第百五話 マナタイトが危険すぎて無双できない
「エド様。マナタイトの専門家は集められましたか?」
直通回線が開かれ真っ先に貴也が確認したのはこのことだった。
『マナタイト』
この希少鉱物は珍しい性質があり、その性質上、非常に取り扱いが困難な物でもあった。
マナタイトは非常に不安定な物質で一定の衝撃を加えると爆発するのだ。
特に魔力に対しては敏感で、近くで魔法を発動するとその魔力吸収。鉱石がその許容量を超えると過剰反応を起こし飛躍的に爆発力を上昇させる。
そして、その爆発力は火薬など比にならない。
また、マナタイトは爆発すると含んでいた魔力を周囲に放出してしまう。
その魔力は近くにあるマナタイトに吸収され爆発。
誘爆は連鎖的に発生し鉱脈にあるすべてのマナタイトが爆発する恐れがある。
その被害は想像を絶するものになるだろう。
その為、崩落事故のあった現場では一切の魔法が使えなくなってしまった。それが救出作業を遅らせている原因になっている。
通常、地盤が緩くなっていても土魔法で固めながら掘れば問題はない。
水が出ても魔法で水を消すことができる。
ガスが出ても風魔法で拡散すればいいし
岩盤に当たっても魔法で岩の強度を下げることが可能だ。
土木機械と魔法を併用するこの世界の土木技術は現代の日本と比べてもかなり優れている。
しかし、困難にぶつかると魔法を多用してしまうことが、今、あだになってしまった。
マナタイトがある以上、魔法は使えない。いや、実際は使えないわけではない。
しかし、専門家でない我々にはその匙加減がわからないのだ。
鉱脈の規模も分からないので賭けに出る訳にもいかない。もし賭けに負ければ取り残された人間以外にも現場にいる者。下手すれば周辺に住んでいる者にまで被害が及ぶ危険性があるのだから。
少し話が逸れてしまったので話を戻す。
「残念ながら領都にはマナタイト採掘の専門家はいませんでした。すべて鉱山に出払っているそうです。学者や研究者はいますが、そのような物が現場に行けば混乱を招くことになるでしょう」
「そうですね。ですが、ただ手をこまねいている訳には参りません。そちらで研究者チームを作って対策案を練られませんか?」
「やってみますが現場を知らないものの意見が役に立つ物か……」
軍事も学んでいるエドは現場が計算通りに進まないことをちゃんと理解している。
とかく科学者は自分の理論を押し付けたがるが現場は不確定要素が多すぎて計算通りには回らないのだ。
その辺を理解してくれているエドがいるのはありがたい。
だが、今は猫の手だって借りたい時だった。
だから、再度貴也は要請する。
「ですが、今はどんな意見でも欲しい状況です。魔法を使わず作業を進めても掘削機械の衝撃がマナタイトにどの程度影響を与えるかさえわからないのですから」
唸るエドを見ながら貴也は溜息を吐きたくなるのを懸命に堪えていた。
「わかりました。こちらでも色々考えてみます。それでそちらですが――」
「現在、二次被害を考えて救出作業の一切を中止させています。基本方針は取り残されている者の支援活動をメインに考えています」
「そうですね。それでいいと思います」
「ですが、現場の作業員を長い時間押さえつけておくのは困難だと思えます。最悪の場合、兵を派遣してもらって作業員を強制的に山から降ろさなくてはなりません」
貴也の言葉にエドはしばらく唸っていた。
そして
「わかりました。準備はしておきます。ただし、決定はわたしがします。貴也さんは些細な情報でも構いませんので小まめに報告を上げてください。あなたが責任を背負い込んだらダメですよ。それはわたしの仕事ですから」
流石は次期公爵だ。現場が欲しい言葉をよくわかっている。
貴也は改めてエドのことを感心しながらも今後の方針について考えているのだった。
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