第十二話 暇人なマリアさんの相手をしてて無双できない
あれから、しばらく、貴也はカインの畑を手伝いながら生活をしている。
体力的になかなか大変なこともあるが、農作業というのはなかなか貴也に合っているみたいで、毎日、楽しく過ごしている。
日本で田舎に引き籠っていたら、案外、自給自足生活を始めていたかもしれない。
カインに言わせるとなかなか筋がいいそうだ。
惜しむらくは体力の無さである。
Dランク冒険者並みの体力と魔力があればこの畑を任せてもよかったのにと言われた。
こんな畑貰っても困るのだが……
草むしりをしていた貴也は顔を上げて辺りを見回した。
見渡す限り畑である。
十m四方で区切られた畑が百面。
これがカインが一人で面倒を見ている畑だ。
そこに一面毎に一種類の作物が植えられている。
人気のある作物は複数の面で栽培されているがそれを差し引いてもなかなかの種類だ。
また、休耕地にしている、ここと同規模の畑があるらしい。
畑は連作するとすぐに土が痩せ衰えていくので交互に畑を使っているらしい。
一年中、この規模の畑を一人で面倒見るカインははっきり言って化け物だ。
貴也も手伝ってわかったことだが、農作業はとにかく根気と体力のいる仕事だった。
草むしりなんて手作業だ。
除草剤なんか使えば簡単だけどそれでは作物の品質が落ちてしまう。
機械がやれることも多いが良い物を作ろうとすれば自然と手作業が多くなる。
そこそこの品質の物を作るくらいなら、完全無菌の野菜工場で生産された野菜を食べた方が安全で安いし旨いのだ。
貴也は草むしりの為に中腰になっていた身体を伸ばす。
長時間、同じ体制でいた為か身体が強張っていた。
腰が痛い。
カインを探すとかなり遠くにいた。
隣の面で作業してたはずなのにいつの間にかあんな先まで作業を終えている。
ざっと見た感じ、貴也が一面の草むしりを終える間に十五面は軽く終えて水撒きをしていた。
もう溜め息しか出ない。
これが性能の差なのである。
「機体性能の差が直接戦力の差だと思わないことだな」
貴也の負け惜しみは遠くにいるカインには届いていなかった。
しかし、貴也がカインを見ていたのには気付いたみたいで顔を上げてこちらに手を振ってくる。
「そろそろ、お昼にするっぺ」
「わかった。もう少しで終わるから準備しててくれ」
「了解だっぺ」
カインは昼飯の準備をする為、畑の脇に置いてあるテーブルの方に向かった。
貴也もさっさと草むしりを終えてテーブルに向かう。
抜いた草の後片付けはって?
抜いた草は美味しそうにスラリンが食べていた。
この謎スライム雑食で何でも食べる。
ビニールなどの化学製品、電化製品などの機械は苦手なようだが、鉱石や混ざりけのない金属単品は美味しそうに食べる。
一度に消化できる金属は一種類のみらしい。
この前、壊れた置時計を食べさせたら、ガラスを食べて吐き出し、鉄を食べて吐き出し、銅を食べて吐き出しとそんなことを繰り返していた。
そして、粘液まみれのプラスチックを残して不満そうに溜め息を吐いていた。
どうやら、何度も食べては吐き出しを繰り返すのが面倒なようだ。
それからは面白がって貴也が食べさせようとする電化製品には見向きもしなくなった。
最近のお気に入りはカインの作った農作物みたいだ。
こんな美味い野菜になれてしまってこいつ野生に戻れるのだろうか心配である。
そんなスラリンだが、貴也がむしった草を食べ終わると、口を開けて水を吹き出し始めた。
最近、カインと一緒に農作業をしていたのが影響しているのか、魔法での水撒きを真似てこんな特技を覚えていた。
こいつ本当にただのスライムなのだろうか?
こいつの有能さにちょっと嫉妬した貴也はスラリンを蹴っ飛ばす。
遠くに飛んで行ったスラリンは空中で水を噴射。
その勢いで貴也の鳩尾にダイレクトアタックだ。
貴也にクリティカルヒット。
悶絶する貴也だった。
「お~い。バカやってないで飯にするっぺよ。いい加減にしないと全部喰っちまうぞ」
「は~い」
返事をして貴也は足早にカインの元に向かった。
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「で、マリアさんが何でこんなところにいるんだ」
気が付くとマリアがさも当然と言うような顔で昼食を摂っていた。
「ん? お昼御飯だけど?」
不思議そうに聞いてくるマリア。
自分の行動に微塵も疑問を抱いていない。
「ここのところ、毎日じゃないですか。仕事、大丈夫なんですか?」
この一言が地雷だったのか、マリアはブスっと頬を膨らませる。
「誰かさんの所為で仕事がなくて暇なのよ」
ジト目でこちらを見てくるマリア。
誰かさんて誰のことだろう?
