第百十六話 救出作戦を開始するが無双できない
祝一周年。
「えっと、これって鉱山の入り口なんですよね」
「そうですよ」
目の前には巨大なトンネルが続いていた。
貴也の想像では大きいと言っても高速道路にあるくらいのものだろうと思っていたのだが……
そこにあったものは桁違いだった。
高さは10m以上、横幅にいたっては30mあるんじゃないのか、軽く6車線は取れるだろう。
あまりの大きさに貴也は唖然としていた。
文字通り山に穴が開いているようだった。
「なんでこんなに大きなトンネルが必要なのですか?」
「ああ、それはですね。鉱物だけなら普通のダンプカーで問題ないんですけど掘り返した土砂を運ぶのに超大型トラックを使うのでこれくらいのトンネルが必要なんですよ。脇に止めてあるあれですね」
その隣には要塞のようなトラックが鎮座していた。
タイヤだけでも軽く貴也の倍、いや、三倍はあるんじゃないのだろうか。ここまでデカいとなんかオモチャみたいで現実味がない。
話を聞くと最大積載量は500t近くあるらしい。
とんでもない化け物だ。
そんな超巨大トラックを見ながら、貴也が呆然としていると現場監督のキリルに現実に引き戻された。
「貴也さん、そろそろ行きますよ。ここからはトラックで移動しますから乗り込んでください」
そう言われたので貴也は超巨大トラックの方に足を向けるがそちらじゃないとたしなめられた。
坑道のメイン通路の点検は済んでいたが、流石にあの巨体を動かすのは見合わされたようだ。
それにあんなバカでかい物を引っ張り出す意味がない。
人の運搬や崩落現場の土砂運搬くらいなら10tトラックで十分なのだ。
貴也はバツが悪そうに頭を掻きながらトラックの荷台に乗り込む。
日本では道交法違反で出来ないがここは異世界。
全く問題ないのである。
「そんなことありませんよ。ここは現場なのであまり細かいことは言われませんが、一般道で荷台に乗っていると捕まります」
異世界も世知辛いらしい。
貴也は嫌なことを訊いたと顔を顰める。
まあ、そんなことは置いておいて今はトラックの荷台を楽しもう。
実は、昔、映画とかで見て、荷台に乗って走るのに少し憧れていたのだ。
…………
前言撤回。
荷台は乗り心地が最悪だった。
まあ、少し考えれば分かることである。
元々人が座るように出来ていないのだから座席などないし、床は固い。
それに何より揺れる。
それより、最悪なのがここがトンネルの中であることだ。
この世界の自動車はエネルギーキューブ使用の電気自動車がメインなので排ガスは出ないが、そこはトンネルの中。
いくら換気をしていても軽く空気は淀んでいる。
それに景色が全く変わらないのだ。
薄暗い中、灰色の壁と一定間隔で設置されているライトが延々と続いている。
アカン。吐きそう。
完全に酔ってしまった。
貴也が乗り物にあまり強くないのもあったが貫徹で寝不足だったことも関係していただろう。
そんな感じで14、5分、車に揺られているとある一本の細いトンネルに入って行った。
細いと言っても今乗っている10tクラスのダンプが優にすれ違える程あるのだが、それは今はいい。
どうやら崩落事故現場に近づいているようだった。
貴也は吐き気を抑えながらも気合いを入れなおす。
そうこうする内にダンプカーがスピードを落とし始めた。
「崩落現場はここです。いつまた崩れだすかわからないので注意してください」
タダでさえ強面のキリクが真顔でこちらに警告を発している。
そんな彼に頷きながら貴也はみんなの前に立つ。
「じゃあ、予定通りに作業を始める。まずはバルトがマナタイトの分布調査を。問題が無ければ周囲を土魔法部隊で固定。その後に掘り返す。バルトの探査範囲は10mという話だが、土魔法の使用や掘り返すのは5mまでとする。5m掘ったら再度マナタイトの分布調査。これを繰り返す。非常に手間だがこれも危険回避のためだ。絶対遵守するように!」
「「「「はい!」」」」
この場にいるのは鉱山で働くプロがほとんどなので少しの油断が命取りになることを知っている。
だからか全員が素直に貴也の命令に従ってくれた。
昨日、散々、文句を言っていたバカ息子も黙々と準備に取り掛かる。
