第百二十二話 とりあえず巻き込んでみるが無双できない
「貴也さん。出迎えてくれたんですか?」
バリバリとまだ止まりきっていないヘリのローター音が響く中、ヘリから何人かが降りてくる。
そう、兵器開発局の面々である。
彼等は無残に瓦礫と化したヘリを自力で修理して帰って来たのだ。
それを流石というべきか、バカというべきかはこの際置いておく。
いまはこのチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
「良く帰って来たな。この中でヘリの操縦できるのは何人いる?」
貴也の言っていることがわからないのか、キョトンとした顔で周りを見渡しながら三人ほどが手を上げた。
「よし。じゃあその三人はじゃんけんをしよう」
貴也の命令に彼等は素直に答えてくれた。
兵器開発局という戦場とは縁のない物たちだがそれでも軍人なのだ。
上官の命令は絶対なのだろう。
まあ、貴也は上官どころか、今は公爵家の家人ですらないのだがそれは言わなければ分からないことだ。
貴也はニコリと満面の笑みを浮かべながら促す。
貴也がこういう表情をするときはろくなことを考えていない時だとわかっているのだが、それに逆らうことが難しいということも理解している。
オレ達ヘリの操縦できなくて良かったとホッと息を吐く面々の中で三人は渋々じゃんけんを始めた。
そして
「よし勝った君にはご褒美だ。わたし達と同行する栄誉を与えよう」
「ええ、どういうことなんですか?」
「いまからある場所に調査に向かう予定なんだが足が無くて困っていたんだ。そこに都合よく君たちが返ってきた。うん。グッドタイミングだ。お前らがヘリを壊したのも神がこのためにさせた事かもしれないな。では行くぞ」
そう言ってそいつの首根っこを掴んでヘリに向かう、貴也。
ユウキもその後についてくる。
「ええ、そんな僕は今帰って来たばかりですよ。あれから徹夜でヘリを修復してその足で飛んできたんですから少し寝かせてくださいよ。二日貫徹の上でヘリの操縦は無茶ですって」
「心配いらないってこのヘリは複座だろう。離着陸はお願いするけど、それ以外はオレが見ておく。オートパイロットもあるから問題ないだろう」
「何無茶言ってるんですか。ヘリの操縦を甘く見ないでください。乱気流なんかに巻き込まれたらどうするんですか?」
「心配するな。操縦系の知識はお前以上に持っている。お前を起こすぐらいの間はオレの知識でカバーして見せるよ」
いつになく強気な貴也の発言に逆らうことなど出来ないことを悟ったのかトボトボと自分で歩き出す。
もう買われて行く子牛状態だ。
貴也の頭の中にはあの名曲が流れている。
そんな中、バルトが慌てて貴也に耳打ちしてきた。
「貴也さん。このヘリは公爵家の所有物ですよ。問題になりませんか?」
「心配いらないよ」
そう言ってタブレットを見せる。
そこに書かれていたのは公爵家の資材一覧、公爵軍のヘリの項目。
「なるほど」
このヘリの機体番号が書かれているところに記載されていたのは『廃棄』だった。
流石のエドも分解されたヘリが元通りになるとは思ってなかったようだ。
既に廃棄処理されている機体をどうこうしても問題はないだろう。
最悪、廃棄品を盗んだことになるかもしれないが、そこのところはエドが上手くやってくれるはずだ。
その辺も見越してこのヘリを廃棄処理していたのなら大したものだ。
まあ、考え過ぎだとは思うけどクロードならそれくらいやって見せるような気がする。
と言う訳で今度こそヘリに乗り込もうとするがバルトがもう一言
「彼のことはどうするのですか?」
ああ、そうだな。
巻き込んでしまって彼には申し訳ないけど
「まあ、問題が起こったら、オレと同様で退職していたことになるんじゃないかなあ。まあ、彼にはヘリに残って貰うつもりだから大きな問題にはならないと思うよ。とりあえず、エド様に報告だけしといて」
そう言い残して貴也はヘリに乗り込んだ。
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