第百二十三話 空の旅は意外に快適だったが無双できない
貴也達は一度、領都の空港にあるヘリポートで給油とフライトスケジュールの調整を行ってから、また、空に飛んでいた。
流石に国外に出るのに何の手続きもなしでは都合が悪い。
この世界でも他国に無断で侵入すればタダでは済まない。
最悪撃墜されるだろう。
戦争中のジルコニアなのでこの辺の手続きに手間取るかと思われたのだが、とんとん拍子にことは運んだ。
ジルコニアが戦闘地域以外での交通制限をしていないのは本当らしい。
これには物資の輸送や支援者を迎える意図があるのだろう。
その証拠に冒険者などが続々と集まっているそうだ。
まあ、大半が金目当てなのだろうが中には正義の名のもとに本気で魔王を討とうと思っている者もいるそうだ。
本当に世の中にはバカがいる者である。
そんなことを考えながら貴也はヘリに進路を入力していく。
このヘリの操縦系は貴也の知識にあるものと若干違ったがすぐに理解できた。
というより、かなり簡単に操縦できるように出来ている。
離発着と突発時以外は行き先を入力すればあとは自動でヘリが飛んでくれるのだ。
貴也は鼻歌交じりに操縦の仕方を確認しいく。
そんな貴也を驚いた目で彼は見ていた
「貴也さん。本当にヘリの操縦経験はないんですか」
「ないよ。ただ、この世界に来る前にロボット開発をしていたからね。操縦系の参考にあらゆる乗り物のコックピットの構造は頭に叩き込んであるんだ。だから、知識はある。まあ、操縦桿の操作やローターの出力調整なんかは感覚が物を言うからそこは厳しいけどね」
そう言いながらも操縦桿を右に左に操作して感覚を確認している。
そんな貴也に呆れるような目を向けてくる、彼。
「えっと、確かケビン君だったけ?」
「僕の名前を知ってるんですか?」
「兵器開発局には何度も言ってるからね。しゃべったことのある人の名前くらいは一通り覚えているよ」
名前を憶えられていることに驚くケビンに向かって苦笑しながら貴也は操縦を楽しんでいた。
そして
「そろそろオートパイロットに任せるから寝てていいよ。何かあったら起こすから」
そう言いながらつまみを操作してオートパイロットに移行する。
計器をオートパイロットに移行したのを確認すると貴也はホッと胸を撫で下ろした。
流石の貴也でも平常心でヘリの操縦をするのは難しい。
墜落したら間違いなく生命はないのだから。
そんな貴也にケビンが
「それでどこに行くんですか? まだ行き先を聞いてないんですが?」
「ああ、知り合いがちょっと事故に遭って行方不明になってね。その捜査と救出をしに行くんだよ」
「フライトスケジュールの時に税関の人と話してましたけど国外に行くんですか?」
「そうだよ。ホント、無事手続きが済んでホッとしたよ。あはははは」
と笑って誤魔化そうとしたがケビンの目が疑わしい物に変わっていた。
存外、この男、勘が良いのかもしれない。
まあ、本当に勘が良かったら貴也に連れ去られる前に逃げていただろうけど。
そして
「もしかしてジルコニアに行くとか言いませんよね」
「…………」
流石に軍関係者だ。
山奥の鉱山からヘリで飛んできていたのに情報をしっかり持っていたようだ。
貴也の無言が返事になっていたのかケビンの顔色が真っ青に染まっていく。
「勘弁してくださいよ。戦争なんて御免ですよ。オレは軍籍ですけどあくまで技術者なんですから」
そんな彼に貴也は真っ直ぐに目を向けて話した。
「まあ、騙したように連れてきたのは悪かったけど心配はいらない。これから行くところは戦場からかなり離れているし、君にはヘリで待機してもらう予定だ。オレ達を送って貰ったらあとは近くの空港で一週間ほど待っててくれればいいから」
「本当ですか?」
「嘘を言っても仕方がないだろ」
貴也はお道化て肩を竦めて見るとケビンは呆れたのか大きな溜め息を吐いた後
「少し寝ます」
そう言ってシートを寝かせて眠りだした。
渋々とはいえ納得して貰えて幸いだ。
貴也はケビンに心の中で謝罪しながら視線を前に向けた。
空は赤く染まりつつある。
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