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第九十三話 騎士団長に何とか帰って貰ったが無双できない


 次の日の朝。

 アスカは今日もモリモリ朝食を食べていた。

 フードファイトは健在で競うように優紀もモリモリ食べている。

 こいつらの食費は誰が出すのだろう。

 自分に回ってこないよな、と軽くエドの様子を伺てしまってっておく。

 まあ、公爵様は倹約かだけどケチではないのでそんなお金を使用人に請求したりしないだろう。

 しないよね。


 と言う訳で、いまのところアスカに変わった様子はない。

 そのことに貴也はホッとしている。

 素人催眠術が効果を発揮しているようだ。


 ちなみに貴也の催眠術の腕が凄いのかというと全くそう言う訳ではない。

 あの後、催眠術が掛けられるのかと優紀に問われて試してみたのだが……


 やっぱり、かからなかった。

 まあ、予想通りなので問題ない。

 本当は少し残念だけど……


 あともう一つ、昨夜、不安になって催眠術について調べてみた。

 やはりというか、なんというか、こちらの世界にもしっかりと催眠術はあった。

 ただ、この辺の研究はあまり発展していないようで日本とそう大差ないレベルのようだ。


 よく使われるのは魔物の被害者のPTSD治療。

 やはり、魔物に襲われてトラウマを負う人は多いらしい。

 他にもうつ病などもあるらしい。


 それで貴也が一番知りたかったことなのだが、催眠術を魔法で治療できるかだ。

 催眠術が状態異常と同様に魔法で治療できるのでは意味がない。

 戦闘中に状態異常を回復させる魔法を使用したら、トラウマを思いだしてフリーズ。

 魔物にその隙をつかれるなんてことになったら目も当てられない。

 薔薇騎士団は基本、危険な魔物と戦う立場にあるのだ。

 危険は普通の人と比べ物にならない。


 それで結果は……


 問題なかった。

 というか多分問題はないと思う。


 確かに魔法で暗示を解くことは可能なのだが、そこには一定の法則があるらしい。


 まず、一つ。

 魔力が関わらないものは魔法では回復しづらいらしい。

 これを聞いて少しほっとしている。

 ただ、別の危険を思いついてさらに調べてみた。


 毒草などは大丈夫なのだろうか?

