舞踏会1
いつもより短いです。
「お、お母様。これはいったい……」
私は並べられた色とりどりのドレスを見つめて呟く。
珍しく朝から母に呼ばれて行くと、そこには大量のドレスや装飾品と針子や商人と思われる人達が並んでいた。
「うふふ。なぁんと!エミルも建国記念の宮廷舞踏会に招待されたのよ。もう!女の子には用意もあるのに急に招待状を送ってくるなんて殿下の我儘にも困っちゃうわね」
「え?私も舞踏会に参加するのですか?」
「そうよ。いつもなら私とゲオルグ、後はたまにジーク達かしら。でもほらコレを見て頂戴」
頬の手を当てて困った表情を浮べていたが、我儘といいつつも母はどこか嬉しそうだ。そんな母から「はい」と渡された物は、第三王子カイシュからの手紙と舞踏会の招待状だった。
建国記念宮廷舞踏会は、毎年2月14日に王宮の敷地にあるダンスホール、晩餐会場、ホテルが一緒になったような大きな施設で行われる王国主催のパーティだ。基本的な招待客は貴族や他国の要人で、かなり人数が多くなる事から伯爵以下の跡継ぎを除く子供はほとんど参加しない。さらに付け加えると招待状は4ヶ月前には到着しているのが通例である。
そんな招待状が1ヶ月前に届くとかどうなっているんですかね?カイシュの陰謀ですか?いじめですか?
カイシュからの手紙を読むと、断罪イベントの謝罪の気持ちから舞踏会を楽しんで欲しいと招待状を送ってきたらしい。むしろ迷惑です。
「うふふ。エミルのドレスは濃い色のが多いから、今回は華やかな色にしましょうか?」
「いえ、お母様。私はこちらの紺色で……」
「だめよ!折角の宮廷舞踏会なのよ。お披露目もかねていつもよりも華やかにするの!」
「……は、はい」
母の迫力に逆らう事が出来ずに私は着せ替え人形となった。着ては脱いでを繰り返す事20回以上でやっとドレスが決まり、次はドレスに合わせた靴と装飾品選びと衣装選びだけで丸二日かかった。
決まった衣装はスカートを何枚も重ねた様なプリンセスラインの赤いドレス。所々に薔薇の様な花がデザインされた模様とアクセントで黒が使われている。もちろん装飾品もドレスの赤と私の髪や目の色に合うようコーディネイトされている。
「エミルよく似合うわ!」
「……ありがとうございます。お母様」
「うふふ、いいのよ。舞踏会が楽しみねぇ」
引きつった笑みの私を気にすることなく母はにこにこと微笑んでいる。そっと自分の姿を鏡で確認すると、どう
みてもTHE悪役令嬢です。本当にありがとうございました。
「そうそう、エスコートはねジークに」
「レインお兄様でお願いしますわ」
「エミルはアルスレインがいいの?」
「はい、レインお兄様がいいですわ。レインお兄様の方が年も近いですし独身ですもの。もしかするとレインお兄様のお相手が見つかるかも知れませんわ」
エスコートを兄にしようとする母の言葉を遮ってレイン兄様を推す。精神衛生上最も適切な人選だと思うのだがどうか。
「そうねぇ。でも、あの子は騎士の仕事があるかもしれないでしょう?」
「お忙しいかもしれませんが……途中でお仕事に戻られても良いのでレインお兄様にお願いしたいのですわ」
「エミルがそこまで言うのなら、アルスレインに聞いてみるわね」
「お母様、ありがとうございます!」
こうして私の舞踏会参加が決まったのであった。
短いと日にち空けてでも次の話と一緒にしたほうが良いのか悩みます。