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第百十七話 納得いかなくても無双できない


「退避、退避!!!」


 キリクの怒声がトンネル内に響き渡る。

 ジャンがロボット操作して崩れてきた大量の土砂を支える。

 パワーを増したおかげか何とか支えることが出来た。


 その間に作業員たちは脇目もふらずに逃げ出す。

 土砂崩れに巻き込まれた者はいなかった。


「ふう、何とか無事だったみたいですね」


 貴也はキリクと視線を合わせて安堵の息を吐いていた。

 全員が退避したのを確認するとジャンがロボットを操作してその場から離れる。

 支えを失った土砂がまた崩れだした。


 さっきからこのような一進一退を繰り返している。

 5m進むのに3時間近く経過していた。


 これはマナタイトを発見するまでにかかった時間と同程度だ。

 これからが本番だとは言ったが、これほどの困難が待っているとは思っていなかった。


 貴也達は予定通りに補強材を組んで外で作って置いた外壁や天井を設置していったのだが、これが思いのほか大変だった。


 坑道の地面部分は固められているので問題なかった。


 だが、側面が問題だった。


 魔法で硬化された壁の向こうの地盤が想像以上に緩かったのだ。

 天井を支えるための補強部材を設置しようとすると側面が直ぐに崩れてくる。

 慌てて壁を設置しようと動いても雪崩れてくる土砂に押されて壁が倒れてしまう。


 それなら側面だけでも硬化させればと土魔法を使おうとすればマナタイトが反応してしまう。

 現在、マナタイトは3m先まで迫っていたが、まだマイソンは使えない。

 いくらパワーアップしたと言ってもこれだけの距離が開くと効果は出ないのだ。


 唯一使えるのはバルトの吸収魔法のみ。


 だが、それにも限界がある。

 この先もバルトにはマナタイトの探査をしてもらわないといけないのだ。

 こんなことで使い潰すわけにはいかない。


 となると手作業のみということなのだが……


 魔法を使えることに慣れ切った所為にはしたくないが、完全手作業に土木作業員は疲弊していた。

 何とかやれているのはジャンと改造したロボットがあったからだろう。


 だが、それも時間の問題だ。


 遅々として進まない作業に土木作業員の疲労も限界に達しつつある。


「キリク。作戦の立て直しが必要です。作業員は一度下げて休憩を取らしましょう」


「そうですね。このままではいたずらに体力を消耗するだけです。何か方針転換する時期ですね」


 そう言って全員に休息をとるように支持を出した。

 いままでも交代で休憩は取らせていたが、そんな物では疲れは抜けない。

 トンネルの中で日が無くて時間がわかりにくいが、もう既に夕方近い時間である。

 作業は明日の朝から再開することにして作業員の皆は帰らせた。


 そう言うと何人かは残ると言い張ったのだが、強い口調でキリクが怒鳴ると皆は暗い顔でトラックに乗り込み引き返していく。


 残った面々はキリクとバーゼル、貴也にバルト、あとはアルとユウキに護衛が数名だ。


 全く話に出てこなかったがアルと優紀もこの場にいる。

 空気の読めない優紀たちだが、自分の出来ることと出来ないことはわきまえてくれていたようだ。

 土砂崩れが始まった時の救助以外は黙って大人しくしててくれる。

 皆が忙しく働いている時に大あくびしていたのはいただけないが、今は目を瞑っておこう。


 と言う訳で


「何か作戦案はあるかな?」


 貴也はキリクに話をふる。

 キリクは申し訳なさそうにヘルメットを掻きながら応えた。


「問題は側面の地盤の緩さですね。側面を支えようとすると今度はロボットの作業スペースが取れなくなります」


「だけど、現状はロボットを使っても作業は捗らない。それならこの辺で見切りをつけた方が良いんじゃないか?」


 バルトの意見に頷きながらもキリクは一つ懸念を残した。


「そうですね。ただ、土砂が崩れてきたときにロボットがいたから退避する時間が稼げたともいえます。安全面を考えるとロボットを下げるのは危険じゃないですか?」


 皆が押し黙る。

 貴也はユウキに視線を向けて


「ユウキ。お前。ロボットの代わり出来ないか? 肉体強化の魔法ならマナタイトは反応しないだろ。土砂を掘れとは言わないから盾代わりにデカい鉄板でも持って崩れてきたところを支えて時間を稼ぐとか」


「ちょっと無茶言わないでよ。土砂ってどれだけ重いか知ってるの?」


「大丈夫。お前なら出来る!」


「いつも邪険に扱っているのにこんな時だけ絶大な信頼が!」


「まあ、冗談はこれくらいにして他に案がある人いる?」


 「冗談って」と憤っているユウキがいるがとりあえずここはスルー。

 貴也は周囲を見渡すが反応は芳しくない。


 貴也はバルトに視線を向ける。


「バルト。マイソンの効果範囲はどのくらいだ?」


「はい。接触させるのが一番ですが、最低でも1メートルは近づける必要があります」


「なら、周囲を土魔法で固めるときにマイソンをフル稼働させたらどうだ。マナタイトに届く前に魔力を吸引すれば」


 貴也の言葉にキリクたちの目が輝く。

 が、バルトは首を振った。


「3mの距離がネックになりますね。これだけ距離があるとマイソンに吸収されるよりマナタイトに届く魔力の方が多いと推測されます。それにマイソンの稼働範囲近くでは魔法が阻害されますからその点も考慮しないと」


