠くまで飛ばされたことが幸いしたのか、相手がもう倒したと油断したのか、追撃は来ない。
貴也は素早く立ち上がると顔を顰める。
「くっせええ!」
毒は効かないが匂いは何ともならなかった。
毒液は吐瀉物のようなすえた匂いがして吐き気を催す。
それを堪えながらスラリンを探す。
いた。
スラリンは二体の攻撃を受けていた。
嵐のように縦横無尽にふるわれる鎌の斬撃をスラリンは躱し続けている。
逃げに徹していないところを見るとまだ余裕がありそうだ。
そうこうする内に一体が上体を起こし始めた。
あの予備動作には見覚えがある。
多分、二人掛かりでも攻撃が当たらないことに業を煮やして四本足で攻撃するつもりなのであろう。
「スラリン。君はどこまで耐えられるかな」
そんな場違いな感想を漏らしていた時だった。
スラリンと目がしっかりあった。
「キュキュキュ~~~!」
多分、「お前も働け!」とか言っているのだろう。
スラリンの怒りが伝わってくる。
「そうだね」
貴也は剣を持って突撃した。
そこでナイト種は貴也が無事なことにやっと気づいた様子だ。
だがもう遅い。
今更振り返っても間に合う物か!
貴也は素早さを活かして体当たり気味に突きを繰り出す。
いま使える魔力を精一杯込めた一撃。
それを尻の穴に!
しかし、残念ながら尻の穴には決まらなかった。
腹を捩って避けられて狙いが外れる。
剣は腹を掠めて言ってしまった。
かすり傷を負っただけでナイト種にはほとんどダメージはない。
「チクショウ! もう少しだったのに」
貴也はそのまま走り抜けて距離を取る。
スラリンも貴也の肩に乗り、「ドジ、間抜け」と責めるようにピョンピョン跳ねていた。
貴也達は追ってこないナイト種に振り返り剣を構え直す。
さあ、仕切り直しだ。
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