第百十四話 マッドな人に任せてはいけないと悟るが無双できない
「改造はこんな所かな」
貴也は額の汗を拭いながら清々しい顔でそう言った。
周りにいたバルト以下兵器開発局の面々も皆、満足そうである。
そんな我々の横で一人蹲って泣いている人が一人。
「うう、オレのメリーが」
「何を嘆いてるんですか。ここはメリーさんのパワーアップした姿に感涙するとこではないのですか?」
「オレが手塩にかけて娘のように可愛がっていたメリーをこんな姿にしやがって!」
「でも、ですねえ。強度もパワーも当社比400%アップですよ」
「機械ってもんはスペックが良ければいいってもんじゃねえ。適材適所じゃないと使いにくいんだ!」
「うっ、ですが、ここを見てください。ドリルがこんなに大きく、パワーも上がってこれならオリハルコンすら粉々ですよ」
「オリハルコンなんて砕く必要はねえ。お前等、いったい何と戦うつもりなんだ!」
「でも――そうだ。ここ見てください。これ! 自爆装置ですよ。自爆は男のロマンじゃないですか!」
「ふざけんな。どこの世界に娘に自爆装置つけて喜ぶ奴がいるんだ。オレは狂信者でも盲目的なテロリストでもねえ」
うん。その通りだ。何とも言い返すことがない。
貴也は頬をポリポリ掻いている。
そんな貴也を見てバカ息子は怒りを爆発させるどころか崩れ落ちてさめざめと泣きだす。
「ふざけんなよ。オレが丹精込めて組み上げたメリーをこんな姿にしやがって、原型が全くないじゃないか」
そんな彼の横に立ち肩を優しく叩きながら慰める、貴也。
「そんなことないですよ。操縦席を見てください。操作系は全くいじってませんし。ホラ、ここ。後部の視界を見るための補助カメラ。これも生かしています。あと、足の裏はそのままですよ」
「裏を返せばそれだけじゃないかあああああああ」
うん。その通りだね。はっきり言ってやり過ぎてしまった。
ドリルはほぼ新規で作り替えたし、アーム部分はパワー不足を解消するために油圧シリンダーの大型化、本数を増やした。それに伴い、油圧ポンプを外付けにして後ろに台車を連結している。
骨格もパワーに耐えられるように大幅に補強した。
見た目上、一番、大きい変更はこれだが、他にも様々なところを回収している。
もう別物と言って良いだろう。
大きな声を上げて泣くバカ息子に対して、とりあえず、貴也は
「すまん。ちょっとやりすぎたかな」
「ふざけんなぁ。これがちょっとの訳ないだろうが!!!」
素直に謝ったつもりだったが許してもらえなかった。
うん、しょうがないね。
それよりも……
「貴也さん。ちょっと来てもらえますか?」
バカ息子を見下ろしながら無表情のキリルが貴也を呼んでいる。
その雰囲気からは有無を言わさぬものが有った。
貴也は小首を傾げながら彼の後についていく。
そこで
「なんですか、これ?」
貴也の頬を冷や汗がタラリと一筋たれる。
キリルは淡々と一言。
「この残骸の山どうしてくれるんですか」
周りを見るとパーツを強奪された重機の残骸が虚しく並んでいた。
だよね。
あいつ等はヘリで大急ぎで駆け付けてきたのだ。
ヘリには積載量に制限があるし、急ぎだったので最低限の準備もままならなかったことだろう。
なのになんであんな部品を持っていたのか。
そう、現地調達したのだ。
そして、その部品がどこから出てきたかというと……
貴也は呆然と重機の残骸を眺めていた。
そして、何とか気を取り戻し、キリルに伝える。
「後日、復元できるものは復元します。出来なかったものについては公爵家に請求書を回してください」
取り外して、そのまま流用した部品もあるが、大部分は改造の為に切断、曲げ、切削、溶接などして修復不能状態になっている。
多分、復元できるのは半分以下だろう。
部品を取り寄せて組み直すか、それとも、新しい物を買って返済する方が安上がりだろうか?
考えるだけで頭が痛くなってきた。
久し振りの機械いじりで少々羽目を外し過ぎたようだ。
歯止め役にならなくてはいけない貴也が率先して暴走しては、こうなることは目に見えていただろう。
だが、覆水盆に返らず。
貴也は頭を抱えながらもバルト以下兵器開発局の面々に振り返る。
彼等はその惨状を見ても何ら罪の意識もないようだった。
多分、科学の発展のための尊い犠牲だとでも思っているのだろう。
貴也はイラッとしたが、彼の心の中にいる悪魔の囁きを聞いてニヤリと笑う。
そして
「よくわかりました。今回の損害は公爵様にお願いして、貴方たちの給料から差し引いて貰いますのでそのつもりで」
愕然とする面々の顔を見て貴也の溜飲が少し降りた。
これで彼等の暴走が少しでも収まってくれればいいだろう。
だが、この時、貴也は知らなかった。それが公爵の手で本当に実行されることを。
そして、それは貴也にも及ぶことを
「ええ、なに? いまのナレーション。聞いてないよおお!!」
貴也の慟哭が響いたかどうかは別の話である。
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