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伯爵令嬢はチート転生者  作者: 猫柳 鉄平
第一章
1/31

真実の樹の下で

初めての投稿です。

拙いかと思いますが、よろしくお願いいたします。

※9/20誤字修正

 ハインツ王国の王都にあるハインツ学園は、魔力がある者が通わなければならない王立の全寮制学校である。

この世界では魔力持ちひいては魔法を使えるものが貴重であるため、管理育成の関係から一定量以上の魔力持ちであれば身分に関係なく一部の例外を除き、12歳から成人とされる15歳までの3年間はこの学園に通わなくてはならない。

身分に関係が無くても遺伝の関係からか平民の魔力持ちは極めて少なく、生徒の大半は貴族や領主の子息だった。



―――――――――――――――


 伯爵令嬢エミル=ヴォルスト13歳は、1年目の学園生活の締めくくる終業パーティに参加していた。

眉の辺りで真っ直ぐに切りそろえられた前髪に、顔の両サイドに濃紺の髪を一房垂らし、腰まである長さの髪は高い位置で結わえてあり馬の尻尾のように垂らしている。キリっとした少し釣り上がった大きな紫色の瞳、すっと通った鼻筋、小さめの唇、エミルは自身の容姿を上の下と評価していた。


 エミルはパーティが始まってから常に壁の花だった。

伯爵令嬢という身分からすれば、この機会に繋がりを持とうとする男子生徒から声をかけられてもおかしくはないのだが、エミルに関するの悪い噂が男子生徒の間で広まっており、関わろうとする男子生徒はいなかった。


 あと少しでパーティも終わりかしら・・・と、エミルは人が少なくなってきたパーティ会場を見渡し、時計を見る。

約束をしている時間まで後15分。待ち合わせ場所まで少し歩くことを考えると、そろそろ会場をでなければならない。

エミルは持っていたグラスを置くと、パーティ会場を後にした。


 パーティは学生が対象なこともあり、昼過ぎから行われ夕方には解散となるのが通例である。エミルが外套を羽織り外に出ると太陽が沈みかけ薄暗くなっていた。

学園内の敷地にある小高い丘の上には樹齢100年は超えているであろう大きな木が1本立っており、生徒たちは<真実の樹>と呼び愛の告白や審議の場として使っていた。なんでも偽りがあると木から黒い葉が落ちてくるらしい。どこにでもある都市伝説のひとつだが、生徒たちは信じておりその噂は先輩から後輩へと受け継がれている。


 エミルは<真実の樹>の下に到着すると、不安と期待が入り混じった表情で木を見上げる。

エミルが差出人不明の「終業パーティの日、18時に真実の樹の下にお越し下さい。」と書かれた手紙を受け取ったのは10日前。エミルは人見知りであったため、仲の良い男子生徒はいない。それどころか、エミルの取り巻き達がガードしていた為、男子生徒とまともに会話すらしたことがない。

審議される程の問題は起こしていない、とするとエミルには告白しか考えられず、年頃の女の子は物語の様な展開に顔が赤くなるのを感じた。


「ヴォルスト嬢でいらっしゃいますか?」


 男性に家名を呼ばれたエミルは返事をすると声の方へ振り向いた。

振り向いたエミルの前に現れたのは3人の男子生徒と、男子生徒の後ろからこちらを伺う1人の女子生徒だった。

学園内では有名な人物ばかりで、左側には騎士公爵子息のギルバルト=グローグ、ツンツンとした赤い髪の短髪に鋭く青い目、長身でありながらがっちりとした体つきの騎士見習い。エミルを鋭い眼光で睨み付けている。


真ん中はハインツ王国第3王子カイシュ=ルヴィウス=ハインツ、サラサラの金髪ショートヘアに翡翠色の瞳、線は細く絵本の王子様のようだが、威厳というのだろうか圧力を感じる。


右側には最年少第1級魔術師クリストファー=ローゼン、水色の髪を肩で切りそろえ、大きな金色の瞳、年齢の割りに幼い容姿の彼だがその手には魔法を使うための杖がしっかりと握られている。


