魔法実習室
ギルバルトに告白されて慌ててその場を後にしたのはいいけど、よくよく考えてみればギルバルトが一人で考えて告白してくるのはおかしい。日本とは違って互いの合意があれば即日結婚できると言うわけでもないし、系統は違えど互いに爵位がある家の子息・令嬢である。
これは帰省したときに何かあるかもしれない。今はどうすることも出来ないだろうし、とりあえずこの問題は先送りすることにした。
学園内に入った私は先生に魔法実習室の鍵を借りて、2号室に向かう。
魔法実習室は個人で練習する用の部屋で、カラオケボックスみたいに部屋に番号が振られていて、予約が入ってなければ直ぐに部屋を使うことが出来る。もちろんクラスで実習するための教室もあるけど、そっちは教室というより体育館みたいな感じだ。
魔法実習室の大きさは日本の教室位、天井はかなり高めだけど。部屋には結界が何重にも張られていて外に魔法が漏れないようになっているらしい。時々結界が壊れたりして修復待ちで使えない実習室もある。
さて、魔法の練習をいたしますか!魔法を使えたら最高のファンタジーライフが待っているのだ!!
まずは、基本の火風水土でやってみよう。備品の長い杖を手に持ち、備え付けてあるターゲットに向けて教科書通りの詠唱を試してみる。
「紅蓮の炎よ焼き尽くせ、ファイヤー!」
ボフッって音と共に3m位の火柱が上がった。
「あっつ!!っていうか、魔法成功?!うはははは!ヤッターーーーーー!!」
思わず大声を上げてガッツポーズをしてしまった。結界のお陰で誰にも聞かれていないからセーフ!これでも私は令嬢だから気を使わなくてはならない。
火は成功したので風水土と光と闇も試してみたけど、どれもちゃんと発動した。私魔法使いになりました!うへへ。
嬉しすぎて顔がにやけてしまう、誰にも見られていないのでセーフだ!
ちなみに詠唱は何でもいいらしい、きちんと発動させる魔法がイメージできていれば無詠唱も可能だとか。声に出した方が中二心をくすぐるけど、無詠唱の方が便利と言えば便利っぽい。
この世界の魔法はイメージを具現することが出来る力なので、教科書に無い魔法も創作可能!となれば試すしかないでしょ!
イメージしたのは竜巻。TVで見た竜巻ハンターの映像を思い浮かべてそれっぽい詠唱をしてみる。
「暴風よ全てを飲み込め、竜巻!」
詠唱が日本語なのはその方が馴染みがあるから、その方がイメージしやすい。
ゴゴゴゴゴと言う地鳴りと共に風が渦を巻いて竜巻の形になっていく、すでにボロボロになっているターゲット根元から吹き飛ばされ、竜巻はどんどんと大きくなっていく。実習室の天井の高さになっても、その勢いは止まらない。
「あ、あれ……なんかやばくない?!」
ピシッとかパキっという音が部屋から聞こえ始め、結界に亀裂が走っているのが見える。
魔法のキャンセルってどうやるんだっけと考えているうちに竜巻が結界を破壊し、その衝撃で私は体を壁に打ち付けた。
幸いにも意識はあったけど、衝撃で体が動かせず息もしずらい。横になったまま回復するのを待っていると、廊下を走る複数の足跡が聞こえてきた。足跡は扉の前で止まり「開けるぞ!!」と言う声と共に室内へ入ってきた。
「!!おい!大丈夫か!?」
「ここに居たのは一人だけのようですね」
「…結界がない…です」
抱き起こされながら「大丈夫です」と伝える。駆けつけてくれたのは出勤していた3人の先生だった。
「すみません。ご迷惑をお掛けしました」
やらかしてしまった事は確かなので、素直に謝ることにしよう。立ち上がった私はぺこりと頭を下げた。
「いや、それはいいが…一体何をしたんだ?部屋がボロボロじゃないか…」
立ち上がった私をそっと支えながら声をかけてくれたのは、剣技教官のスマイト先生。元騎士なだけあってゴリマッチョでこげ茶の超短髪に青い瞳、口ひげを生やしたダンディなおじさまだ。
「えっと、魔法の練習をしていただけなんですけど…」
ちょっとテンパってたので思わず素が出た。
「いや、普通の魔法なら結界は破れないはずです。何の魔法を使ったのですか?」
次に質問をしてきた魔法実技Aを担当しているロン先生は、背中まである金髪の髪に碧色の瞳、何よりハリウッド俳優も真っ青な超美形で生徒からの人気は男女問わず高い。ただし、授業中は鬼だ。
魔法が使えなかった私には恐怖の対象でしかない。
「風の魔法ですわ」
言葉遣いを令嬢風に戻した私は属性だけを答えた。竜巻なんてこの王都では発生しないし、気象関係の本も読んだことが無いので、この世界に竜巻が発生するのかもわからないから端的に答えるしかなかった。
「”何の”風の魔法ですか?」
ロン先生は丁寧な口調だが、知りたい部分を強調して問いかけてきた。なんて答えたらいいのかわからない。素直に竜巻と答えて面倒になるのはお断りだ!
私は俯いて口を閉ざすことにした。今の状況ではこれがベストだろう。
「…とりあえず、指導室へ…移動しませんか?」
この状況に助け舟を出してくれたのは、魔法薬担当のエディ先生。目が見えないほど前髪を伸ばした濃緑色の髪をマッシュルームヘアにして、ボロボロの黒いローブを着ている。きっと前髪を上げたらイケメンなのだろうと妄想。
エディ先生の提案に賛同した先生達に移動を促され、生徒指導室に移動した。尋問の始まりである。
どうしてこうなった。