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第九十二話 見よう見真似でやってみたが無双できない


 さて、この状況をどうしようか頭を抱える、貴也。

 その時ふと、あることを思いついた。

 そう日本にいた時、テレビでよく見たアレだ。

 しかも、貴也は大学時代に専門家に実際にやって見せて貰ったことがある。

 残念なことに貴也には体質的に合わなかったみたいで効果がなかったが、友達の何人かには本当に効果があった。


「いまの状態ならいけるかも」


 貴也はブツブツと不穏なことを呟き続けるアスカを見ながら呟いた。


「指先をジッと見てくれるかな」


 そう言って右手の人差し指を彼女の前に突き出す。

 そして、一定のリズムでゆっくりと揺らし始めた。

 アスカは言われた通りその指先を目で追っている。


「それじゃあ指先を見ながら、ゆっくりと深呼吸をして。吸ってぇ、はいてぇ。吸ってぇ、はいてぇ」


 確か、呼吸のタイミングを合わせるといいと聞いた。

 ゆっくりと一定リズムに深呼吸をさせると心拍数も同調してくる。

 本当は一定のリズムを刻むには振り子が最適なんだが、そんなもの手持ちにない。

 だから、一定のリズムで指を振り続ける。


 確か、こうやって呼吸や心拍と同じリズムの振り子に視線を向けさせると集中力が高まって脳波がなんたら、α波がうんたら、脳の活性がかんたら、言っていた気がする。

 心理学部の大学院生とか本とかの知識で実際にやったことはないが効果はあるはずだ。

 いまは信じるしかない。


「ジーッと、ジーッと。指先を見てジーッと、ジーッと指先を」


 しゃべり口調にも一定のリズムを。

 思考、視覚、触覚、聴覚、などすべて同じリズムにしていく。

 本当は嗅覚や味覚にもリズムを付けれればいいのだろうがそんな方法は知らないのでパスだ。


 いつの間にか彼女の口から『ごめんなさい』の呟きが消えていた。

 虚ろな目で貴也が振る指先を見ている。


 貴也は右手の指を揺らしながら左手で彼女の右手を取る。


「右手をギュッと握ってください。凄く、凄く、固く握ってください。ギュッと、ギューッと固く、強く」


 アスカはしっかり拳を握り込んでいる。

 本当に力一杯握っているのだろう少し手が白くなっている。

 それを確認すると貴也は彼女の手をギュッと握る混む。

 そして


「わたしが今、貴方の手を固めました。貴方の右手は石のようになってしまってもう開きません。ギュッとギューッと固まってもう開きません」


 そう言いながら指を揺らすのを止めて両手で彼女の拳の上から強く握り込む。

 何度も何度も


「三つ数えるとあなたの手は固まって開けなくなっています。一つ、二つ、三つ、はい」


 そう言って貴也は手を放した。


「手を開いてみてください。もう開けませんから」


 そう言うと彼女は一生懸命、掌を開こうとしている。


「あれ? あれ?」


 彼女は不思議そうに手を開こうとしている。

 だが、指は自由に動かない。

 拳は握られたままだ。


 顔を上げたアスカは『なんでだ?』といった驚愕の表情でこちらを見ている。

 そこには若干の怯えも見えた。


 どうやら今起こっていることの驚きが良い方に作用したらしい。

 心神耗弱状態から抜け出たようだ。


「心配いりません。わたしが三つ数えると指は開くようになります。一つ、二つ、三つ、はい」


 こちらをジッと見ていた彼女は恐る恐る掌を開いていく。


「……嘘、動く」


 彼女はしきりに手をグーパーと動かしている。

 その行動に貴也は満足していた。


 そう、ここまでの過程でわかったと思うが貴也がやっているのは催眠術だ。

 どうやら上手く暗示に掛かっているようでホッと胸を撫で下ろす。


「ちょっと貴也。こんな時に一体何やってるの?」


 呆れたような声で聴いてくる優紀を視線で黙らせると貴也は次の段階に進む。

 貴也はアスカの肩を掴むとゆっくり揺らしながら。


「貴方の身体はだんだん力が入らなくなっていきます。非常にリラックスした状態です。だんだん気持ちよくなっていきます。気持ちよくなっていきます。貴方はだんだん眠くなります。だんだん眠くなります。三つ数えると眠ります。一つ、二つ、三つ、はい!」


 アスカの身体からふと力が抜ける。

 ガクリと項垂れて首が落ちていた。

 眼前に睡眠状態に落ちていた。


「ふう、どうやら完璧に催眠状態になったみたいだな。マジで上手くいくとは思わなかった」


「ちょっといい加減何がしたいのか教えてくれる?」


 優紀がジト目でこちらを見てくる。

 まあ、彼女の言い分も分かる。

 説教をして廃人みたいにした挙句、今度はいきなり催眠術だ。

 もう、意味がわからない。

 だが、貴也も意味もなく催眠術を掛けてみようと思ったわけではない。


 と言う訳で本題である。

 貴也はアスカの肩に手をかけてゆっくり優しく語り掛ける。


「貴方はいまから今日起こった出来事を忘れます。わたしと訓練したことは覚えていますが、その内容は思いだせませんし、思いだそうとすら思いません。ただ、貴方は非常に満足しています。幸せです」


「……幸せ?」


「はい。幸せです。だから、今日起こったことは忘れましょう。貴方は幸せなので思いだす必要はありません」


「思い出す必要がない……」


「はい。思いだす必要も、思い出そうとも思いません。貴方は幸せですから」


「しあわせ」


「さあ、だんだん目が覚めてきました。わたしが三つ数えるとあなたは完全に目が覚め、眠っていた時のことを忘れます。いいですか? 完全に目が覚めて、眠っていた時のことを忘れます」


 アスカはコクリと頷いた。

 それを見た貴也は大きく息を吸うと


「さあ、三つ数えると目が覚めます。一つ、二つ、三つ、はい!」


 貴也の掛け声と同時にアスカは目を開いた。

 そんなアスカに貴也は笑いかける。


「騎士団長様。御加減はいかがですか?」


「うぬ? おお、体調は良いぞ。なんだか清々しい」


「そうですか。それは良かったです。では、今日はお疲れでしょうから、お部屋でお休みください」


「そうだな。そうさせてもらうとしよう。非常に有意義な一日であった」


 そう言うとアスカは満面の笑顔でこの場を去って行った。


「えっとこんなんでいいの?」


「まあ、上手くいったんだからいいんじゃない?」


 優紀と貴也は苦笑いを浮かべて互いに見つめ合っていた。



余談ですが2月1日に新作を投稿します。

タイトルは『月刊パパラッチ創刊』です。

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