表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢はチート転生者  作者: 猫柳 鉄平
第一章
14/31

誘拐5<アルスレイン>

 僕の4つ下の妹エミルは小さい頃から表情が乏しく、あまり感情を表にあらわす事が無かった。それを不快に思ったのか、エミルが兄弟姉妹の中で唯一の魔力持ちだった事が気に入らなかったのか、兄のジークは事あるごとにエミルに辛くあたっていた。僕は兄が居なくなるとエミルに優しい言葉をかけて、頭を撫でてあげるとエミルはほんの少しだけ表情柔らかくした。

末の妹が産まれた頃……7歳のエミルは自室に篭るようになって、侍女のセシリアに聞いてみると自室で本を読んだり、レースを編んだりしていたらしい。無愛想ではあるけどとても女の子らしいよね。


 僕は12歳になり王都の騎士学校へ入学した。家族とは年1~2回会う程度だったがエミルを取り巻く環境は、あまり変わっていないようだった。兄は相変わらずエミルに辛くあたっていたし、エミルは自室に篭っていた。


 エミルは12歳になると王都ハインツ学園に入学した。家族としてはとても名誉な事だったが、僕は内向的で魔法も使えないエミルが人の多い学園でやっていけるかとても心配だったけど、僕は騎士見習いとして騎士団に配属され、家族の事なんか思い出せないほどの訓練や任務の日々を過ごしていたから、あまり気にかける事もできなかったなぁ。


 1年ぶりに会ったエミルは別人の様な表情で僕を迎えてくれた。きっと学園の環境がエミルを人間らしく成長させてくれたんだなと嬉しく思った。エミルは学園の話をしてくれた。他のご令嬢と仲良くなった事や、剣の筋が良いと言われた事、勉強はしているけどあまり成績が上がらない事、そして濡れ衣事件の事も……。

濡れ衣事件の話を聞いたときは、本当に腹が立った。エミルより立場や能力が優れている男達が、1人の少女を取り囲んで犯人に仕立てようとした事は、騎士としても兄としても男としても許せなかった。エミルは許したと言っていたけれど僕は絶対に許せないな。


 新年を迎える前にエミルと末の妹のハルティア、愛称ハルと買い物に行く事になった。まぁエミルとの買い物にハルが割り込んできた形だけど、僕はハルも大切な妹だと思っているので仲良く買い物ができたらいいなと思っていたんだけど、この二人の相性は余り良くないみたい。ハルが一方的にエミルに突っかかっている感じで、エミル自体はそこまで嫌っている感じはしないけどね。


 エディバラの街について、大通りから少し外れた洋品店に入った。ハルが洋服を試着するといい、なぜか侍女のチコナではなくエミルを連れて試着室へ入っていってしまった。残された僕達5人は店内でお茶を飲みながら試着が終わるのを待っていたけど、しばらく経ってもハルもエミルも戻ってこない。おかしいな?と思い2人の侍女達に様子を見に行かせると、エミルとハルは居らずハルの着ていたドレスだけが残されていたと。悪い予感に背筋がぞわっとした。

護衛の者達に「領主(ヴォルスト家)の令嬢2人が行方不明になった」事をこの街の騎士団に知らせるよう走らせた。


「アルスレイン様、お手が……」

「あぁ、ごめん。大丈夫だから」


 侍女のセシリアは握り締めた僕の手に、かなりの力が入っている事に気づき声をかけてくれた。あまり上手く笑えなかったけど、僕が笑って大丈夫というと彼女はホッとしたように息を吐いたが、彼女の顔に血の気は無かったのが心配だな。



 到着したエディバラ第2騎士団と警備隊の一部が一緒に捜索することになって、僕も加えてもらった。非番だし所属も違うので何の権限もないけど、じっと待っているよりはマシだった。両親にも伝えなければならなかったので、侍女と護衛は屋敷へ戻らせた。


 調べたところ、あの洋品店の試着室は壁の一部が取り外し出来るようになっていて、そこから誘拐されたようだ。洋品店の店主は知らないと言っていたけど、取調べはこれから騎士団がしてくれるはずだ。