「じゃあ、硬化魔法の精度を上げて漏れる魔力を抑えるとか?」


「ここにいる人間は土魔法に置いては熟練者です。その彼等でも無理なんですよ。この場で出来そうなのはアル様くらいですね」


 皆の視線がアルに向かう。

 彼は「オレ?」みたいに自分に指をさしてキョロキョロとあたりを見渡していた。


「う~ん。それだと焼け石に水か。いくらアルの魔力容量が高くても精密操作しながら一人で坑道の外壁を固めるのは無理だな」


「「「…………」」」


 沈黙が場を支配する。どうやら、本格的に八方塞がりらしい。

 その時、ふと思い至った。


「とりあえず、細くてもいいから穴をマナタイトまで掘ってそこにマイソンを突っ込んで作動させたらどうだ?」


「で、その穴をどうやって掘るんですか?」


「それは――」


 貴也の視線は下に向かう。

 全員の視線が貴也の目を追いあるものに集まった。


「スラリン。やれるよね」


 スライムが何を考えているのか分からないが彼はぽよぽよ跳ねていた。


 と言う訳で作戦実行。


 スラリンはドリル形態になって地面の中を突き進んでいく。


「魔法は使っちゃダメだぞ!」


 貴也の声に応えるように「キュキュキュ~~」とくぐもった声が聞こえてきた。


 そして、一分後スラリンが戻ってくる。赤い石を持って


 スラリンはどんなもんだと胸を張っていた。

 スライムのどこに胸があるのか知らないが


「これがマナタイトですか?」


「そうですね。結構純度が高そうです」


 バルトはスラリンから赤い鉱石を受け取るとそれを見ながら応えてくれる。


「じゃあ、とりあえず、スラリンの開けた穴にマイソンをぶっこんでマナタイトに溜まった魔力を抜いてみるか。これが上手く行けば魔法を使いながら少しずつ進める可能性が出てくる」


 と言う訳でスイッチオン。


 …………


 結果は?


「貴也さん。成功です。マナタイトに溜まっていた魔力が減っていきます」


「「「「「おおおおおおお」」」」」


 歓喜のどよめきが上がる。


「なら、注意しながら魔法を使い。溜まってきたらマイソンで抜き出す。これでいけそうか?」


「時間はかかりそうですが行けるでしょう。マナタイトに手が届けば掘り出してしまえば済みます」


「よし! なら、その作戦で行こう。今回の功労者はスラリンだな」


 貴也はスラリンを持ち上げて褒めてやる。

 スラリンも鼻高々といった感じだ。まあ、鼻はないけど。


 そんなスラリンが貴也の足にまとわりついてきた。


「うん? どうした?」


 貴也はスラリンに問いかける。

 スライムの気持ちなどわからないが、付き合いが長いのでこいつの気持ちは何となくわかる。


 そして、貴也はスラリンがバルトの手にある鉱石を見ていることに気付いた。

 暗がりだったのでわからなかったが、涎を垂らしているようにも見える。


「もしかして、あの鉱石が食べたいとか?」


「きゅきゅ~~!」


 ポヨンポヨン跳ねて応える、スラリン。

 どうやら正解らしい。


 貴也はバルトからマナタイトを受け取る。


「こんな物食べてお腹壊さないよな?」


 そう言いながらスラリンの前にマナタイトを置く。

 スラリンは嬉しそうにそれに飛びつき、大口を開けて食べ始めた。


「スゴイですね。なんでも食べる子だとは思ってましたけど、マナタイトまで食べるなんて」


 バルトは感心しているようだったが貴也は少し心配になる。

 そんな彼の心配を余所にスラリンはあっという間にマナタイトを食べてしまった。


「スラリン。身体の調子は悪くない?」


「きゅきゅ~~!」


 美味しかったよ! というようにポヨンポヨン応えてくれる。

 どうやら全く問題はないらしい。


 そして


「スラリンがマナタイトを全部食べてくれたらいいんだけどね」


「「「「「あっ」」」」」


 何気ない貴也の発言で場が凍り付いていた。

 結局、貴也達の前に立ちはだかっていたマナタイトはすべてスラリンの腹の中に納まってしまった。


 今までの苦労は一体何だったんだろう。

 納得いかない貴也だったが、皆はこの結果を非常に喜んでいた。


 そんな中、美味しい物をたくさん食べられたスラリンは満足そうに貴也の足元でポヨンポヨンしているのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます

これからも宜しくお願いします。

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