第九十八話 レンレンの言い訳を聞くが無双できない
「もしかして、さっきの地震はレンレン様の仕業なのですか?」
「そんなことないんだぉ。悪いのは勝手にわたしのお部屋に入ってきて、わたしに剣を突き立てた奴なんだぉ。もうプンプンなんだぉ」
「そうですか。その侵入者を撃退するのに寝ぼけて力加減を誤って地震が起きたと……」
口調では怒って見せているが、内心ではかなりビビっていた。
寝ぼけて放った一撃で大地震を起こすなんて、なんて規格外の力をしているのだろうか。
流石、龍である。
ここで龍について説明しておかなければいけないだろう。
この世界に龍は六体いる。
火龍、水龍、風龍、土龍、黒龍に聖龍だ。
この六体は創世記から存在しており、神に準ずる力を持っている。
殺すことも死ぬこともあるが、不滅の存在。
死ぬと一定期間を置いてそれぞれの属性にちなんだ魔力だまりに卵が産まれる。
その後、孵化してただの幼竜として成長していく。
そして、成竜となるときに記憶と共に真の姿に進化するのだ。
ちなみに竜と龍は別物である。
下位竜であるワイバーンなどはトカゲの魔物から進化したもの。
上位竜と言われるファンタジーでよく見られるドラゴンは龍の眷属であったりする。
龍の眷属は龍の血を引くものである。
基本、龍は不滅の存在なので子孫を残す必要がない。
だが、交配が出来ないわけではないのだ。
時に龍は人や魔族、神、幻獣、伝説上の魔物など高度の知性を持つ者との子供を残すことがある。
その子孫の一部がドラゴンなのだ。
優紀が倒したブルードラゴンはこの上位竜にあたる。
ただ、このブルードラゴンは生まれてからそれほど時間が経っておらず(と言っても50歳以上)上位竜にしては大して強くなかった。
閑話休題。
そんなことを考えながら黙ってジト目続けることしばし。
レンレンはシュンとして謝った
「ごめんなさい」
この娘、龍の癖にすごく素直だ。
龍は人に対して謝罪などする必要はない。
龍とはそういう超越した存在なのだ。
この世界の人にとって龍が暴れるのは自然災害と同義で、ただ通り過ぎるのを祈るだけのもの。
この場合、逆に貴也を無礼だと言ってディアマンテ王国を消し炭に変えても文句は言えないのだ。
その証拠にエド以下多数が顔を蒼褪めさせていた。
うん。心臓に悪いよね。
ちなみに貴也の心臓もバクバク言っている。
平気な顔をしているのは優紀くらいだ。
こいつの神経は人類ではないのでカウントしてはいけない。
っと話がすぐにそれてしまう。戻そう。
「いえ、レンレン様を咎めているわけではありません。それで賊に襲われたと言われましたが、おケガはありませんでしたか?」
「そうなのよ。これこれ。見てよ。額のところにケガがあるでしょ。もう、寝てる乙女の頭を剣で殴るなんてプンプンだお」
気のせいか画面の向こうが揺れている。
後ろに見える装飾がいくつか落下していた。
そこに慌てて爺やが入ってきてレンレンをたしなめている。
どうやら気のせいではなく彼女の怒気で建物が揺れていたらしい。
レンレンは不満そうに頬を膨らませて爺やを睨んでいたが、揺れが収まったのか爺やはホッと息を吐いていた。
「あのお。大丈夫ですか?」
「はい。よくあることなので問題ありません。姫様は力のコントロールが不得意でありまして、感情を露にされますとたまに城が崩壊するのです」
「ブー。そんなことないんだぉ。そんなことを言ってると爺やもぶっ飛ばすんだぉ!」
なんてことを言われているが爺やは慣れたもので肩を竦めるだけで無視している。
それが気に入らないのか、レンレンが何やら喚いていた。
だが、爺やはそれを軽く受け流してこちらの対応をしてくれるみたいだ。
「あのお、いいのですか?」
「これ以上、姫様と話して貰っても話が先に進みませんからね。謝罪は済んだのであとは実務レベルの話です」
そう言ってからレンレンの方に向き直り、真面目な口調で
「これから非常に難しい話が始まりますけど姫様が対応しますか? 別にわたくしは構いませんが、大変面倒臭い書類仕事とお堅い人族のお偉方と畏まって何時間もお話しなくちゃいけませんよ。凄く退屈で鬱陶しいですがそれでも構わないのならお願いします」
「ふえ?」
レンレンは挙動不審になりオロオロとあたりを見廻している。
そこに爺やは追い打ちをかける。
「今日は実に喜ばしい日です。姫様が自らすすんでご公務にお励みになるとは。龍としてのご自覚が現れたのですね。これは姫様の熱意に応えるためにもお勉強の時間やお仕事の時間を増やさねばなりませんね」
爺やのセリフにレンレンは顔を真っ青にして絶望していた。
そして
「爺やの意地悪。くっちゃぺったら!」
そんな捨て台詞を残して逃げていった。
そのやり取りを呆然と見ているエド以下重臣。
もうこの人達さっきからそんな顔しかしていない。
マジ役に立たねえ。
そんな中、爺やが
「誰がくっちゃぺったらだ。本当にあのクソガキは……」
くっちゃぺったらが余程腹に据えかねたのかレンレンのことをクソガキ呼ばわりしている。
案外、この人、毒舌家なのかもしれない。
それにしてもくっちゃぺったらって何?
貴也がそんな分析をしている間に爺やは表情を改める。
「それではそろそろ真面目な話に戻りましょうか」
その一言で場の空気が切り替わった。
どうやらここからが真の外交交渉になるらしい。
格上相手の交渉だ。
貴也は下唇を舐めて気合いを入れなおすのだった。
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