第百六話 対策を練るが無双できない
いったん、通信を切って現場にいる面々に向き直る。
ここにいるのは現場監督、忙しくて、まだ名前も聞いてなかったキリルと鉱山技師のバーゼル、最初に出迎えてくれた事務方でこの鉱山の責任者のカレルだ。
この人、現場は現場の人間にまとめさせた方が円滑に進むことを知っているのか、今までも全部キリルに仕事を押し付けていたらしい。ちゃんと考えてのことならやり手なのだが、ただのいい加減な男かも知れない。
第一印象は気弱な中間管理職って感じだったが、なんだかつかみどころのない人間だ。
まあ、そんなことを置いておいて対策を決めなくてはいけない。
ちなみにアルもこの場にいるのだが、一切、口を出さない。
完全に貴也に任せてしまうつもりらしい。
確かにそっちの方が上手く行くような気もするが、それでいいのだろうか?
いかん。少しテンパっているようだ。
無意識に現実逃避を始めてしまう。
貴也は気合いを入れなおして面々と向き直る。
「申し訳ありませんがわたしは鉱山に関しては素人です。現状で言えることは危険地域からの退避と取り残された人間への補給をどうするかくらいしか言えません。それ以外に何か策はありませんか?」
貴也の質問に場は静まり返る。
さっき、キリクも言っていたが彼らはマナタイトに関しては素人なのだ。すぐに意見が出せるのなら既に実行しているだろう。
貴也は質問の切り口を変える。
「えっと、バーゼルさんは鉱山技師なんですよね。経験は問いません。マナタイトの採掘について知っていることを教えてください」
そう言うとバーゼルはメガネの位置を正しながら話し出した。
この人は作業服姿だったが、細身で現場よりデスクワークの方が似合っているタイプに見えた。
実際、彼の専門は地質調査で、どこをどんなふうに掘るか方向性を決めるのが仕事らしい。
実際に掘る時はキリクが指揮を執る。
だから、採掘方法などはキリクの方が詳しいらしい。
そんな前置きをしてから話を始める。
「マナタイトの採掘方法は基本、魔力探知を使って掘り進めます。マナタイトは魔力の許容量を越えさえしなければただの爆弾くらいしか危険はありませんから」
ただの爆弾っていう表現に突っ込みたいところだが貴也はグッと堪える。
バーゼルの話は続く。
「ですから、基本は機械で掘り進めるのですが魔法が使えないわけではないんです。いつも以上に慎重には進めますが水やガスが出た時、崩落が起きた時なんかには魔法を使います」
「でも、それだと爆発するんじゃないのですか?」
「はい。だから、魔力探知を使用するんです。マナタイトは魔力をため込む性質があるので魔力探知で位置は割り出せます。高位の魔力探知を使える者はその魔力濃度も把握できるのでマナタイトが含む魔力量を見極めながら掘り進めるのです」
「それは魔力探知が得意な物がいれば我々でもできるのですか?」
貴也はアルに視線を向けながらそう尋ねる。
アルは公爵家の人間なので魔法は得意だ。魔力探知も多分この中で一番うまく使える。
その意図を察したのかアレンが前に立つ。
「貴也さん。アルフレッド様にそんな危険な真似をさせるつもりですか?」
口調こそ穏やかだが、殺気が満ちていた。
護衛としては当然の反応だろう。
急変した雰囲気にバーゼルはのまれながらも声を荒げる。
「ちょっと待ってください。そんな素人ができる者じゃないですよ。魔法探知が使えればマナタイトの位置はわかると思います。ですが、許容量の見極めなんて何年も経験を積んだ人じゃないとできません。悪いですけど、公爵家のお坊ちゃんに作業員の生命は預けられませんよ」
それにはキリクもカレルも同意のようだ。
まあ、カレルの方は保身の気持ちが混じっているかもしれないが……
そんな周囲を見渡しながら貴也は重い息を吐く。
「そうですか。他に方法はないのですか?」
そこでカレルが何か思い出したかのように口を開く。
「そう言えば、吸収魔法を使ってマナタイトの採掘をする方法があるって聞いたことが……」
貴也がカレルに視線を向ける。
その眼が鋭かったのか、カレンが怯えていたのだが、今はそんな場合ではない。
「それはどんな方法なんですか」
「いや、わたしはそんな話もあるって聞いただけで詳しい話は……」
カレルはキリクの方を見て助けを求める。
キリクは眉根に皺を寄せて答えた。
「確かにそんな話を聞いたことがある。マナタイトが魔力を帯びだしたら吸収魔法で魔力を吸い上げるらしい。ただ――」
「ただ?」
「吸収魔法を実用レベルで使える人間がほとんどいない」
アルに視線を向けると彼は首を振っていた。アルでも使えないようだ。
周囲を見渡すとアレンも他の護衛騎士も首を振っている。
話を聞くと吸収魔法というのは難易度がかなり高い魔法らしい。
吸収魔法
この魔法はその名の通り、他の者の魔力や体力を吸収して大気に放出したり、自分の物にできたりする魔法らしい。
こう聞くと非常に有効な魔法に聞こえるが重大な欠点がある。
一つは習得が困難であること。
二つ目は成功率が極端に低いことだ。
この魔法の成功率は魔法の抵抗力に関係する。
だから、レベルが低いうちは殆ど成功しない。
そして、レベルが上がっても一定以上の魔法抵抗力を持つ者には通用しないのだ。
よっぽど格上でないと効かない魔法など誰が使うだろうか。
格下相手に僅かばかりの魔力を得るくらいならさっさと倒した方が良いだろう。
あと、この魔法の問題点として挙げられるのは成功か失敗かしかないことだ。
普通の魔法なら威力を減衰させられてもダメージを与えることができる。
だが、この魔法は成功か失敗しかない。
しかも成功した時しか経験値を得られないので熟練させるのも一苦労なのだ。
なるほど、便利そうでもなかなか使われないわけだ。
「でも、公爵家なら吸収魔法を使える者がいるかもしれません。手配するだけでも――」
そこで貴也はあることを思い出して呆然としていた。
「貴也さん? どうかしましたか?」
アルが心配そうに聞いてくる。
この場には公爵家の人間としているので呼び捨てにしなければいけないのに、そのことを忘れているようだ。
だが、それで貴也は気を取り直した。
「至急、エドワード様に連絡を! バルトを呼んでください」
貴也の声が響き渡るのであった。
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