騎士団によるとここ最近少年少女の行方不明が相次いでいたとかで、騎士団の人たちも捜査をしているところらしかった。


「その、誘拐された子供はどうなるのでしょうか?」

「……主に人身売買の末に奴隷か研究材料や食料になるな。胸くそわりぃ話だ。だが、令嬢だと知って攫ったなら営利誘拐の可能性もある。まだそう時間も経っていない希望は捨てるな」


 気づいたら騎士団の副隊長に分かりきった事を聞いていた。僕だって騎士団に所属していて凄惨な現場を見てこなかったわけじゃない。だけど、どうにも現実感が無くて、焦りばかりが感情を占めていた。


 状況が進展したのは、妹達が行方不明になってから2日後の事だった。以前から容疑者として上がっていた男が新しい馬車を調達してどこかへ行くという。馬車の商人に聞き込みをしたという騎士によると、別の土地で新しい商売を始めるから家財道具を持ってこの街から出るという。男は宿に滞在していて馬車を使うような家財道具はもっていないし、動き出す時期も怪しいと踏み男を尾行して怪しければ確保するという、何とも確信がもてない作戦が

決行されることとなった。


 その夜、男はエディバラの街から馬車で30分ほどにある小さな家の横に馬車を止め、家の中へと入っていった。僕達は息を殺しながら家に近づき、家を取り囲むように配置する。

家の中から何かを打ち付ける音とバタバタといった細かい音が聞こえている。騎士団の隊長指示の元、包囲網を狭めていくと、突然男が扉をぶち破って外へ(こちらへ)放り出された。扉の無くなった家の中からは女の子の咳き込む声が聞こえる。スカートをはいた人影が家の中からこちらへ近づいてくるのが月明かりで見えた。人影は敷居を跨ぐ一歩手前で立ち止まると、家の中から仰向けに倒れている男の足へ氷の槍が何本も突き刺さる。鈍く呻く男の声が聞こえた気がした。


 ゆっくりと外へ出てくる人影に、騎士団の隊長指示により明かりの魔法<ライト>が複数名によって唱えられると辺りは昼のように明るく照らされた。

何が起きたのか僕には理解できなかった。だって照らされた人影は、血まみれの僕の妹だったから。


「エミル?……エミルっ!?」


 僕は思わず声をかけていた。エミルは眩しそうに目を細めながらもこくっと頷いた。

居ても立っても居られなかったし、本当は駆け寄って抱きつきたかったけど、魔法使いが近くにいるかと思うとそれも出来なかった。


「エミル。悪いけど手を上げてゆっくりこちらに来てくれるかい?」


 エミルは手を上げてゆっくりと僕の方に近寄ってきた。エミルの顔と手首には傷、首には絞められたような跡があって、服は血まみれという痛々しい姿だった。エミルが僕のところまで近づくのを待ってから、ぎゅっと抱きしめてあげた。


「……無事で本当に良かった」

「お兄様、ハルが家の中にいますわ」


 僕が声をかけると、掠れた様な声でエミルは答えてくれた。


「犯人は全て捕らえてありますわ。早くハルを助けてあげてください」


 エミルの声に騎士団と警備隊は一部を残し、家の中へと入っていった。

包囲網がゆるんだその時、


「!!エミルっ!!!」


 僕は咄嗟に抱きしめていたエミルと位置を変え、飛んでくる刃からエミルを守る。刃の短い投げナイフは僕のわき腹に刺さった。


「ぐっ!」

「お、お兄様…!?」


 思わずエミルを抱きしめる腕に力が入る。かなり痛いけどこのナイフの長さなら致命傷にはならないから大丈夫。腕のエミルは泣き出しそうな顔で僕を見上げている。途端膝が崩れ立っていられなくなる。……もしかして毒?


「エミル……毒だから、ナイフにはさわらない……よう、に」

「お兄様?!お兄様っ!!!?」


 あっという間に感覚が無くなっていき、エミルの泣き顔が見えたところで僕の意識は無くなった。

アルスレインは若干シスコン。

騎士団内では平均で特に腕が立つわけではないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