第百七話 バルトが空気を読めなくて無双できない
バルトはすぐに連れてこられたようだ。
画面上でそれを確認した貴也は彼に確認する。
「バルト。いまの状況、どこまで把握している?」
「なんか面白いことに巻き込まれているようですね。こういう時はちゃんとわたしにも声を掛けて頂かないと」
面白いことという言葉に現場の人間の表情が強張る。
こいつは本当に空気が読めなくて困ると窘めようとしたが今は時間が惜しい。
さっさと本題に入る。
「それでバルトに大至急用意してもらいたいものが有るのだが――」
「マイソンですね」
バルトは被るくらいの感じで正解を引き当てた。
本当にこいつは優秀だ。
「そうだ。それを持って直ぐに来て欲しい。あと、あのプレートもつけた状態にしておいてくれ。あとはエネルギーキューブもだ」
「なるほど、あの機械は吸収した魔力を垂れ流しにしますからね。プレートで熱エネルギーに変換してエネルギーキューブに溜めるわけですね」
ふむふむと頷きながらこちらの意図を的確に把握していく。
本当に話が早くて助かる。
「それで準備にどれくらいかかる?」
貴也がそう尋ねるとバルトが 少し口籠った。
「どうしたんだ? 何か問題でも?」
「それなんですが、マイソンは分解してしまってないんですよ」
「なに!」
驚きのあまり大声を出していた。
「いえね。マイソンって吸収魔法と同程度の役割しか出来ないと後回しにしていたのですが、貴也さんの決闘を見て研究してみる価値があると気付いてしまってですね。サックっと分解調査してパワーアップさせても見ようと……」
そうだった。こいつには初代公爵の遺産だからとか関係なかったんだ。
うん。こいつのことだ。興味があったらそれが国宝だろうと分解位するだろう。
問題は
「どれくらいで元通りにできる? いまはとにかく時間が惜しい」
「えっと、無理です。コア部分はブラックボックス化されていていじられなかったのですが、それ以外の部分は現代の科学、魔導技術でも代替ができそうだったのほとんど部品は調査の為に復元できないレベルで分解しちゃいました」
マジかよ。こいつ。
研究以外何も考えていない奴だとは知っていたが、ここまでやるとは思ってなかった。
それはこいつをスカウトしてきたエドも同様で初代の遺産を壊されたと知って呆然としていた。
「……まあ、いい。それでマイソンは使えないのだな」
こうなるとまた振り出しだ。次の一手を考えなければならない。
折角、希望が見えたのにそれが潰えて貴也と言えどもガクリときていた。
しかし
「マイソンはありませんけど、マイソンターボならありますよ。いやあ、改良は大変でした。保存の魔法がかかっていましたがへたっている部品も多かったですし。何分、500年前のものですからね。現代の部品の方が性能の良い物もあったんですよ。それと構造もちょこちょこいじってなんと吸引力は当社比三倍ですよ。スゴイでしょう」
「えっ、使えるの?」
「当たり前ですよ。実験台のアル様がいなかったのでテストはまだですが、理論値は現行を凌駕しています。少し大きくなってしまいましたが、取り回しも良いですよ」
バルトはドヤ顔でそう言った。
「「「「そういうことは先に言え!!!」」」」
全員の叫びが一致していた。
みんな頭を抱えたい気分だったが、そんな中、バルトは一人小首を傾げていた。
こいつに何を言っても無駄だろう。
しばらくして落ち着いた貴也は
「至急、マイソンを送ってくれ」
「マイソンターボです」
「そんなこだわりはどうでも良い! エド様、運搬の手配を」
「わかった」
「ハイハイ」
「なんだよ。バルト」
能天気に手を上げてこちらにアピールしてくる、バルト。
貴也はうんざりしながらも彼に応えた。
「わたしもそっちに行って良いですか?」
「お前みたいに空気の読めない奴がいたら現場が混乱するだろう。それにお前のくだらん発言で暴動が起きたらどうするつもりだ」
勢いで言ってみたが意外にありそうで怖かった。
だが
「マナタイトの鉱山技師がいないんですよね。わたし発掘経験ありますよ。マナタイトの臨界許容点も把握してますし、吸収魔法も使えます」
こいつはいまなんて言った?
場が静まり返る。
そして
「「「「「「「そういうことは早く言え!!!!」」」」」」」
怒号が飛び交っていた。
ただ、バルトだけがキョトンと首を傾げている。
もう、こいつに関しては何も言うまい。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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というより反応が凄く欲しい。最近、スランプなのか筆の進みが悪く。
これでいいのかと悩んで書いては消しを繰り返しています。
誤字脱字なども教えて頂けたら幸いです。
宜しければこれからもお読みください。