って、勿論、貴也のことだ。
でも、別に悪いことをしたわけではない。
実に正しい行為だったはず……。
というわけで素知らぬ顔で食事を続ける。
そんな貴也の態度に根負けしたのか
「わかってるわよ。わたしが悪かったのは。でも、突然、仕事を取り上げられてもね。やることがなくて暇なの。手伝おうとすると怒られるのよ。身に付かないからほっといてくれって。手伝いが欲しい時はこっちからいうからそれまで手を出すな。かえって邪魔だ。なんて言うの」
完全に拗ねていた。
まあ、今まで全部一人でやっていたのだ。
その仕事を補充人員が手分けしてやるようになったため、単純計算で仕事量は1/6。
実際はそこまで減っていないのだろうけど、それでも午前中で全ての仕事は終わってしまうみたいだ。
お手伝いを禁止された為、そこからはただポケっとしているしかない。
忙しそうに働く人達の中で暇そうにボウっとしているのは結構苦痛なことだ。
しかも、働き者のマリアだ。
その心労はブラック労働していた時以上だろう。
この人、ワーカーホリックだからな。
働いてないと死んじゃう病の人だ。
「じゃあ、休暇でも取って旅行でも行ったらどうです。割引効くんでしょ?」
「一緒に旅行いってくれるような友達いないもん」
ああ、この人、仕事が忙しすぎて友達がいなくなっちゃったタイプの人なんだな。
いたなあ、そういう会社人間。
会社に尽くして土日も接待やらなんやらこなして、定年迎えたら遊ぶ友達がいないどころかどうやって遊べばいいのかわからない。
部下も得意先の人間も会社の肩書きがなければ関係性が薄れる。
しまいに妻や子供に見放されて熟年離婚。
ああ悲しい会社人間。
「かわいそうなマリアさん。強く生きるんですよ」
「ちょっと、すっごい失礼なこと考えてない。わたしにだって友達くらいいるわよ。ただ、長い休暇を取って旅行に行けるような人がいないだけ。それにわたしは学生時代、王都や領都に留学してたから、友達もそっちに多いのよ」
「そうですか。わかってますよ。わかってます。強く生きるんですよ」
「全然わかってないわよね!」
「まあまあ、落ち着くだ」
とカインがマリアを宥めている。
ちょっと調子に乗りすぎたかなと反省。
でも、後悔はしない。
だって面白いのだから
日頃、攻めてばかりのマリアは守勢に回ると弱いようだ。
実にイジリ甲斐がある。
カインとは別の種類の人材だ。
だが、用法と用量を間違えると手痛い反撃を受けるので注意しなくてはいけない。
ご利用は計画的に。
少し落ち着いたのかマリアはカインから受け取ったサンドイッチを食べていた。
そっぽを向いて拗ねている姿がなんだかカワイイ。
というわけで本題。
「マリアさんが暇人なのはわかりましたが」
「なんか棘のある言い方ね」
「まあまあ、そう怒らないで、少し揶揄い過ぎました」
「すこしねェ」
ジト目でこちらを睨んでくるが貴也は全く気にせず話を続ける。
「どうせ暇なら畑仕事手伝っていきませんか? 案外、楽しいですよ、土いじり」
「いやよ。汚れるじゃない。それに手伝うなら実家の畑を手伝うわ」
「マリアさんの実家って農家なんですか?」
「そうよ。この村の人はほとんど農家か冒険者。わたしは汗かきながら土イジリするのが嫌でギルド職員になったの。暇だからって畑仕事を手伝ったら本末転倒だわ」
その発言にカインは苦笑している。
が「いつものことだっぺ」と気にしている様子はない。
マリアもそんなカインの前だから平気でこんなこと言えるのかもしれない。
幼馴染ならではの関係なのだろう。
なんだか、二人の関係が……
別に羨ましくなんかないんだからね。
というわけで話を変える。
「暇なら何か他の事をしたらどうですか? 仕事中にサボってこんなところに来てても怒られないんでしょ? 趣味とかないんですか?」
「趣味?」
「はい。趣味です。何か好きなこと一つくらいあるでしょ?」
「仕事?」
この人マジでダメ人間だ。
この年で趣味仕事は救われない。
ああ、職場で若い女子社員をいびっている姿が目に浮かぶ。
なんだか哀れだ。
そんな目で見ていると、いたたまれなくなったのかマリアが慌てて否定する。
「冗談よ。ちゃんと趣味ぐらいあるから」
う~ん。と唸りながら考え込んでいるマリア。
「あのぉ、マリアさん?」
「ちょっと黙って、いま、考えているから」
いやいや、考えないと出てこない時点で趣味は無いと思うんだけど……
「そうだ。ウィンドウショッピング」
