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伯爵令嬢はチート転生者  作者: 猫柳 鉄平
第一章
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裏路地にて

ここから先、予告無く残酷な表現や人格否定。R15要素などが入る場合がございます。

 声がした方へとゆっくりと路地を進んでいく。セシリアは止めてきたけど、小説やゲームとかでお約束な場面を見たいと言う好奇心には逆らえない。だんだんと聞こえてくる声が大きくなりハッキリと聞こえるようになったので曲がり角の手前で止まる。


「この糞ガキが!なめやがって!!」

「マジなんなの?弱いくせに逆らってんなよ。大人しくしていりゃ痛い思いしなくてよかったのにね」

「ぐっ……カハッ!」


 怒鳴りつける男の声と半笑いの男の声、暴行でもされているのか苦痛のうめき声が聞こえる。急いでセシリアの手を引き大通りの方に引き返すとセシリアはホッとした様に顔を緩めていた。


「セシリア、急いで警備隊を呼んで頂戴」

「はい!かしこまりました。……エミル様もご一緒にいかれますよね?」

「私は様子を見ないといけないから、あの場所に戻るわ」

「な!?承諾しかねます!!駄目です危険です!」

「いいから、早く行って頂戴!子供が死んでしまってもいいの?!」


 気づかれるのを恐れてまだ現場は見ていないけど、話し声から子供が暴行を受けているのだろうと予想していた。助けられるのなら助けてあげたい、と思うのは建前で魔法を使う機会を逃したくないというのが本音。

 

 私は早く行ってとセシリアの背中を押し、路地の奥へと戻る。武器はさっき買った杖と串焼きの串だけ、杖は見た目がアレなので黒い布で包み背負っている。

先ほどの曲がり角まで戻った。暴行はまだ続いているようで男達の声とうめき声が聞こえてくる。そっと曲がり角から覗いてみると、男が4人と地面に横たわった服を着ている犬が1匹見えたと思ったら、男の1人と目が合ってしまった。


「おい、なんだ?見せもんじゃねーぞ。見たいなら金払え」


 にやついた顔で話しかけてくる男の声に、他の男達が一斉にこっちを見た。男達の格好はちょっと派手な感じで前世のVシネに出てくるチンピラみたいな感じだ。私は逃げる気がないので、そのまま男達に姿を見せた。


「ヒュ~♪いいとこのお嬢ちゃんじゃねーか」

「わぁ、今日は運がいいな」

「攫ってよし、売ってよしだな」

「ハハハ俺達が可愛がってやるのもいいな」


 テンプレのゲスい台詞とかお約束か!!なんかドラマっぽくてにやにやしてしまうが、動物虐待ダメ絶対!


「動物虐待はいけないと思います!すぐにその犬を解放して立ち去りなさい!」


 某メイドさんの真似をしてみたが、元ネタを知らない男達のつっこみはない。ただにやつきながらこっちに歩いてくる。この地域では15歳が成人とはいえ、13歳の少女なんてまだまだ子供だし、力で20歳オーバーっぽい男性には勝てっこない。普通なら。


「止まりなさい。警告を無視するようならどうなっても知りませんわ」


 私は大げさな動きで背中の杖を正面に構える。あまり見られたくないので杖の布はそのままにしてある。これで引くならよし、引かないのなら魔法を放つだけである。


「こいつ魔法使いか?」


 動きを止めた男が放った言葉に、他の男達もピクリと動きを止める。


「関係ねぇ!詠唱が終わる前にやっちまえ!!」


 そう言いながら一人の男が拳を握って殴りかかってきた。


「スタン」


 男に向かって短く唱えると男は糸が切れたようにバタリと倒れた。うわぁ受身取れないから顔面からか。痛そう。

それにしても気絶の魔法が上手くいった!ゲームの知識って素晴らしいね。

動揺している男達にも<スタン>の魔法をかけ、全員気絶させる。


 男達を片付けたので、倒れている犬の方に近寄る。殴る蹴るの暴行だったのか血はあまり出ていない。状態を見るために<スキャン>で体内の様子を見る。骨折が数箇所で、折れた骨が内臓に刺さっている箇所もある。痛々しい……。動物をいじめるなんてどんな神経してんだマジで。気絶制裁で済ますんじゃなかった。まだ魔法を制御し切れてないのが悔やまれる。まだ人殺しにはなりたくない。


 犬に<ヒール>をかけて<スキャン>で確認してみると上手く治療できていなかった。表皮の傷や骨折は直せていたけど内臓の辺りは治っていない。たぶん傷や骨はともかく、内臓を元の状態に治すと言うイメージが出来ていなかったみたい。前世が医者だったらもっと上手く治療できていたんじゃないかなと思う。


しかし、ここで諦めるのも悔しい。治療魔法ってファンタジーじゃ生死に関わる重要な魔法だし、パーティに1人は欲しい職業だし、自分も使えたら色々と便利だからなぁ……。


犬を撫でながらボーっと考える。


「そうだ!」


 ピコーンと頭の上に豆電球が浮かんだみたいに閃いた!肉体、いや問題のある部分を過去に巻き戻せ(ロールバック)すればいいんじゃないかと!過去があるから 現在(いま)があるわけで、問題のある部分のみを過去の状態に 巻き戻せ(ロールバック)すればいいんだ。よしよし折角なので実験しよう。


