第百三十話 ナイト種と戦ってみるが無双できない
「キシャあああああああ!!!」
目の前には巨大な蜘蛛がいた。
いままでの通常種もデカかったがこれまでのどの蜘蛛よりも大きい。って言うか桁違いだ。
足一本が貴也と同じくらいある。
「無理、無理、無理、無理」
貴也は一目散に逃げだした。
幸い、ナイト種が待ち構えていたところは広間になっていて逃げる場所には事欠かない。
タダ、入り口の前には優紀が待ち構えていて通してくれないし、出口はナイト種が糸で塞いでいる。
出口から逃げようにも糸をどかしている間に攻撃されてしまうだろう。
結果
「貴也。覚悟を決めないと先にあんたの方がバテちゃうよ」
優紀の暢気な声が背中から聞こえる。
「うるせえ、そんなことはわかってるんだよ」
そう思って後ろを振り返る。
「キシャあああああああ!!」
口から涎を垂らすかのように毒液をまき散らしながらナイト種が追ってくる。
幸い、優紀が言うように素早さは貴也の方が上のようで逃げきれている。
貴也は爪がギリギリ届かない距離をキープしながら逃げていた。
無理、無理、無理、無理。
マジキモイ。
あんなのと戦うなんて考えただけでもおぞましい。
だけど、いつまでもこうしてても仕方がない。
貴也は覚悟を決めて振り返り剣を抜く。
いきなりの行動に戸惑ったのかナイト種からの攻撃が来ない。
貴也はその隙を見逃さず、すれ違いざまにジャンプ。
目を目掛けて剣を振り下ろした。
「かってええ」
軽く手が痺れている。
身体強化に回していないありったけの魔力を込めて放った一撃。
不意打ちの上、魔力障壁があるとはいえむき出しになった目には防御力はほとんどないだろう。
だから何とか潰すことが出来た。
目からどす黒い体液が脈動するように吹きだしている。
デッドリ―ポイズンスパイダーの血は猛毒なのであれを浴びただけで普通の人は死んでしまう。
まあ、貴也には効かないんだけど。
「キシャああああああああ!!!」
いままで以上の雄叫びを上げるナイト種。
目を一つ潰されて怒り心頭と言った感じだ。
残った目でこちら睨み付けてくる。
それどころか
「うわあああ。マジキモイ。勘弁してよ」
目が二つしかないと思ってたらどうやら閉じていただけだった。
ナイト種には八つの目があり、それが全てこちらを見ている。
怒りで瞳を憎悪に赤く輝かせて。
「キモ。マジ怖いって」
そう言いながらも貴也は構えを崩さなかった。
そして
「その攻撃は見飽きてるんだよ」
貴也は右に飛んだ。
ナイト種が立ち上がり尻をこちらに突き出してきたのだ。
この動作は糸を出す前兆。
こんな大きな予備動作があれば躱してくれと言っているようなものだ。
貴也の元いた位置に糸が着弾。
そして、周りの地面が音を立てて煙を出している。
なんか地面の色が変わってきて溶けているような……
よく見ると、その糸は通常種が吹きだしているような白ではなく毒々しい紫のような色をしていた。
あれは危ない。
「げっ、もしかして酸みたいな攻撃なの?」
ただの毒なら貴也には効かないから良いけど、酸なら話は変わってくる。
毒が効かないだけで酸を浴びたら貴也は溶けてしまう。
「優紀! 聞いてないぞ。糸に酸が含まれてるなんて!」
「心配しなくても酸じゃないわ。タダの毒だから試しに攻撃受けてみなさいよ」
「バカ言うな!」
貴也は大声を張り上げていた。
なんてこと言うんだ。もし触って指が溶けたらどうしてくれるんだ。
それに触れたらあの粘り着く糸に絡み取られて身動きできなくなるだろう。
そこにあの巨大な爪が……
嫌な想像をしてごくりと息を飲む。
そして、いやな想像をなぞるように目の前を鎌のような鋭い爪が通過していった。
「うおおおお。あぶない」
「貴也。油断しているとやられるよ」
優紀に怒鳴り返してやりたかった。
が、ナイト種に間合いを詰められて爪の連撃を躱すのに精一杯だった。
その時だった
「って、手数増やすとか止めて!」
蜘蛛の足は八本ある。
さっきまでは一番前の二本の足で攻撃してきたのだが、ナイト種は上体を軽く起こしてその次の足。
合計4本の足で攻撃してきた。
鎌のような爪があるのは一番前の足だけだったが、他の足にも鋭くハリのように尖った爪が付いている。
いや、あれはハリというより杭だな。
あんなのに刺されたら……
身体の真ん中に大穴を開けられたところを想像して貴也は身震いする。
貴也はそれでも4本の攻撃を紙一重でよけ続ける。
そして
「嘘だろ」
ナイト種がさらに上体を持ち上げた。
「あはははは」
あいつ六本の足で攻撃する気だ。
もう笑うしかない貴也だった。
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