第百二十一話 バカなこともやって置くものだけど無双できない
今日は夕方更新が難しいので朝更新です。
来週はいつも通りです
「やってくれますね」
貴也は脱帽していた。
定期的に振り込まれていた額も少ない物ではなかったが、それだけではこのような大金にはならない。
最後に退職金という名目で500万振り込まれていた。
多分、これから調査に向かうのに資金が必要だとう用意してくれたのだろう。
こんな短期間の執事見習いに500万の退職金というのはこの世界でだって異常なことだ。
貴也はエドたちにもう一度感謝して皆に向き直った。
「とりあえずこれだけあればヘリはチャーターできるでしょう。問題はパイロットですね」
「やっぱりわたしもついていきましょうか?」
そうバルトが提案してくる。
彼は生粋の研究者だが、研究に必要だと感じたものには妥協を見せない。
だから、ありとあらゆる資格を持っている。
未開の地に調査に向かうことがあるだろうと船やヘリ、飛行機の操縦技術を取得しているのもそのためだ。
本当にこの研究バカの情熱は度を越している。
だが
「ダメです。これから向かう所は危険地帯、戦闘は避けられません。それにジルコニア軍や最悪、聖騎士達と戦わなくてはいけません。戦闘職でないバルトでは足手まといです」
「確かにわたしは戦闘職ではありませんが秘境の地への調査などで魔物との戦闘経験もあります。そこらの冒険者をやってる魔法使いよりよっぽど強いですよ」
まあ、そうだろうな。
実際、真面に戦えば100戦全敗する自信がある。
冒険者登録すればA級は無理でもB級くらいはすぐなれる魔法使いだ。
だが
「それにまだオレがお願いしていた研究が残っているでろ? それを早く仕上げて貰わないと困るんだよ」
何となく不安を感じていたのだが今回のことでそれが大きくなった。
早めにあれを実用化しないとならない。
それにはバルトが不可欠なのだ。
「ですが……」
まだ何か言いたそうなバルトだったが、貴也の一言がその口を無理やり塞いだ。
「って言うか、バルトは国外には出られないだろ。軍事機密だけでなく様々な秘匿技術の開発者を国が黙って送り出すと思うか? いまは公爵様の庇護下にあるので自由にしてられるけど、この城から出れば拉致監禁、最悪、殺されますよ?」
「…………」
知っていたことだろうに言葉を失っていた。
そう、バルトは嫉妬と厄介払いで放逐された挙げ句私財すら奪われて路頭に迷っていたのだ。
エドが救いの手を差し伸べてなければ多分殺されていただろう。
この城での生活が自由だったのでそんなことも忘れていたようだ。
バルトはシュンとしている。
バルトは渋々動向を断念してくれたが、問題は全く解決していない。
そこに
「じゃあ、僕が行きます。こう見えて僕もヘリの操縦が出来るんですよ」
そんなことを能天気に言っているバカを貴也は蔑んだ目で見ながら無視した。
「優紀は操縦できないのか?」
「無理よ。ヘリは何度か乗ったことあるけど流石に操縦はさせてもらえなかったから」
そりゃそうだよな。
「そう言う貴也は?」
「オレも無理だな。どうやって操縦すればいいかは知っているけど、知識と技術は違うからなあ」
貴也は溜息を吐いていた。
ロボット開発をしていた時に操作方法を模索する際に様々な乗り物の操縦系の調査はしていたが流石に操縦訓練まではしていなかったのだ。
あの時、習っておけばとも思ったがこんな事態に陥ることなど想定外だ。
あの頃の自分に文句を言っても仕方がないだろう。
「あのお、僕、操縦できるんですけど」
無視されたのが応えたのか涙目で手を上げている、アル。
そんなアルに貴也はイラッときていた。
「あのなあ。お前に頼めるわけないだろう。何のためにオレが執事見習いを止めたと思ってんだ。公爵家とは関りがないことにしたいからだろ。お前が一緒にいたら台無しじゃないか。って言うかお前なんでこんな所にいるんだよ。腐っても公爵家の一員ならこんな時こそエドを助けてやれよ」
「腐ってもって」
ガクリと項垂れるアルを尻目に貴也の耳に風を撒く音が聞こえてくる。
そして、空を見上げると
「なかなかタイミングが良いじゃねえか」
貴也はニヤリと笑った。
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