第百十五話 改造したロボットに乗ってみるが無双できない
更新が遅くなって申し訳ありません。
仕事の関係で時間が不規則になるかもしれませんが月曜更新は守っていきます。
……守っていけたらいいなあ。
「まあ、やってしまったものはしょうがない。それでこいつの試運転だが……」
周りを見回すが皆が目を逸らしていた。
バルトなどはそれを察したのかさっさと姿を消している。
多分、逃げ――マイソンの性能実験に向かったのだろう。
そうなると
「いつも通り、アルに頼――」
露骨に安堵の表情を浮かべる面々に溜息を吐きたくなるが、ここはニヤリと笑っておく。
「――もうと思ったが、あいつはいま、マイソンの性能試験で忙しいだろう。なら――」
一堂に戦慄が走った。
本当にこいつらはどうしようもない奴らである。
自分が造ったのだから、その性能実験を自らやろうという気概がないのだろうか。
貴也は自分のことを盛大に棚に上げてそんなことを思っていた。
まあ、マッドな実験を日々やって来たのなら、その失敗の被害に誰よりもあっている。だから、実験体第一号には誰だってなりたくない。
だって、最初の人が一番ひどい目に遭うのが普通だから。
と言う訳で、今日の生贄――もとい、栄光の試乗、第一号は
「そこのバカ息子君。君の機体なんだから君が一番に載る権利がある。どうする?」
「え? オレ?」
いきなり話をふられて驚いたのか自分を指差して周囲に視線を彷徨わせている。
貴也はうんうんと頷いた。
「そうだよ。これは君の機体だ。それに僕たちはこの機体を散々弄り回してしまった。さぞ、彼女も不安になっているだろう。となると、やはり一番に載るのは乗り慣れた君の方が彼女も喜ぶんじゃないか?」
優しい目で諭すようにそう言った。
だが
「都合のいい時だけ、メリーを人扱いするな! さっきまで無茶苦茶に改造してたくせに暴走するのが怖いからオレに押し付けようとしてるだけだろう!」
激しくこちらを罵るバカ息子。
だが、その通りなので貴也は何も言い返さない。
それどころか、完全に開き直って。
「うん。そうだな。確かに無茶な改造をしたからどうなるかわからない。うん。怖い、怖い。だから、一番、彼女を上手く扱える君に任せようというんだよ」
「ふざけるな。お前、さっき、オレの方が数段上手く扱えるみたいなことを言ってたじゃないか!」
「そうだね。なら君はそれを認めるんだ。自信がないならしょうがないなあ。所詮、君のメリーさんへの想いなんてその程度だったんだね。悲しいなあ」
「そんな訳ないだろう。オレのメリーへの愛は世界一だ」
「それなら任せるよ」
「あれ?」
こいつ、ちょろいなあ。
少し煽ってやっただけで承諾しやがった。
え? え? とことの成り行きについていけないバカ息子のことなど無視して兵器開発局の面々が彼を抱えて操縦席に誘導、ベルトで固定し始める。
そして、観測機器をロボットに接続していく。
えっと? 観測機器? こんな物、持ってきたっけ?
嫌な予感がして貴也は走り出した。
そして、目的地にあったのは……
「あいつ等、これまで使ってたとは……」
そこには残骸となったヘリがあった。
ドリルを改造している時に気付くべきだった。
高トルクのモーターをどこから調達してきたかを。
そう、こいつらはヘリのメインローターに使われているモーターを流用したのだ。
そして、観測機器の数々もヘリを分解して調達したようだ。
もう、呆れて物が言えない。
貴也が戻ってくると実験の準備が整ったそうで開発局の面々が整列していた。
あとは号令を待つのみらしい。
貴也はとりあえず今見たことを忘れて、実験開始を告げる。
決して現実逃避ではない。
と言う訳で
「起動用意! 点火」
「点火」
そう言うとリアクターが点火された。音はほとんどない。僅かな振動音がこちらに伝わってくるのみだ。
バカ息子はもう諦めたのか言われたことに応じてくれている。
ここまでは問題ない。
まあ、すべて市販品の流用なのでこの段階で爆発するようなことはない。
貴也は次の過程に移る。
「前進開始!」
「前進開始」
復唱する声と共にロボットは一歩踏み出した。
「「「「おおおおおお」」」」
一同のどよめきが上がる。
歩いたくらいで感心してどうすると言いたかったが、まあ、気持ちはわかるのでいちいち指摘などしない。
まあ、ここまでは貴也の予想の範囲内だ。
脚部は全体の重量を上げたので補強とパワーを上げたがそれほど大改造したわけではない。
問題が起こるとすればここからだ。
「右に作った壁をドリルを使って砕いてくれ」
これはさっき土魔法で生み出したものだ。
兵器開発局の面々と土木作業員総がかりで作り出した高硬度の壁。
下手な城壁などとは比べ物にならないほどの強度を生み出したらしい。
胸を逸らして自慢げに話していた。
本当にこいつ等は限度と言う物を知らない。
折角、改造したのに壊れたらどうするつもりなのだろうか。
「足元固定! パイルバンカー射出」
「パイルバンカー射出!」
足元に装備されたパイルバンカーが地面に射出された。
それと同時に補強部材が噛みあい下半身が完全に地面に固定される。
これでそう簡単に動かすことは出来ない。
「ドリル試験開始」
「ドリル試験開始」
『ギュン、ギュン』と音を立てながらドリルが空回りする。
正回転、逆回転、回転速度の調整も問題ないようだ。
観測班に視線を向けると
「トルクバランスに問題はありません。回転のひずみも問題ないレベルです」
貴也は頷いてロボットに視線を向ける。
そして
「壁を使った性能実験を始める。実験開始」
「実験開始!」
バカ息子の緊張した声が聞こえてくる。
あたりにはドリルの回転音だけが不気味に木霊していた。
そして、ロボットのアームが動いた。
ドリルが壁に向かってうなりを上げる。
「バカ! なんでそんな勢いよくドリルをぶつけるんだ!」
貴也の声は誰にも届いていなかった。
ドリルは壁を粉々に砕いてその勢いのまま前方に突貫、瓦礫の山に突っ込んでいた。
「アームのパワーが大きすぎたようですね。ゆっくり動かそうとしたのでしょうが勢いがつき過ぎてしまったようです」
観測班が冷静に報告を上げる。
そして、彼等は得たデータをもとにチューニング案の検討に入っていた。
そんな彼らを見ながら
「そう言うのは彼を助けてあげてからやってね」
貴也の声が虚しく響く。
だが、それを聞いている人はほとんどいなかった。
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