誘拐3
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああ!!」
「あははははは!」
多くの魔力を込めた魔法に魔方陣はあっけなく壊れ、<竜巻>は男へと襲い掛かかり男は悲鳴をあげる。壊れた床の破片が風の中へ巻き込まれ部屋の高さ程の竜巻は、まるで凶器を飲み込んだ洗濯機のように男の体を引き裂いた。切り裂かれた布、飛び散る血、生臭い風を感じながら男の様子を見て魔法を詠唱取消する。
「ぐあっ、な、なんなんだ……君は…………」
「そうです私が、ってこの状況でどんなボケだよ!そんなことより、私と一緒に拉致ってきた子供はどこ?」
「し、しらな「知ってるんだろ?」」
「いや、知らないというなら探すだけだし別にいいけど。とりあえず魔力はいただいておくから<魔力奪取>!」
「な、なにを……!?う、ぁ……」
私は男の魔力を奪い魔法を使えなくする。少なくとも1日は使えなくなると思うけど試した事はないのでわからない。男は魔力不足か失血によるダメージかで意識を無くしたようだ。
念のため、私は胸の前でパンッと手を合わせて男の近くの地面に手を付け、男を囲むように檻を作った。錬金術ではなく魔法でだけど。
先ほどの戦闘のせいか悲鳴のせいか他の誘拐犯にも気づかれたらしく、多人数がこちらへ向かってくる足音がした。ドタドタと階段を下りてくる音、通路を歩いてくる音。
私は部屋から出るとこちらへ向かってくる男達と遭遇した。
「お兄さん達は誘拐犯ですか?」
私はわざとらしく小首を傾げてみる。
「…………」
男達は立ち止まりこちらを無言で睨んでいる。捕らえてきた少女が部屋から出ている事に、違和感を感じないほど馬鹿ではないらしい。
「魔法使いの人ならそこでおねんねしてるぜ?この中に魔法使いより強えぇやつはいるのか?居ないなら大人しく私に従え、お前達の中の誰か一人でも攻撃を仕掛けてきたら命の保障はしない。ちなみに連帯責任な?」
「くそっ子供がっ……!!」
「馬鹿っ!やめっっ!!!!」
敢て高圧的に言うと、沸点低い奴が長剣で切りかかってきた。
「<鎌鼬>、<アイスランス>」
「なん……!!」
「イテェ!イテェヨォォ!!!」
「ぐあッ!!?」
「なにしやが……!?ゴフッ!!」
男達の方へ手をかざし魔法を唱える。和洋折衷なのはイメージを具現化しやすい方を選んでいるからで、特に深い意味は無い。
魔法は男達を切り裂き、突き刺していく。腕を切り飛ばされた者、頭を貫かれた者、後ろにいた者ほど軽症だったが、それでも立つ事は難しい位のダメージを負わせる事ができた。切りかかってきた男は首を刎ねられ即死で、初めて見た生の死体に胃酸がこみ上げてくる。
「うっ……おえぇぇ……」
私は壁に手を付き、中身の無い吐瀉物を吐き出した。吐いた影響で呼吸は荒いが不思議と罪悪感は無いし、一通り吐いてしまえばスッキリしたものだった。男の長剣を奪い、まだ生きている男たちを空いていた部屋にぶち込み、外から扉と壁を一体化さえて、扉を開けられないようにした。
「血生ぐせー。他の部屋には誰かいんのかな?」
これ完全なる独り言ね。私の服にも返り血が付着しているけど、とりあえずはおいておこう。このフロアを調べたところ、私が閉じ込められていた様な部屋がいくつかあって、男達を放り込んだ部屋以外はどれも空き部屋だった。
ここが最下層らしく、地階行きの階段も無かったので上の階に移動する事にした。
「お、早かったな。下で何があった?」
「いやー、大変でしたよ。魔法使いをぶっ潰したと思ったら、男達に襲われて。思わず何人か殺しちゃいました。てへぺろ」
「!!何だお前は!!」
「誘拐された少女Aです。てめぇがボスでいやがりますか?」
仲間が戻ってきたと思って話しかけてきた男に、ふざけた口調で受け答えをしてみた。無言で槍を構えられたのだけど、この人ボスか?ボスは殺すより捕らえた方が良さそうかな。
「<バインド>」
「ひぃっ!!」
男に向けて短く魔法を唱えると、男の足元から黒い触手が伸びてきて男の体に巻きついていく。黒い触手は男の体を拘束した。
「それで、ボスはどちらにいやがりますか?」
「うぐっ……」
「ふむ?<ポイズン>。今てめぇに毒の魔法をかけたので、ちゃんと話さないと苦しみながら死ぬよ?」
「ぐっ…………」
「ボスはどこ?」
「……」
「はぁ、面倒になってきた。ボスはお前か?」
「……いいえ」
確認のために力を込めて言ったら、急に虚ろな目になった男は答えてくれた。そうそう、素直が一番だね。何で急に話したのかはわからないけど。
「そ、ありがとう。お疲れ様 <エアカッター>」
エアカッターで男の首を刎ねる。鎌鼬との違いはエアカッターは大き目の1刃に対し、鎌鼬は小さく手数が多い。この短時間で人を殺す事に何の感情も抱かなくなってる自分が怖いけど、悪人に情けをかけるほどの余裕はないのだ。私は戦闘初心者だしね。
室内が薄暗いので<ライト>で室内を照らしながらハルを探す。明るくするとさっきの男の死体とかちょっとアレだけど、あまり目に入れないように辺りを見回す。
大き目の牢屋が1つと、小さめの牢屋が3つあった。どれも鉄格子で外から中が伺えるようになっている。
ハルは着替え途中だったから下着姿……といっても透けない肌着やドロワーズを履いている。日本だったらちょっと可愛い女子用のパジャマだ。なのでそんな感じの服の子供を探す。
「ハルー?」
大きい牢屋を覗くと、5人の少年少女が一番奥の壁に寄って怯えた目でこちらを見ている。
うむ、この中にはいないな。
「ね、姉さま?」
「ハルっ!!」
反対側の一番奥にある牢屋から声がしたので近寄ると、ハルが下着姿のまま鉄格子を掴み泣きながらこちらを見ていた。
「はー……良かった。今扉開けるわね。<開錠>」
「え?え??」
私が<開錠>を唱えるとカチャと音がして錠が外れた。鉄格子の扉を開けあっけに取られているハルを牢屋の外に出す。
「ハル怪我は無いかしら?」
「う、うん……」
「嫌な事はされなかった?」
「だいじょう、ぶ。ですわ」
「そう、良かったわ」
「姉さま、それよりもその血は……?」
ハルは泣きそうな顔で寄ってきたが、私の血まみれの服装を見て怯えた表情でその足を止めた。
「ああ、これ。ただの返り血よ。気にしなくていいわ」
私はスカートの裾を持ち上げ、おどけたようにくるりと回ってみせる。ハルは信じられない者を見るかのような
目つきで私を上から下まで眺め、諦めたように手を繋いできた。
「さぁ、帰りましょう。レインお兄様もきっと探してくれているわ」
「……はい」
「あ、そうだ<開錠>。貴方達もここから逃げるのなら好きになさい。街まで行くというなら私が手伝うわ」
私は他の牢屋の鍵も開け、捕まっていたであろう少年少女に声をかけた。
覚醒済エミルの素は口悪いです。
魔法は<>をつけるようにしました。