「ロールバック・ヒール」


 犬に向けて考えた魔法名を唱えると、歯車っぽい魔方陣の様なものが浮かび時計の針が逆回転している。ゲームの魔法エフェクトみたいでなんかカッコいい。中二心をくすぐられる。

エフェクトが落ち着いたので<スキャン>で様子をみてみると、内臓も完治していた。良かった。


「大丈夫?」


 杖を背中に背負いなおして、犬に話しかけてみるがまだ目を覚まさない。呼吸はしているし死んではいないことを確認したので、なでなでする。ちょっと毛は硬めだけど触り心地は悪くない。まだセシリアも警備隊も来ないし、寝ている間に久し(前世)ぶりの犬を堪能することにした。頭から背中までこれでもかというほど撫でまくり、首に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。犬臭い、でも嫌いじゃない。ついでに言うなら耳の中の匂いとか何度も嗅いでしまう。べ、別に匂いフェチじゃないんだからね!


それにしてもこの犬、なんで服着ているのだろうか。よくよく見ると腰の辺りにウエストポーチみたいなバッグも着けている。男達はガキって言っていた気がするけど、なんで犬とか畜生とか言わずにガキなのだろうか。異世界の風習なのか、よくわからない。


「エミル様っ、ご無事ですか?」


 息を切らせたセシリアが警備隊を連れて戻ってきた。


「ええ、無事よ。問題ないわ」

「って、なんですか?これ……」

「男達は魔法で気絶させてあるの。いつ目を覚ますかはわからないから、今の内に連行していただけると助かるわ」


 セシリアと警備隊に向けて言うと、数名の警備隊は男達を縄で縛って連行していった。


「俺は第18警備小隊の隊長ハウルだ」

「私は副隊長のファンです」

「私はエミル=ヴォルスト、こっちは侍女のセシリアですわ」


 残った2人の警備隊の人から名乗られ、私も名乗り返し隣のセシリアも紹介する。ハウルは私の服を見て「貴族か……」と呟いた。


「状況を教えろ」

「路地の奥からトラブルが起きているような声が聞こえましたの。声から男達が子供に暴行を加えているようでしたのでセシリアを貴方達の所へ向かわせましたわ。私は男達が逃げないようにと見張っていたのですが、見付かってしまいましたので魔法で気絶させて、子供……ではなく犬でしたが、犬を治療いたしましたわ」


 ハウルは私が貴族だと気づきながらも上から物を言ってくる。ちょっと腹立つけど、荒事も多いだろうこの下町では一々気なんて使っていられないのだろう。


「あの、エミル様。この犬……と言っていいかわかりませんが、これは犬ではなくて獣人なのではないでしょうか?!」

「えっ?!獣人っているの?これが獣人なの?服を着ている犬じゃないの?獣人って言ったら人の外見に耳と尻尾が生えてる萌えるやつじゃないの?!」

「エミル様が何をおっしゃられているのか分かりませんが、獣人は人と獣の姿に姿を変えられる者です」

「えっと、それじゃ獣人だから服を着ているってこと……?」

「はい。愛玩動物(ペット)に服を着せないこともないですが、一部の上流階級の方々しかしておりませんし、小型の愛玩動物(ペット)ならまだしも、このような大きいな愛玩動物(ペット)に服を着せる事はございません」

「マジか……」

「まじか……とは?」

「あ、いや、なんでもないですわ」


 がっつり素が出た。令嬢維持するのつらい。そして警備隊の人の視線が痛い。


「話は終わったか?確かにこれは獣人の様だな。こちらで保護しておこう。ファン」

「はい、隊長」


 まだぐったりとしている犬もとい獣人をファンは担いで大通りの方へ向かう。


「お前達もついてきてもらおうか、詳細な事情を聞きたい」

「状況は先ほどお話させていただいたのが全てですわ。これ以上この件でお話することはございません。私には暴行していた男達と獣人、どちらが揉め事の原因なのかわかりかねますわ。後は隊長様にお任せいたしますわ」

「な!協力しないつもりか!?」

「私は揉め事を止め傷を癒し、状況を説明いたしましたわ。これ以上貴族の私に何を協力しろとおっしゃいますの?私、暇ではございませんの、これで失礼させていただきますわ。セシリア帰りますわよ」

「はい、エミル様」


 面倒なので警備隊の詰め所には行きたくない。貴族という地位をちらつかせより令嬢っぽい話し方で牽制する。


セシリアも察したのか、いつもよりも侍女らしく従ってくれた。可愛いのに出来る人だ。

隊長をチラ見すると、ギリッと歯を食いしばって怒りを殺しているような顔をしていた。小娘に上から言われたらそれはイラっともするよね。貴族嫌いっぽい反応もしていたし。そんな隊長に背を向けてその場を後にした。



 翌日、セシリアがどこから仕入れてきたのか昨日の顛末を教えてくれた。

獣人は買い物に出かけたところ、チンピラにカツアゲされかかり抵抗したところリンチされたとのこと。下町では良くあることらしい。チンピラは保釈金で解放されたらしい、解せぬ。

獣人は私の治療のお陰で無傷だったらしく、目覚めた獣人は驚いていたとかいないとか。無事でよかったよ本当。多分二度と会うことはないと思うけど元気に暮らして欲しい。


 さて、これから帰省する領地まで約4日の馬車の旅。久しぶりの家族との対面は不安しかない……。

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