「この村にそんなに見て回るほど店ってあるんですか?」
「女性向けの服屋が一件と雑貨屋が一件あるくらいだっぺ。あとはみんな冒険者関係の店だな」
カインが答えるとマリアがキッと睨み付ける。
カインは小さくなって食事に戻った。
「なら、映画鑑賞」
「ならって。それにこの村、映画館なんてあるんですか?」
「ネットで気になる作品をダウンロードするのよ」
「へえ、興味はあったんですけど、まだ、こっちの世界の映像作品って見てないんですよね。最近、なに見ました? お薦めあります?」
「えっと……」
どこか遠くを見詰めているマリアを見て、聞いてはいけないことだったのを悟る、貴也。
自然と可哀想なものを見る目になっていた。
そんな貴也を見て
「ち、違うのよ。若い頃はよく見てたの。留学してた頃は月に一、二回は映画館に行ってたし、テレビとかダウンロードしてみてたし。最近は忙しくてご無沙汰だけど、映画は好きなのよ」
「うんうん。そうですね」
「信じてない!」
信じるも信じないもないが、ここでそれを言っても仕方がないのでとりあえず話を進める。
「他には好きなこととかないんですか? 例えば料理とか?」
「料理? 料理は得意よ。最近やってないけど。そうだ。明日のお昼御飯はわたしが作ってこようか?」
嬉しそうなマリアの顔が誰かの顔に重なった。
アカン。これはアカン奴だ。
確認のため、マリアの隣に座っているカインを見ると顔を真っ青にして首を振っている。
もちろん、横にだ。
「えっと、昼食はカインがいつも作ってるし。そうだ。明日はバーベキューにしようって言ってたんだよな、カイン」
「そうだべ。調度、トウモロコシの収穫をしようとしてたんだっぺ。それにこの前オークの集落を殲滅したから肉がタブついてるって聞いただ。空の下で取り立て野菜と肉を焼いて食う。こりゃ楽しいべ」
「そうなの? それじゃあ、お弁当を作るのは次の機会かな」
カインGJ。
オレは親指立ててカインを称える。
カインも同じように指を突き立てた
ホッと一息つく。
カインの反応を見るにマリアの料理の腕は壊滅的なのだろう。
しかも、性質が悪いのが本人に全く自覚がないことだ。
何で女性は料理ができない人ほど、やっていないだけで料理なんて簡単に出来ると思っているのだろう。
料理はセンスも必要だがそれ以上に経験がものをいう。
料理は練習しなければ絶対にうまくできない。
しかも、そういう人に限って自己流のアレンジを加えたがるのだ。
料理は基本が一番。
味見が二番。
他人の意見は絶対に聞きましょう。
ということでこの件は終わり、早く話題を変えないと
「ならデザートを作ってくるわ」
遅かった。
なに? このお約束の展開。
フラグ? どこかにそんなフラグ落ちてた。
誰かさっさと折って来いよ!
と思うものの、どうやらこれは回避不可イベントみたいだ。
それならば……
「なあ、カイン。どうせだからみんなで楽しくBBQと行こうじゃないか」
「ふえ? なにいってるだ、貴也。犠牲者は最小限の方が……」
「なに言ってるんだよ。楽しみはみんなで分け与えるべきだろ。どうせならゴメスや酒場のマスターたちも呼べばいい。そうだ。新しく入ったギルドの職員さんにも声かけたらどうだ? ギルドマスターはマストだな。歓迎会ってまだやってないんだろ?」
「そうね。聞いてみる。人数が多いなら準備しないと――。じゃあね。夜にでも連絡するわ。お肉はこっちで用意しとくから野菜はお願い。デザート楽しみにしててね」
手を振りながらマリアが去っていた。
それを見送りながら貴也は悪い顔で笑う。
「ふふふ。不幸はみんなで分け合わないとな」
「悪魔だ。悪魔がいる」
カインはガクブルと震えていた。
ふふふ。明日が楽しみだ。
さて、どうやってオレだけ逃げようかな。
次の日、BBQ会場は死屍累々の地獄絵図と化していた。
一週間は冒険者ギルドが業務停止になると思われたが、その点はマリアが一人で業務をこなして事なきを得た。
久しぶりに満足な仕事ができたマリアの表情は明るかった。
「今度はプリンでも作ろうかしら」
あれ? もしかしてわざとですか?
自分が仕事をしたいから毒を持ったとか……
そんなことを考えて貴也は身体を震わせる。
この時、ギルド職員と貴也たちは固い決意で結ばれるのだった。
決してマリアを暇にさせてはいけないと。
日曜日の更新はお休みさせていただきます。
次回の更新は月曜日になると思います。