そして王子の後ろにいるのは光魔法の使い手として注目されている平民出身のリスティ=シルタット、肩にかかるふわふわのピンクブラウンの髪に水色の瞳、眉は困ったようにハの字になっており何かを言いたそうにカイシュの袖を掴んでいる。

エミルは状況がつかめず4人に問いかけた。


「こんな場所へ呼び出して、一体何の御用でしょうか?」


 内心混乱しているエミルの気持ちと反して、醒めたような声とため息が発せられた。


「なっ!!何の御用かってっ!!」

「ギルバルト、ここは私に話させてもらえないだろうか」


 いきなりエミルに食ってかかろうとするギルバルトを抑え、カイシュが一歩前へ出る。


「ヴォルスト嬢、私達は貴女に真実をお聞きしたくお呼びしました。貴女がリスティに行った卑劣な行為について」


 物腰は柔らかなカイシュだったが、その表情は硬くエミルを見据えている。

一方、卑劣な行為と言われても全く身に覚えのないエミルは小首を傾げた。


「ハインツ殿下、卑劣な行為とおっしゃられましても私には皆目見当もつきません。そもそもシルタット様とはクラスも違いますし、会話したことすらございませんわ」


「白を切るつもりですか?リスティが貴女にお菓子を差し入れしようと声をかけようとしたところ、貴女がリスティを転ばせ泥まみれにして落ちたお菓子を踏みつけたのをギルバルトが見ていましたし、貴女の命を受けた取り巻き達がリスティに悪口を言っているのをクリストファーが聞いておりました。私も貴女の傍にいたリスティが転んでゴミまみれになっていたのを見ています。他にも貴女からリスティが嫌がらせされているとの話を聞いております。この真実の樹の下でハッキリさせていただきたい!」


 エミルは思い出すかのように記憶を遡る。確かにこの1年の間に近くにいた女生徒が転んで泥だらけになったり、ゴミまみれになったりしていた事があった。が、エミルはその女生徒がリスティであるとは認識していない。平民出身の光魔法の使い手リスティ=シルタットが学園に居るとは知っていたが、容姿までは知らず興味も無かった。


「・・・ハインツ殿下、確かに私の近くで女生徒が転倒したことは何度かございましたわ。けれど私は何もしておりませんわ」


「ハッ!!俺がリスティを助けたとき、近くにはお前しかいなかったぞ!魔法でも使って転ばせたのは明白だ!!」


「グローグ様は私が魔法を使えない事を知っていて、魔法を使ったのだとおっしゃっているのかしら?」


 エミルの回答にギルバルトが食って掛かるが、エミルは自嘲気味に魔法が使えないことを告げる。


「・・・魔力あるけど・・魔法は使えない・・・」


 それまで沈黙を保ってきたクリストファーが呟く。エミルは魔力持ちであるためこの学園に在籍しているが魔法は一切使えなかった。


「ローゼン様の言うとおりですわ。私は魔力があるため在籍を許されているだけですの。それと、お友達との会話の流れで平民出身者に向けた言葉を言った事はございますけど、面と向かって言った事はございませんのよ。校内での食べ歩きはお止めいただきたいわと言った内容ですけど、それをどなたかが伝えてくださったのかもしれませんわね」


 男子3人が罰の悪そうな顔になり、リスティの顔はやや青醒めている。

ああ、私を悪者にして彼女にいい所を見せようと思ったんだなとエミルは思った。こんなくだらない茶番に付き合っている時間はないし、そろそろ終わりにしてもらおうと、エミルはリスティの方に近づいた。


「シルタット様、本当に私が貴女に何かいたしましたか?」


 エミルはずいっとリスティの方へ歩を進め、ビクリと肩を震わすリスティ。


「リスティに近づくなっ!!!」

「ギルっ!!」

「きゃっ!!?」


 先ほどよりも大きな声を上げ、カイシュが制するよりも速くギルバルトはエミルの肩を突き飛ばす。伯爵令嬢として剣や体術を嗜んでいるエミルだったが、ダンス用の高いヒールを土にとられてバランスを崩したエミルは後頭部を木の根に打ちつけ意識を失った。

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