 魔力が関わらない自然由来の毒に魔法で治療ができないというのは問題だろう。

 ただ、この心配は杞憂に終わった。


 この世界にはどこにでも魔力が込められている。

 魔物はもちろん動物や植物も少ないながらも魔力を持っている。

 つまりこの世界の生き物には魔力が込められていると言えるのだ。

 しかも、毒性が強くなればなるほど魔力が多くこもっている傾向があるらしい。


 そうなると、日本から毒を持ち込めばどうなるか……


 結果は魔法で回復できない毒が出来る。


 ただし、そんな毒物を所持してこちらの世界に転移してくる絶対数が少ない。

 それにもし毒草の種子を持っていたとしても、この世界に植えて育てた時点で魔力を持ってしまう。

 そうなると回復魔法が有効になってしまうのだ。

 こうなるとそんな毒は非常に貴重な存在となって入手は非常に困難となる。

 まあ、心配するようなことではないだろう。


 話が逸れてしまったので戻す。

 今回の催眠術だがこれは魔法的な手法は使っていないので魔法での回復は難しいらしい。


 二つ目

 確かに催眠の暗示は魔法で解消できる。

 ただ、悪い暗示は魔法で回復させ易いが、良い暗示は魔法で回復しにくい傾向にある。


 回復魔法は身体を良い状態に持っていこうとする魔法だ。

 だから、今回、貴也がアスカに掛けた暗示のように苦しみから解き放つために記憶を封印するというような物には効きにくいのだ。

 回復させたら精神に異常をきたしたでは回復に意味がないからだ。

 その辺にどういう理屈があるのかはわからない。

 まあ、いまは魔法だからと考えておくことにする。


 三つ目

 回復魔法は本人や術者が異常を認知していないと効きにくい傾向がある。

 どうやら、回復魔法は本人や術者が認識する正常な状態に戻す魔法らしい。

 だから、悪い状態にあることがわからなければ魔法は効果を発揮しない。

 普通、回復魔法は毒を癒せとか、麻痺を癒せとか、念じながら使うのだ。

 だから、認識外にある今回の催眠術には効きにくい。


 四つ目

 日常となった状態異常の回復は困難になること。

 さっきも言ったが回復魔法は本人や術者の認識により正常な状態に戻す魔法だ。

 だから、時間が経過するとその状態が正常な状態と身体が受け入れてしまう。

 これは意識的にはどうすることもできないので仕方がない。


 と言う訳で魔法による治療はあまり心配しなくても良さそうだ。

 一か月も経てばこの事実を知った人が無理やり催眠術を解くか催眠術の専門家がよけいなことをしない限り記憶が戻ることはないだろう。


 そんなことをにこやかに食事を摂っているアスカを見ながら考えていた。

 そして、食事が終わったので貴也は語り掛ける。


「それで騎士団長様。今後の予定はどうなさいますか?」


「うむ。その騎士団長というのは止めて貰えぬか。我々は剣を交えた仲だ。名前で呼んでくれればいい。堅苦しいのは好きではないのだ」


 貴也は『剣を交えた』という言葉を聞いて背中に冷たい汗を掻く。

 が、彼女に他意はなかったようだ。

 ホッとしながらもポーカアーフェイスを崩さずに言葉を返す。

 実際は心臓が早鐘を打っていた。


「ですが、わたしは一介の使用人ですから名前で呼ぶのは……」


「わたしが良いというのだから問題ない」


「では、アスカさんと呼ばせていただきます。ただ、公式の場で騎士団長様とお呼びするのはお許しください」


「まあ、それは仕方がないか」


 何となく不満そうだったがそれで了承してくれたみたいだ。

 と言う訳で早速名前で呼ぶように強要される。

 貴也は盛大に溜息を吐きながら


「アスカさん」


「うん。貴也殿。それで頼む」


 アスカは満足げに頷いているが貴也はどうも照れ臭かった。

 何とも日本人ぽい容姿で日本人に近い名前の女の子を下の名前で呼ぶというのはなかなか気恥ずかしい。

 異世界にきて西洋っぽい顔立ちの人のファーストネームを呼ぶのは平気だったのに。

 この辺も持てない日本人気質なのだろうか。

 モテないって言うな!


 と言う訳で少し照れながらも話を戻す。


「それで今後の予定はどうなされますか?」


「貴也殿のひととなりは見れたのでここでの用事は済んだ。あまり団を離れているのも問題なので今日中にも戻ろうと思う。当分はジルコニア軍の近くで様子を見ることになるだろうな」


「そうですか。折角、お会いできたのに残念ですね」


 そう言いながら内心では早く帰れと念じている、貴也。

 それをおくびにも出さずに残念そうな顔をする。


「そうだな。折角、仲良くなったのに残念で仕方がない。また近いうちに訪れるのでその時は相手をしてくれ」


 そう言うと手を出してくる。

 貴也は『二度と来なくていいですよ』と声に出さずに呟きながらその手を握った。


 こうしてアスカは帰って行った。

 なんの問題も起きないようにクロードと一緒に貴也は各所への手配に奔走する。

 一秒でも早く公爵領から出ていって欲しいクロードの動きは凄まじく出国手続きもヘリの整備も一時間もかからずにやってのけた。

 彼女がヘリに到着した時にはすぐに発着できる状態になっていた。


 そして、アスカは飛び立っていく。


「何とか終わりましたね」


 クロードとエドと三人で視線を交わして苦笑いを浮かべる。

 何とか薔薇騎士団の対応が済んでホッとしていた。

 

 そんな時だった。


「なんだ。なにが起こっておる!」


 エドの声が周囲に木霊している。

 ところかしこで悲鳴が上がっていた。


「地震?」


 貴也は日本生まれなので地震には慣れている。

 だからか、この場にいる中で一番冷静だった。

 揺れはすぐに収まったし、震度も3か4くらいだろう。


 ただ、震源地ではもっと揺れているだろうし、被害がどれほど出ているかわからない。

 すぐにそれらの対応をしなければと思ったのだが、エドの狼狽は激しかった。

 クロードでさえ動揺している。


 あとで聞いた話だが、この世界では地震は殆ど起こらないそうだ。

 未知の出来事にみんなの動揺が激しい。


 貴也は大きな被害が無ければいいが、と思いながら周りの動揺が収まるのを待っていた。



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