第九十六話 ダメ元で水龍様と話してみるが無双できない
「貴様。水龍様を騙すとは不敬だぞ」
どうやら水龍様というのは海の守り神的な人? 龍らしい。
竜王と同じように神に準ずるものとして扱われているようだ。
それを利用しようと思うだけでも咎められることらしいのだが……
「すみません。オレは異世界人なもんでそういう神様とかに敬意とかないんですよ。皆さんが怖いならオレが交渉しますんで連絡とってください」
今までは執事として振る舞ってきたがここからは異世界人 相場貴也として対応する。
はっきり言ってこの世界の常識とか貴也にとってどうでも良いのだ。
萌えられるなら神でも悪魔でも萌えにしてしまう。
それがザッツ日本人と言うものだ。
敬意はあるけどそんな物よりネタの方が大事なのだ。
と言う訳でエドに判断を仰ぐ。
流石にエドに逆らって出来ることではない。
エドは押し黙って考える。
時計の針が煩わしいほどの静寂が場を包んだ。
「貴也さん。覚悟はあるのですね?」
エドは『貴也』ではなく『貴也さん』と呼んでいた。
それはすなわち貴也を公爵家の執事としてではなく、いち私人、異世界人の相場貴也として扱っているということだ。
「ええ、問題が起これば失礼な異世界人のせいにして水龍への生贄にでもしてください」
軽い調子で言う貴也に周囲の閣僚たちは息を飲む。
ここでやっと貴也の覚悟の大きさを知ったのだろう。
まあ、貴也にして見ればそう簡単に生命を差し出すつもりなどさらさらないんだけど……。
「水龍様への通信魔導具を用意しろ!」
エドの命令を聞いて何人かが部屋を飛び出していった。
しばらくすると、魔導具を取りに言った者達が戻ってきた。
緊張の面持ちで何やらびっちり中華風に装飾された小箱を持っている。
それを恭しくエドに渡す。
なんだかすごく大仰だ。
エドは頭を下げてからそれを両手で受け取ると箱をテーブルの上に置き、二礼一拍一礼。
神社じゃないんだからと思うのだがこれが作法らしい。
まあ、水龍が神様扱いならそれも致し方ないのか。
そんな厳かな雰囲気の中、この場にいる全員の緊張が高まっていく。
なんだか、貴也も緊張してきた。
気軽に言ってみたが、もしかしてとんでもないことを言ってしまったのだろうか?
今更だが少し後悔し始めていた。
ちなみになんでみんながこんなに緊張しているかというと水龍様は気性の荒い龍であるそうだ。
機嫌を損ねると国が消し飛ぶこともよくあることらしい。
この消し飛ぶというのは文字通りの意味で首都などが跡形もなく消し飛ぶ。
それほどの力を持つ存在なのだ。
そんなことを通信の魔導具が届くまで説明された。
くれぐれも機嫌を損なわないように、と
うん。止めようか?
そう言ってみたが誰も聞いてはくれなかった。
もう後戻りは出来ないらしい。
そんなことを考えている間にエドは小箱の蓋を開ける。
そして、厳かに取り出したるは掌大のオーブだった。
「それでは通信の魔導具を使います。他の者は下がってください」
そう言うとエドの後ろにいた人達がオーブを挟んで反対側に移動していく。
貴也もついていくがクロードに首根っこを掴まれて連れていかれた。
冗談ですよ。テヘペロって見たがクロードは無表情に首根っこを掴む手を放してくれない。
どうやら、冗談などやっている場合ではないらしい。
場を和まそうとする貴也の気遣いは無意味だったようだ。
こうして、エドの後ろにはクロードと貴也が控えているだけになった。
いや、もう一人いた。
「なんだか楽しそうだね。龍を見るのなんて初めてだよ」
なんかワクワクしているのが一人いる。
なんだか某サイ○人のようなことを口走りそうだったので睨み付けておいた。
オラはちっともワクワクしねえぞ。
「それでは始めます」
緊張した面持ちでエドはオーブに手を翳す。
そして、魔力を流し始めた。
しばらくすると、オーブが輝きだし、空中に映像を映し出す。
そこに現れたのは
「ハロハロ、水龍の白蓮ちゃんだよ。 レンレンって呼んでね?」
あまりにも場違いな言動に場は凍りつくのだった。
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