第百十八話 帰還するが無双できない
非常に納得いかないが救出作業は無事完了した。
軽傷を負ったものはいたが生命に別状のあるようなものはおらず非常にいい結果だ。
「と言う訳で領都に帰りたいのだが……」
貴也はヘリの残骸を見ながらそんなことを呟いていた。
羽どころかコックピット周りの部品が取り除かれている為、とても飛べる状態ではない。
それどころかこれって修理で出来るのだろうか。
とりあえず、結果の報告と共にこちらに向かえをよこして貰うように連絡を入れた。
通信機の向こうでエドの渋面が見えたがそれは気付かないでおくことにしよう。
薄く笑ったクロードの顔が怖い。
と言う訳で朝日を拝みながら傍にいるスラリンを見ていた。
「お前どうして赤いの?」
そうなのだ。
暗くてわからなかったのだがスラリンのぽよぽよボデーが赤くなっていた。
いままではごく普通の青いスライムだったのに。
これってもしかして……
「なあ、バルト。スライムって変な物食べると色が変わるの?」
「そんな話、聞いたことがありませんね。貴也さんはいままでそう言ったことに気付いたことは?」
貴也は首を傾げながら思い出してみる。
「う~ん。いろんなもの食べさせたけどそんな事あったかなあ。そう言えばエネルギーキューブを食べさした時少し光ってたような……」
「それは実に興味深いですね。やはり一度……」
バルトはスラリンに向かって危険な微笑みを浮かべていた。
うん。目が正気じゃないね。
「きゅうう~~~」
それを察したのかスラリンが震えながら貴也の影に隠れた。
うん。その行動は実に可愛らしい。
すさんでいた貴也の心に一服の清涼剤を与えてくれた。
まあ、そんな気持ちにさせてくれた原因もスラリンなのだけど。
「まあ、冗談はそれくらいにしてスラリンが赤くなった原因ってやっぱり」
「マナタイトでしょうね。マナタイトが何らかの作用及ぼしているかと思えます」
「ということはスラリンもマナタイトの性質を受け継いでいることになるのか?」
「そうとは限りません。何分スラリンは特殊な個体ですからね。もうこの子に関しては何でもありのような気がしますよ」
バルトが肩を竦めている。
そんなバルトを見ながら貴也は盛大に溜息を吐いた。
「ふう。でもマナタイトの影響が残っているとマズいな。魔力を溜められる能力だけならいいけど、一定以上魔力が溜まったらボンとか勘弁してほしいし」
「そうですねこれは試してみた方が良いかもしれませんね」
そして、見つめ合ってニヤリと厭らしく笑う二人。
視線はゆっくりと貴也の影にまだ隠れていたスラリンへと向かう。
「スラリン。心配ないよ。ちょっと魔力を回復させるだけだからね」
「そうそう。痛くないよ」
そう言ってバルトは魔力を回復させる魔法を。
貴也は魔力を回復させるポーションを手に持っていた。
「ほら、痛くしないからこっちにおいで」
近づいていく貴也達を見たスラリンは
「キュキュ~~~」
脱兎のごとく逃げ出した。
「逃がすか!」
貴也は素早く身体強化魔法をかけてスラリンを追う。
しかし
「は、速い。いつもの三倍は速いぞ!」
「これが赤い〇星か!」
バルトも身体強化魔法を使って追いかけたが、ただでさえ速いスラリンが三倍のスピードで逃げまどっているのだ。
目で追うので精いっぱいだった。
その内、何か面白いことをやっていると思ったのか優紀が参加してきた。
その後は二人の独壇場だった。
伊達に勇者と呼ばれているわけではない。
優紀の動きはとんでもなかった。
いつものバカさ加減から侮っていたことを痛感する。
腐っても勇者なのだな。
まあ、その勇者の優紀のスピードにひけをとらない今のスラリンも凄まじいのだが……
結局、迎えのヘリが到着するまで優紀とスラリンの鬼ごっこは続いた。
三時間近く逃げ切ったスラリンはヘリの中で満足気にポヨポヨしている。
マナタイトによる驚異のスピードアップには時間制限があったみたいで、色が戻ると急激にスピードダウンしていた。
それが良かったのか悪かったのかよくわからないが、まあ、気にしないでおこう
ちなみに優紀はスラリンを掴まえられなかったのが余程悔しかったのか。
隅の方でジッとしている。
うん。それについては触れないでおこう。武士の情けじゃ。
と言う訳で、この後もマナタイトを調達してきてはスラリンと鬼ごっこを繰り広げる光景がたまに見られるようになるのだが、それはまた別の話である。
貴也はそんな日常に戻ってくれてホッと一息ついていた。
本当に立て続けにいろんなことが起こり過ぎていたのだ。
「ふう。これで一息つけるな。少し休暇を貰ってゆっくり出来るといいんだけど」
「貴也さん。そう言うこと言うとまた何か起こりますよ。フラグって言うじゃないですか」
アルが変なことを言って笑っていたが、貴也はそれを聞かなかったことにした。
まあ、聞かなくても言われてしまった時点でフラグと言う物は立ってしまうものなのだが……。
「あのぉ、貴也さん。ヘリが一機しか着てないのですが、これだと全員乗れないと思うのですが……」
アルの護衛の一人が貴也に話しかけてきた。
その言葉を聞いて貴也は視線を別に向ける。
そこにいたのは機材の整理をしていた兵器開発局の面々だ。
「ああ、そうでした。クロード様からの伝言です。兵器開発局の面々はヘリを修理してそれで戻ってくるようにとのことです。調子に乗った罰だそうですよ」
「そんな調子に乗っていたのは貴也さんも一緒じゃないですか!」
「じゃあ、変わりますか? 領都に戻ったら仕事がたっぷり残ってますよ」
自分で言っておきながらげっそりしてきた。
マジで帰るの止めようかなあ。
そんなことを考えていた貴也をバルトや護衛の皆さんがヘリに無理やり詰め込むのだった。
そして、ヘリは墜落することなく無事に領都に到着した。
空港にはエドが待ち構えており貴也達を出迎えてくれる。
なんだか嫌な予感がした
「貴也さん。戦争が始まりました」
エドから発せられた貴也は理解できなかった。
フラグはきっちり回収されるようだった。
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