第百二十四話 遭難地点に到着したが無双できない
「ケビン。ケビン。起きてくれ」
「うお! 何か起こりましたか?」
ケビンがリクライニングさせていたシートから跳び起きた。
その姿に苦笑しながら貴也は
「目的地の近くに着いたから起こしただけだ」
「えっ、もうそんな時間なんですか?」
ケビンは疲れていたのか出発してから今までぐっすり眠っていた。
いくらリクライニングするシートと言っても寝心地の良い物ではないのに8時間の熟睡である。
余程疲れていたのだろう。
おかげでこちらは仮眠が取れずにいた。
まあ、無茶を言って付き合わせているので文句は言えないのだが
「それにしても何もないところですね。こんなところになんの用事があって来たんですか?」
「聞かない方が良いと思うぞ」
「ここまで付き合わせておいてそれはないでしょう?」
ジト目でケビンが見てくる。男にジト目されても需要はないのだが……
貴也は溜息を吐きながら説明した。
「仕方がないな。実はアスカが乗ったヘリが墜落したらしく、行方不明になっているんだ。その探索に来たんだ」
「アスカさんって、もしかしてこの前来てた薔薇騎士団の?」
「そうだ」
素直に認めるとケビンの顔が蒼白になっていく。
「薔薇騎士団の団長が行方不明ってかなりやばいことなんじゃないですか? 狂信者集団のトラブルに首を突っ込むなんて……オレ、まだ死にたくないですよ」
「だから聞かない方が良いって言っただろう?」
貴也が肩を竦めて見せるとケビンが泣きそうな顔になっている。
思わず貴也は吹き出してしまった。
「笑い事じゃないですよ」
そんな貴也を見て拗ねるように唇を尖らすケビン。
貴也は彼を宥めながら
「心配するな。お前を巻き込むつもりはない。お前に捜索活動に参加しろなんて言わないし、二、三日近くの村で待機してもらって、こちらから連絡が無ければ公爵領に帰って貰っていい」
「帰りはどうするんですか?」
「別に急ぎの用事もないし適当に足を見つけて帰るさ」
そう言って笑う貴也を訝しむような目で見る、ケビン。
貴也は誤魔化すように話題を変えた。
「それにしても本当に森の中に墜落したんだなあ。着陸する場所なんてどこにもないぞ」
山を背にした鬱蒼とした森が続いている。
たまに森の切れ間が見えるが、ヘリが無事に離着陸できるようなスペースは見当たらない。
そんな風に森を見ているとケビンが
「貴也さん。あそこ。少し大きなスぺースがあります。気が何本かなぎ倒されたような跡があるからあれが墜落地点じゃないですか」
ケビンが指さす方に視線を向ける。
確かに資料にある座標とも一致する。
間違いなくあそこだろう。
森の一部が何かに削られるようにして細長いスペースが出来ている。
幸いにもこの世界のヘリの動力はエネルギーキューブなので火は出なかったようだ。
そして、既にアスカが乗っていたヘリはジルコニアによって回収されている。
だから、機体から墜落の原因を探ることは出来ない。
その時にアスカの捜索も行われたらしいが彼女の身柄は確保できなかったそうだ。
ただ、彼女の身柄が発見されなかったのが、ヘリから身を投げ出されて行方不明になったのか、ジルコニアの手から逃げ出して見つかってないのかは不明だ。
貴也としては後者の確率が高い気がしている。
でも、あの気性を考えるとただ逃げるなんて真似をするかなあ。
そんなことを考えながらケビンに確認を取った。
「そうだな。ケビン。あそこに着陸できるか?」
「無理ですね。スペースが少なすぎます。無理をすれば降りられますが、この機体じゃ再離陸するのは無理でしょう」
「そうかあ」
貴也は少し考え込んでいる。
そこに優紀がやって来た。
「ふわあああ。随分、長いことホバリングしているけど目的地に着いたの?」
大欠伸しながら優紀がコックピットに入ってきた。
彼女はヘリが出発してから後ろのキャビンでずっと寝ていたらしい。
静かなのは良かったが、一人操縦席で緊張している貴也の気持ちを汲み取って話し相手になろうとは思わないものかなあ。
なんてことを思ってしまう。
まあ、そんな気遣いが出来るような奴じゃないことを貴也が一番わかっているのだが……
「おはよう」
「うん。良く寝たよ」
伸びをしながら応えるユウキには貴也の皮肉など全く通じていなかった。
貴也は大きな溜め息を吐く。
そんな貴也を気にすることなく優紀は話を続ける。
「それで目的地には着いたの? ここがサラボネ山脈の麓付近ならあまり一ヶ所にとどまっていると危ないわよ」
その時だった。
地上から何かがヘリの横を通過していく。
「「うわああああ」」
ケビンと貴也が悲鳴を上げていた。
ユウキはそんな二人を見て肩を竦めている。
「ここはB級魔物もいる危険地帯だからね。これくらいの高度でも地上から狙われるわよ」
「そういうことは早く言え!」
貴也が叫んでいる間にケビンが高度を上げていた。
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