「じゃあ、バルト。作業を開始してくれ」
そう言うとバルトは前方の土砂に手を当てて魔力を流し込んでいく。
マナタイトがあると魔力がそこに溜まるので存在が確認できるらしい。
ただ、マナタイトは許容量以上の魔力を流し込むと爆発するので、その見極めにはかなりの経験とセンスがいるらしい。
皆が少し離れたところから固唾をのんで見守っている。
バルトがミスをして爆発したことを考慮して貴也が退避させているのだ。
嫌な緊張感が場を支配している。
しばらくすると、バルトが振り向く。
OKの合図を送ってきた。
皆が一斉に息を吐きだす。
「野郎ども、ここからはオレ達の仕事だ。気合いを入れろよ!」
「「「「「押忍!」」」」」
土木作業員が一斉に道具を持って前にでる。
バカ息子もロボットに乗り込んでドリルを構える。
「まずは周囲を土魔法で固める。範囲は5mまでだ。焦ってそれ以上固めんなよ。あと、崩落してきた土砂だ。かなり地盤が緩んでいると思え、崩して巻き込まれるなんてへまは許さねえぞ」
「「「「「押忍!」」」」」
早速、土魔法部隊が周囲の固定に入った。
流石は熟練の技術者達なのだろう。あっという間に土砂が変質していく。
「ジャン。固定が終わったら軽くドリルで土砂を混ぜ返せ。あとの者は土砂の吸引。ダンプにそのまま土砂を流し込め。土砂が溜まり次第、ダンプはピストン輸送だ。この辺は安全だそうだが、魔法は使うなよ。メインは機械であとは手作業だ。勝手が違うが気合いを入れろ!」
「「「「「押忍!」」」」」
ああ、バカ息子君ってジャンって言うんだ。今更なことを貴也は考えながら作業の様子を眺めていた。
作業員たちは決められたことをキビキビとこなしていく。
大柄の男が抱えるように太い蛇腹状のパイプを運んでいく。
ダンプの横にあるポンプを使って土砂を吸引し、ダンプの荷台に流し込むのだ。
これを手作業でやっていたらどれだけ時間がかかったことだろう。
想像するだけで軽く眩暈がした。
貴也がそんなことを考えている間にも次々にキリクは支持を飛ばしている。
そして、次々と土砂が運ばれていき、アッという間に一回り小さなトンネルが5m程進んだ。
再度、バルトが呼び出される。
そして、全員がまた退避する。
そんなことを7、8回繰り返した頃だった。
「貴也さん。マナタイトです」
バルトがマナタイトを発見した。
悪い予想とは当たるもので崩落してきた土砂に混じってマナタイトが落ちてきていたらしい。
「回避できそうか?」
「何とも言えません。ここから7m程先に結構な量のマナタイトが埋まっています。ただ、そこを避けるとなると元からあった坑道からかなり離れることになります。それにマナタイトがそこにあるだけなのか、周囲にも分布しているのか、わかりません」
バルトは淡々とそう告げてくる。
こいつがわからないと言っているのなら本当に判らないのだろう。
こいつは保険なんてかけないし、無理も言わない。
そこだけは信用できる。
貴也はキリクに視線を向ける。
「聞いていましたよね。坑道から外れるのは危ないですか?」
キリクは目を瞑って少し考えている。
貴也はそれをジッと待った。
「やめておいた方が良いと思います。坑道を外れた先に何があるかわかりません。坑道内なら上から落ちてきた物だけを注意すればいい。それに探査機器で走査した結果、埋まっているのは100m程です。もし、この先がマナタイトに埋め尽くされていたとしても5、60m掘るだけです。時間はかかるでしょうが不確定要素は少ない方がいい」
貴也はキリクの意見を聞いてそれを採用した。
「さあ、ここからが本番だ! 皆! 気合いを入れ直せ!!!」
「「「「「押忍!!!!」」」」」
貴也の気勢に皆が応える。
トンネル内に漢達の声が木霊していた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
皆様のおかげで一周年を迎えることが出来ました。
記念のブックマーク、評価、激励とか頂けたら大変うれしいです。
そこで、一周年記念で連続投稿とかやりたかったのですが……
現在書き溜めが全くなくて休載の危機だったりします。
本当にすみませんがいつも通りの投稿とさせてください。m(__)m




