事前訓練02
負けると思っていなかった相手に負けるというのは精神にきてしまうのかもしれない。ビッチちゃんとショタの戦闘が終わってもカイシュはどこかぼんやりしていた。魔力がないからかもしれないけどね。
ビッチちゃんVSショタの戦闘は引き分けだった。ガッチガチに結界でガードするビッチちゃんと次々に魔法を打ち込むショタ、平行線で時間ばかりが経過してしまうので、ロン先生が試合を止めたのだ。ナイス判断!時間の無駄ってやつですね。
そして次の戦闘は私VSギル。TVだったらあおり文句で因縁の対決とかになるのだろうか?
私としては先日領地に帰る前の父に王都の屋敷に呼び出されて、婚約は正式に断ったと言われたので最早ギルバルトの事はどうでもいいのです。ビッチちゃんと幸せになれるように頑張ってください!
あと、父と話した際に「もっといい使い道が」とか聞えたような気がするのは、聞かなかったことにしておく。聞いてたけどね!
チラッとギルバルトを見ると、こちらを睨んでいる様だった。ただ単に目つきが悪いだけとか……そんなことはないか。
「では、両者戦闘開始位置まで移動を」
「はい」
「わかりましたわ」
私とギルバルトは戦闘開始位置に着き、抜刀状態で試合開始の合図を待つ。
「戦闘開始まで、5、4、3、2、1、始めっ!!」
ロン先生の合図で戦闘が始まった。
身体強化をしているのか、かなりの速度で一直線にこちらに向かってくるギルバルト。流石にギルバルトの攻撃を受けるのは危険すぎる。学生だから騎士見習いとなっているけど、実力的にはもう何年かすれば騎士団長クラスでもおかしくないとの噂だ。私は興味なかったので噂しか知らないけど、レイン兄様より強いのはなんとなくわかる。そして、レイン兄様に負ける私では接近戦でギルバルトには勝てない。
私は自身に速度上昇魔法を重ねがけし、速度を上げることでギルバルトの攻撃を避ける。
「……チッ」
ギルバルトの舌打ちが聞えた。女子相手に本気か?まさかの本気か!一撃必殺予定だったのか、あっぶねー。この男、本気である。
このままでは分が悪すぎるので一先ず距離を……っ!!
「くっ!」
ギルバルトは攻撃の手を緩めず、距離を詰めて切りかかってくる。考え事で油断していた私は一瞬反応が遅れたものの、なんとか避けることができた。そのまま離れようと走ったところで足がもつれ派手にすっ転んだ。
魔法で移動速度が上がっていたことが災いし、1ゲットズサー並みの砂埃を上げて転がったわ!恥ずかしい。戦闘中に恥じている場合でもないので、急いで立ち上がろうとすると私に剣を突きつけて見下ろすギルバルトが目の前にいた。
「フン、この程度か」
「戦闘中におしゃべりとは随分と余裕がありますことっ!!!」
「ぐあっ何しやがるっ!!」
「目潰しですわ。ご存知なくて?」
私は話しながら地面の砂を掴み、ギルバルトの顔に思いっきり投げつけた。漫画とかで不良がやる目潰しを参考にさせてもらった。はーっはっはっは、勝てばいいのだよ勝てば!
「このっ!卑怯者がっ!!」
目を擦りながら文句を言ってくるギルバルトを華麗にスルー。
地上での戦闘は分が悪いので私は<フライ>の魔法で空中に移動した。最初っからこうしていれば良かったわ。空中なら剣は届かないしね。
お?なんか地上にいる人が目を丸くしてるんだけど、ルールに空を飛んではいけないというのは無かったから大丈夫だろう。
速度上昇魔法で体疲れたし転んでちょっと怪我したし恥ずかしかったし、もう面倒だから早く終わらせよう。
「恵みの雨よ凶器となれ<豪雨>」
「うわっ何しやがる!くそっ!降りて来いっ!!」
戦闘場一体に激しい雨が降り注ぎ、ギルバルトの体を濡らしたのを確認したところで<豪雨>を詠唱取消して、次の魔法を唱える。
「氷の世界の住人となれ<コキュートス>」
一体の温度が急激に下がり、豪雨で濡れていた地面は氷に変わる。あっという間に戦闘場は氷の世界に変わり、ギルバルトの足は氷漬けになっていた。それだけに留まらず、気温は下がり続けギルバルトが氷の彫刻となるのは時間の問題のようだ。空中に居る私ですら寒いのだから、魔法の影響を受けているギルバルトはたまったものじゃないだろう。
「ギル、降参するなら今ですわよ?」
「……だ、だれ……が…」
深く息を吸うと喉が凍り付いてしまうからか、苦しそうに話すギルバルト。強情だなぁ、私ならすぐ降参するよ。だってこれってば戦闘訓練だし、どうせ負けるなら早く開放してもらった方がいいのに。
私はふわりと地上に降りて、あちこち凍り付いているギルバルトを見てからロン先生に視線を向けた。ロン先生はあっけにとられているようだったけど、私の視線に気づき試合終了の合図をした。
「リ、リスティさん!ギルバルトの手当てをお願いします。急いでください!」
「は、は、はいっ!」
慌てて治療の指示を出すロン先生に、慌てて返事をするビッチちゃん。たぶん凍傷くらいだからそんなに慌てなくてもいいんじゃないかな、とかぼやっと考えているといつの間にか隣に居たロン先生が小さな声で話しかけてきた。
「私は手加減するように言いませんでしたか?」
「はい、伺いましたので手加減いたしましたわ」
「え?」
「え?」
「……アレで手加減したのですか?」
「はい、殺してしまわないように魔法を選びましたし、威力も抑えましたわ」
あんだけ手加減したのにロン先生的にはご不満だったらしい。解せぬ。
戦闘難しいです。
前回よりはマシになっているかと思うのですが、どうでしょう。