第百十一話 ロボットの改造をしようと思うが無双できない
「相変わらず、お二人は興味深いですねえ」
そう言ってバルトが近づいてきた。
その後ろには機材を台車に積んで運んでくる人達。あれは兵器開発局の人達だ。
電磁投射砲の実験以来、バルトと仲良くしてたみたいだけどこんなところにまで乗り込んでくるとは……
でも、バルトはあくまでも魔導具の専門家なので科学系の専門家がいるのは嬉しいことである。
そんなことを考えながら、まだ、貴也の腹の上で楽し気にぴょこぴょこ飛んでいるスラリンを掴んで放り投げておいた。
スラリンはびっくりした表情で遠くに飛んでいく。
それにしてもビリビリ攻撃を喰らうとは思ってなかった。
これから色々やらないといけないのに感電の影響か頭が重い。
そう思いながら頭をふると優紀が
「貴也。さっきのは何なのよ」
「なにって何だよ」
「スラリンの最後の技を喰らったときよ」
うん。あれは不用意に同じ方法で回避しようとした自分が浅はかだった。
少し考えればスラリンが一度防がれた技を連続で使うなんておかしいと気付かなければいけなかった。
確かにあれは油断だった。反省。
そう考えて謝ろうとしたのだが
「超電○スピンは別に電気を帯びたりしてないんだよ。どちらかというと一発目の方が超○磁スピンに近いんだから」
そこかよ!
こいつに何を期待してたのだろうか。いままで黙っていたかと思えば話し出したらこれである。
貴也は頭を抱えてしまった。
そんな優紀はとりあえず、黙らして置く。
力仕事になれば役に立つかと思って連れてきたが間違いだったかもしれない。
こんな事ならこいつを留守番にして最初からスラリンを連れてこればよかった。
多分、スラリンの方が優紀より頭が良いだろう。
そんなことを考えていたらスラリンがドヤ顔で近づいてきて、優紀をからかい始めた。
うん。こいつはどうやら貴也の気持ちがわかるらしい。
マジで不思議生物だ。
って、そんな場合じゃなかった。早く本題に戻らないと
「それで今回の対策なんだが……お~い。聞いてる?」
バルトを始め、兵器開発局の面々は貴也のことなど無視してロボットに夢中だった。
やっぱり、男ならロボット好きだよね。
べたべたと装甲を触るくらいならいいが、早速分解を始めようとする奴らまで出そうだったので急いで止める。
本当にマッドな皆様で困る。
おほんと咳払いをして貴也は話を始める。
「それでマイソンは持ってきてくれた?」
「マイソンターボです」
「いや、名前なんてどうでも良いから。それで性能テストは終わってるのか?」
「名前は重要なんですがね……」
なんて不貞腐れて言うバルトを無視して先を促す。
「軽いテストは移動中に完了しています。あとは高出力使用時のテストですね。流石にヘリの中では危険なので行ってません」
「そうか、じゃあ、それを早速行ってくれ。優紀。悪いけどアルを呼んできて」
「アル君がなんで必要なの? テストくらいならわたしが魔法を撃つよ」
「何言ってるんだ。人体実験はアルを使うのがここでの嗜みなんだぞ」
うんうん、と頷いてくれるバルト以下兵器開発局の面々。
本当にこの人達はノリがいい。
ちなみに優紀に任せない本当の理由は彼女があるほど魔法の制御に秀でてはいないからだ。
必要なのが高出力だけなら優紀でも問題ない。
だが、もしマイソンが耐えられなくて壊れてしまっては本末転倒だ。
その点、アルの魔法制御は一級品だ。調節も緊急停止もお手の物なのである。
貴也もアルの魔法技術だけは認めているのだ。
それに無駄に丈夫だし。
ギャグ要員だからか、あいつは何をされても死なないんじゃないかとさえこの頃感じている。
と言う訳でテストの準備をみんなに指示する。
そして、貴也はロボットを見上げていた。
「貴也さん。今回の作業にこれを使おうと思ってません?」
バルトが隣に立ち同じようにロボットを見上げている。
「極力、被害は出したくないからな。搭乗者を守る装甲を強化して、マイソンを右手に組み込む。左手のドリルで穴を掘りながら、土魔法とマイソンを併用して崩落の予防。あとは掘った後の補強工事をどうするかだな。人手を使うと崩落が起きた時の被害が大きいからこっちも何か機械が使えればいいんだけど」
「なるほど、でも、こいつでそこまでできますか? ドリルもアームも出力不足です。それに土の搬出も考慮しないと」
バルトには貴也の考えなどお見通しのようで次々に修正点や改善案を出していく。
さらにロボットの改造計画まで進んでいた。
やはり、こいつは優秀だ。
これで一般常識さえあったらと思うのは貴也の高望みだろうか。
口には出さずに心の中でそっとそんなことを考えていた。
その時だった。
「貴也さん、少しマズいことが」
バルトとああでもない、こうでもないとロボットの改造計画を話しているといつの間にかキリルがやってきていた。
バカ息子と殴り合いの名残か厳つい顔がさらに厳つくなっている。
まあ、そんなことは良い。話を促す。
「取り残された作業員のことなんですが……」
キリルの顔色が悪い。最悪のことが頭を過る。
そんな貴也の表情の変化を読み取ったのか、彼は慌てて首を振った。
「別に生命の危険はありません。ただ……」
キリルが言い難そうに顔を顰めていた。
緊急事態なのに歯切れの悪い彼に対して貴也は少しイラッと来ていた。
「言いたいことがあるならはっきり言え。何か問題があったのか?」
「はい。生命に関わるような緊急の問題ではないのですが、坑道内に備蓄されているエネルギーキューブの蓄熱量がほとんど残っていないそうなんです」
「それは重大事じゃないのか? 生命維持には問題ないのか」
貴也が慌てて問いただすと
「それは大丈夫です。坑道内の酸素供給などは外から送り込むようになっていますし、酸素ボンベは動力を必要としません。非常食も温めなくても食べられますので問題はありません」
「なら何にエネルギーキューブを使うんだ?」
首を傾げて貴也が問うと、キリルは申し訳なさそうに返答した。
「エアコンや電気、あとはストレス解消のための娯楽。ゲームや映像などに使います」
なるほど、生命のかかっている、いま。そんなことにいちいち構っていられるかと怒られるとでも思ったのだろう。
だが、彼が懸念する理由も分かる。
ただでさえ、閉じ込められていつ出られるのか分からない状態だ。
取り残された人たちの精神状態を考えると少しでも快適な環境を与えたい気持ちはわかる。
だから、貴也はそのことを責めたりはしなかった。
「わかった。早急に手を討とう」
「ありがとうございます」
キリルはそう言って頭を下げた。
「さてどうしようか?」
口ではこういっていたが、貴也にはいくつか頭に考えがあった。
あれをどう利用してやろうか。
貴也は悪い笑顔を浮かべるのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
最近、またじわじわブックマークが増えてきました。
こうなると日間ランキングに端にでも載れたらと欲が出てくる今日この頃です。
まあ、読んで貰えているだけで十分嬉しいんですけど人間は欲深いですね。
ではでは、また来週。良かったら読んでください。