舞踏会5
※変な改行を修正しました
「お父様、お母様お怪我はございませんか?」
「あらまぁ!エミル無事だったのね。良かったわぁ!」
私は室内に居た両親を見つけて声をかけると、母が明るい口調で答えてくれて私を抱きしめる。少しずつ室内の騒がしさが戻ってきてはいるものの、周囲の伺うような雰囲気は消えていない。
「殿下はご無事か?」
「はい、お父様。騎士様方とご一緒に別室へ向かわれましたわ」
「そうか、良くやったな」
「ありがとうございま……す?」
父はアルシェイド王子の無事を確認するとホッとしたように息を吐いた。王子を少しだけ和らいだ雰囲気に遠巻きに見ていた貴族が近づいてきて両親と話を始めた。内容は私の事で「素晴らしいお嬢さんですね」とか「魔法の発現はいつごろから?」等、この機会に少しでも繋がりを作ろうとしているのが見てとれた。
「レインお兄様」
「ん。なんだい?」
「疲れましたわ……」
「そうだね。エミルも魔法を使って疲れていると思うし帰ろうか?」
「はい」
レイン兄様の気遣いを利用してこの場から去ろうとしていると、アルシェイド王子の使いの者という騎士が私を呼びに来た。レイン兄様は妹は疲れているから本日は下がらせて欲しいと伝えてくれたものの、聞き入れては貰えず王子の居ると思われる一室へと私だけ連れていかれた。
「失礼いたします。エミル=ヴォルスト嬢をお連れいたしました」
「入れ」
重厚な扉を入るとそこは豪華な応接室だった。所謂お誕生日席の1人掛けソファーにはアルシェイド王子が座っていて、近くに騎士や従者が控えているし他にも部屋の中には
数名居る。真ん中には机があり向かい合うように3人掛けのソファーが置かれていて、そのうちの一つに案内されて許可を得てから座る。向かいのソファーにはローブを着た魔
法使いらしい人が座っている。
「エミル嬢、疲れているところすまないね」
「いえ、とんでもございません殿下」
「まずは私を助けてくれた事に礼を言う」
「身に余る光栄でございますわ」
「いくつか質問がある」
「はい、私が答えられる事であればなんなりと」
「君が唱えた<シールド>と言う魔法。あれはなんだ?」
あれ?<シールド>って魔法ないの?<竜巻>同じく名前が違うだけかもしれないし、あまり気にしなくても大丈夫かな。
「小さめの結界ですわ殿下。一室を覆う程の範囲は守れませんが数メートルの範囲を物理攻撃や攻撃魔法から守る効果がございます。ただし使用中は常時魔力を消費いたしますし、強力すぎる攻撃を加えられると破られてしまう可能性もございます」
「ふむ、次に。シャンデリアを落としたのは君かな?」
「……殿下は私をお疑いですか?」
「いや、全く。形式上聞いただけかな」
「そうですか」
「犯人はこちらで調べているから心配しなくていいよ」
「はい」
犯人って人為的なのは確定なのか。とりあえず容疑者ではないらしいので一安心ってところかな?まるっきり疑われていないかと言えばそうではないかもしれないけど、あの会場の結界をどうにかして攻撃魔法でシャンデリアを落とすなんて無理でしょ。いや、無理じゃないけどそこそこ時間かかると思うからアルシェイド王子を殺したいなら、シャンデリアを狙うより王子に攻撃した方が確実。私が<シールド>を使ったのだって結界と同系統なら結界内でも簡単に使えると踏んだからだし、本当なら自分たちだけじゃなくて周囲の人も傷つかない様にしたかったけど、そこまで考える余裕が全くなかった。
「ああ、そうだ。すっかり忘れていたよ、こちらは宮廷魔法師ルーベック=リットン団長だよ」
「殿下、話の終わりに紹介とは忘れ過ぎではありませんかね?」
「すまないすまない。まぁ細かい事はいいじゃないか」
アルシェイド王子はテヘペロという軽い感じで、私の向かいに座っていたローブご老人を紹介する。
「私は宮廷魔法師団長ルーベック=リットンです。この度は殿下を助けていただきありがとうございます」
「ヴォルスト伯爵家ゲオルグの娘、エミルでございます。この身がお役に立ちまして光栄でございます」
立ち上がりルーベックさんに挨拶をすると、ルーベックさんが右手を出してきたので私も右手を差し出し握手をする。ぎゅっと握られた手からピリピリとした感覚が流れ込んでくる。これは所謂力比べっぽいのでこちらからも魔力を握ったルーベックさんの手に流すと、ルーベックさんは一瞬顔をしかめ更に魔力を流し込んでくる。ちょっとムッとしたのでこちらも更に魔力を込めると、ルーベックさんは「うっ」と呻いて膝から崩れ落ちた。
「ルーベック!!!!?」
「え?!あ、大丈夫ですか?ルーベックさん」
「……殿下、大丈夫です。問題ありません」
焦ったアルシェイド王子はルーベックさんの名前を呼び私も声をかけると、ふらつくルーベックさんはソファーにつかまりながら立ち上がり、問題ないと答えた。
「申し訳ございません。つい力を込め過ぎてしまったようで……」
「ほっほっ、いやはや驚きました。まさかこんなお嬢さんに負けてしまうとは、私もまだまだですな」
素直に謝罪するとルーベックさんは好々爺とした表情をしていたが、その瞳は全く笑っていない事に私は気付いた。
「ははは、ルーベックが負けたところで話は終わったし君はもう帰っていいよ」
「はい、殿下。失礼いたします」
アルシェイド王子から退室の許可をもらったのでそそくさとその場を後にして、待っていてくれたレイン兄様と合流して、屋敷へと帰った。非常に疲れた一日だった……。