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第百二十話 意外にお金を持っていたが無双できない


「とは言ってみたもののこの先どうするか?」


 貴也は大きな溜め息を吐いていた。

 アスカを救出すると大見得を切って見せたが、実際、どうすればいいのか考えていない。

 本当に勢いに任せた行動だ。


「まずは行方不明になる前の状況を知ることだな?」


「貴也さん」


「うわああああ」


 いきなり背後から声を掛けられて悲鳴を上げる、貴也。

 そこにはいつの間にか背後に立っていたクロードがいた。


 本当にこの人は心臓に悪い。


 いつもは存在感があり過ぎるくらいなのに気配を絶つと暗殺者も真っ青なくらいその存在感がわからなくなる。

 実際に王の二、三人くらい殺してるんじゃないかと思えるほどだ。


 まあ、そんな事恐ろしくて聞けないけど……


 貴也はそんなことを悟られないように表情を改めてクロードに問いかける。


「クロードさん。どうしましたか?」


「これをエド様から渡すように言われました。ご健闘をお祈りします」


 それだけ言うと踵を返して去っていた。

 もう、執事見習いの貴也ではなく、一個人、相場貴也として接しているのだろう。

 この切り替えの早さは見習わなくてはならない。


 そして、エドからと渡されたものだが……


「さすがですね」


 貴也は感謝して頭を下げる。

 そこにあったのは記録チップだった。中身を見てみると、公爵領からのアスカの動向、ジルコニアの情勢など事細かに記されている。

 エドやクロードが調べていたことをまとめたものだろう。


 この中にはジルコニア軍の行動予定や金の流れなどの軍事機密や秘匿情報にあたるものもある。

 おいそれと外部に漏らせるような情報ではないのにそれが惜しげもなく加えられている。


 本当に感謝しかない。


 多分、エドやクロードも貴也の行動には賛同しているのだろう。

 だが、それは立場が許さない。

 だから、これくらいのことはということなのだろう。


 貴也はそんな思いを自分の胸に刻み込んで気合いを入れ直す。

 まずは――





 そんな感じで意気込んでみたが


「それでどうやって現地まで飛ぶかだ」


 貴也は途方に暮れていた。

 アスカが消息を絶ったのはサラボネ山脈の森林地帯。

 あの辺りは凶悪な魔物も多数でる未開の地だ。

 比較的安全な街道からかなり離れている。


 まあ、その街道に行くまでの足の当てもないのだが……


 現在、戦時中ということでジルコニアに向かう定期便は陸路空路共に欠航している。

 まだ、ジルコニアの空港も道路も封鎖されていないので往来は可能なのだが、その方法が問題だ。


「やっぱり、ヘリをチャーターするしかないかなあ」


「チャーターするのは良いですが、ジルコニアに向かうと言って貸してくれる人はいないと思いますよ。仮に貸してくれても操縦はどうしますか? 多分、パイロットはヘリを探すより大変ですよ」


 バルトの意見に貴也はガクリと項垂れる。


「ヘリは当てがある。問題は金とパイロットだなあ」


 通常価格の何倍の金をとられるかわからないがこういう状況でもヘリを貸す人物は知っていた。

 守銭奴なので借りを作りたくないのだがそうもいっていられない。


「すみません。お金は持ってませんね」


 バルトは頭を下げる。


 貴也は視線を横にずらし、優紀へ。

 彼女はキョトンとした顔で


「わたしがお金なんて持ってるわけないじゃない」


 自信満々で答えていた。

 本当に勇者とは思えない台詞だ。


「お前、S級魔物討伐とかのクエストもこなしてるんだろう? あれって報奨金が1000万ギルとかそんなもんだろう? なんでお金がないんだよ」


「何言ってるのよ、貴也。お金は使うためにあるのよ。そんな昔のお金があるわけないじゃない」


 と、カラカラと笑っている。


 貴也は頭を押さえて頭痛に耐えていた。

 こいつはそういう奴だった。

 10代からプロとして世界的に活躍していただけあってこいつの年収は桁違いだった。

 だから、さぞかし貯金があるものだろうと思っていたのだが貯金どころか借金があった。


 そんな状況を親が見かねてお金の管理に乗りだした。

 彼女はカードや通帳を取り上げられ晴れてお小遣い生活となってしまった。


 ただ、ユウキのいいところはないならないなりに生活できるところだ。

 まあ、手元に現金があると三日も持たない困りものなのだが……


 どうやら、この世界に来てもそれは治らなかったみたいだ。

 良く今まで生きていられたなあ、と呆れを通り越して感心してしまう。


 そして、次に視線が向かったのは……


「ぼ、僕ですか? 僕はお金持ってませんよ。家出して行き倒れていたとこ貴也さんに助けられたくらいですから」


 そうだった。こいつ公爵家の人間の癖に腹ペコで行き倒れてたんだった。

 というか公爵家の人間だから現金など持ち歩く習慣がなかったのかもしれない。

 基本、アルは城から出ないし、出るときもお供の物がついているだろう。

 なんか買う時はその者が支払うのでアルが現金を持ち歩く必要はない。


 まあ、何かあった時の為に必要最低限のお金は持っているだろうが、それくらいではなんの役にも立たない。


「そうか、ならその鎧と杖を売ろう。なんか高そうじゃないか」


「バ、バカなこと言わないでください。この杖は初代様が使っていた由緒正しき我が家の家宝ですよ。それにこの鎧も稀代の名工の作でそう簡単に手に入るような物ではないのですから」


「ほうほう、それは高く売れそうだ」


 貴也がニヤリと笑うとアルは本気で売り飛ばされると思ったのかユウキの影に逃げ込む。

 本当に失礼な奴だ。

 冗談に決まっているのにそんなことを本気でやる人間に見られるなんて……


 マジで売ってやろうか。


 なんてことを考えながら貴也は金策をどうしようか考えていた。

 そんな時、ユウキが


「それで貴也はお金を持ってないの?」


 尤もな質問だった。

 だけど、日本ならいざ知らず、こちらの世界の貴也がお金を持っているわけがない。


 貴也が持っているお金と言えば冒険者ギルドから貰った支援金とルイズの店で働いたバイト代くらいだ。

 パルムにいた時はカインの家にいたのでほとんどお金を使っていないし、領都では城にいる限りお金を使うことはほとんどない。

 ほぼ、丸々残っているので50万くらいはあるだろうがこれぐらいでは無理だろう。


 そう説明してみると


「執事見習いって給料でないの?」


 首を傾げるユウキに貴也はポンと手を叩いた。

 肝心なことをすっかりと忘れていた。

 色々なことがあり過ぎて完全に抜け落ちていた。


「でも、オレ給料なんて一度も貰ってないぞ」


「貴也さん。ギルドに口座があるでしょ。そこに振り込まれているはずですよ」


 アルが呆れたようにそう言うと貴也はバツが悪そうにそっぽを向く。

 そんな貴也にバルトが助け舟を出してくれた。


「とりあえず、確認してみたらいかがですか?」


「そうだな」


 そう言って貴也は携帯端末を操作する。

 オンラインで残高などは確認できるのだ。

 本当に便利な世界だ。


 そして――


「おうふ」


 その金額を見て貴也は思わず訳の分からない声を上げていた。

 そこに表示されていた金額は1000万を超えていたのだ。



いつもお読みいただきありがとうございます。

これからも宜しくお願いします。

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