第百三十四話 ナイト種三体を相手するが無双できない
「スラリン。まずはあの三体を引き離すぞ」
「キュ、キュウ」
既に優紀はクイーンの右側に回り込み剣を振り下ろしていた。
ナイト種に囲まれながらでは流石の優紀もクイーンの相手は難しい。
だから、クイーンの巨体を上手くナイト種との間に挟むような位置取りをしている。
貴也達はそんなナイト種の方に向かって奴らを惹きつけるのが役目だ。
だが。スラリンの返事を聞いた貴也は方向転換。
クイーンに向かって跳び上がり剣を振り上げる。
スラリンは貴也の行動に戸惑っているみたいだ。
だが、直ぐに気を取り直してナイト種の元に向かう。
そして戸惑っているのはスラリンだけではなかった。
クイーンの知能は高く人間の言葉がわかるみたいだ。
それが今回は裏目に出ていた。
貴也の言葉に惑わされて完全な不意打ちに
クイーンは無防備だった。
八つあるクイーンの目のいくつがこちらを見ている。
そしてはっきりと目が合った。
なぜか、そこに驚きの色があったのを感じ取れた。
だが、そんなことを構っている余裕はない。
その内の一つに貴也は剣を振り下ろした。
「キシャあああああ」
クイーンが雄叫びを上げる。
いくつかの足が貴也に向かってきたが、優紀と戦っている状態ではうまく迎撃など出来るわけがない。
そこも計算通りだ。
初撃は意外にも貴也だった。
まあ、クイーンには何のダメージも入っていなかったけど
目という無防備なところを完全不意打ちで攻撃しても貴也の魔力では傷一つ付けることは出来なかった。
ナイト種の目は抉れたのにと少し自尊心が傷付いていた。
まあ、言わないけど
「もう! 貴也。余計な手出しは無用だよ」
「もうそんなことしねえよ」
そう言いながらニヤリと笑う。
その言葉は嘘偽りのない本音だ。
だが、クイーンには貴也の真意を知る術はない。
八つあるクイーンの目は貴也の含み笑いをきっと捉えているだろう。
これでクイーンは頭のどこかでこちらを警戒することとなる。
これで少しは優紀の援護になるはずだ。
まあ、そんなもの副次的なものだが――
「おっと! 計算通り」
三体のナイト種が雄叫びを上げて貴也に向かってくる。
同胞の亡骸を見ても怒りを抑えていたのにクイーンの目を抉ろうとしたのが余程腹に据えかねているのだろう。
脇目もふらずに一目散に貴也に向かってきた。
だから
「スラリン!」
貴也の声にスラリンが反応する。
たかがスライムとナイト種は侮っていたのだろう。
全くスラリンのことなど目に入っていなかった。
だが、うちのスラリンはタダのスライムではないのだよ。
陰から現れたスラリンはナイト種の横から躍りかかる。
そうドリルモードで
錐揉み飛行しながら一匹のナイト種の腹に体当たりしたスラリン。
彼は当たった瞬間にさらに回転力を上げた。
「キシャあああああ」
痛みから絶叫を上げるナイト種。
腹から血しぶきを上げ、スラリンがその腹を貫通していった。
スラリンの渾身の一撃でナイト種が絶命する。
貴也もここまで上手く行くとは思ってなかったが、そこは顔に出さない。
思いっきりどや顔をしておく。
そして、なにが起こったのか分からずに他の二体の動きが止まっていた。
貴也はその間に素早く距離を取った。
スラリンも貴也の元に戻ってくる。
貴也は素早く生活魔法で水を生み出してスラリンの身体に付いた返り血を洗い流した。
「スラリン、念のため解毒魔法をかけておけよ」
「きゅ、きゅう」
返事をしたスラリンが光を放つ。
本当に器用なスライムだ。
既にこいつは回復魔法、それも上位のものまで使いこなしている。
もしかしてこいつがラスボスなんじゃねえだろうな、と戦闘中なのに場違いなことを考えている貴也だった。
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