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十二宮の調律師  作者:
一章 出会いと始まり
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7.メサルティムの白羊宮神殿4

リオンは言った。アルマは守護者(ガーディアン)みたいだ、と。ソルは言った。自分は魔導師(セージ)では無い、と。

推定と否定だけが提示され、その明確な回答を得る事は出来ず、更に眼前で生じるこの現象をどう認識するべきか。目まぐるしく変化する事象にリオンはただ見守る事しかできなかった。



ぐい、と頬の傷から流れる血を手の甲で拭い取る。

各人に防護壁を咄嗟に展開したが、生命の流ウェルテックス・ヴィーテを調律しているソルとメリッサに別の魔力を流せば調律の妨げになり、更には暴発する可能性も高かったので放置した。ソルなら普通に対処できるだろうと思い手を出さなかったが、予想通り平然としているソルが視界に映る。しかし安心したのも束の間、調律が存続不可能だと認識した魔族は至極上機嫌かつ、不快な哄笑を上げている。物凄く不快極まりない。

・・・・・・ならば、その自信を崩しに掛かりましょう。ちょっと後々面倒なことになりそうだ、とは思いながらも。


手にある両刀の柄を打ち合わせ胸の中央で連結させる。魔力の流れを受け、両刀が淡い光を発し、キン、と高い音を立て一本の武器となった。そのまま一振りし刃の一方を大理石の床へと突き刺す。探るのはソルとメリッサが立ち上げた生命の流ウェルテックス・ヴィーテへ繋がる扉。今にも消えそうな柱が視界に入るが、そこにまだ始まりの扉が少しでも存在するのならば繋げるのは容易い。ソルもゆっくりとメリッサを託した後にこちらの意図を汲み取ったのだろう。彼の纏う気配が変わるのも感じる。調律師(バランサー)の真似事から本来あるべき気配へと。



―――――共鳴せよ



言霊を乗せる。視界を遮り意識をこの世にある12か所の生命の源泉ゾディアック・フォンス・ヴイーテの一つへと共鳴させる。感じ取るのは漆黒の中に浮かぶ朱金の流れ。

このままその流れを読み解き、この断絶された流れに再び(えにし)を結ぶとしたならば、恐らく自分達の居場所は全ての生命の源泉(フォンス・ヴィーテ)に察知され、確実に中央(アルス・マグナ)に認知されるだろうことは予想できる。それでも、あのいけ好かない魔族の自信を崩せるのならば気分は上々だ。我ながら負けず嫌いとでもいうのか、と内心覚えながら白羊宮(アリエス)に宣誓する。



―――――我はアルマラファル=ディ=アクエルド 12宮(ゾディアック)に連なる者なり



魔族が振り返る。神殿の床には突き刺さる刃を中心に巨大な白羊宮(アリエス)(サイン)が浮き上がり始め、先程の弱弱しい朱色の光とは打って変わり、辺りに朱金の輝きが広がる。消え入りそうな朱色の柱にもその光の粒が集まりだし、調整する者がその場に居ないにも関わらず柱の形を形成しだす。



―――何、ダトッ?! 馬鹿ナ、奴ノ半端ナ扉ヲ再構築スルダト?!



魔力は人により違う。魔導師(セージ)それぞれが成立させた生命の流ウェルテックス・ヴィーテの柱を一つに纏めるのも難しく、それなりの鍛錬を積む必要性があるが、同調させることで彼等の能力を増幅させ、絶大なる力の源である生命の流ウェルテックス・ヴィーテを人の身でありながら調律することを可能にする。しかし、他人が創りだした柱をそのまま再構築するということは、全く同じ魔力を受け継ぎ構築しなければならないということ。その魔力を読み解き、流れを掴み、自らとは違う魔力を紡がねばならない。


そんな細かい芸当を人間が行使する事は不可能の筈。他者を慮ることをしない利己的な種族にできるものでは無い筈なのだ。だが、目の前の人間の小娘はその不可能を可能にしようとしている。


―――サセンッ


「それはこっちの台詞だな」


魔族の少し焦る様子を侮るように、亜空間に右手を差出し意識を向けるソル。差し出された先に凝縮される魔力の集合体。ばちばちと空間に青い稲妻が走る。周囲には朱金の輝きに混じり青い光が迸り、彼の右手が掴んだのは身の丈に近い長さを誇る一振りの太刀。その刀身には藍色の布が封印をするかのように巻かれている。ソルは左手にその重みを預け、漆黒に青い複雑な文様が刻まれた柄に右手を添えて腰を落とした。



「共鳴せよ」



ぽつり、と呟いた声に呼応するかの如く藍色の布がふわり、と解かれ現れるのはその刀身。魔族には白刃を構えるソルの姿が目に映っただろう。しかしそれも一瞬の映像に過ぎず、アルマの調律を妨害せんと宙に舞い向かう。人に宙を飛ぶことはできない。あの距離で自身が攻撃を受ける筈もない、との考えか。



―――死ネェッ!!



脳に(つんざ)くような声が響き渡る。



「お前がなっ」



続けて届くのは冷酷さを滲ませたソルの声。同時に藍色の布が消え失せた白銀の刀身に淡い青白い光を帯びさせ抜き放たれる。



ごあっ!



―――馬鹿、ナッ・・・・・・!



衝撃とも呼べる音速の風が剣戟の軌跡を辿り、宙に浮かぶ魔族の身体を両断した。切断面にはばちばちと青い稲妻が走り、魔族はどしゃり、と地面へと叩きつけられる。



「ま、さか、・・・・・・星宿具・・・?!」



セレッサを守るように抱えたグラナーテが口にする。この世在らざるモノを滅する為に太古の昔に12の存在(ゾディアック)から授けられたという武器、星宿具。その力は存在するだけで圧倒的な力を放ち、制御するには相当の魔力が必要になるという。世界の中央に位置する魔術学院(アルス・マグナ)に代々受け継がれ、、調律師(バランサー)守護者(ガーディアン)と認められた者にのみ振るう事を許された武器。圧倒的な能力を持つ調律師に並び立つ者にのみ許されたもの。それを持つ者は調律師に並び剣聖とも称される筈だ。しかし、現在剣聖、と呼ばれる者は12宮の調律師ゾディアック・バランサーに並ぶ12人が記憶にある。12領に居る者達の名前は世界に知れ渡っているが、グラナーテの視界に映る彼ら二人の名前はそれに該当しない。



―――・・・ッ貴様等、一体何者ダ・・・・・・


「まだ息の根があるんだ。さすがに魔族の生命力は魔物とは違うな」



縦に両断された魔族が、頭部が分断されているにも関わらず半身を起き上がらせようとしている。切り捨てられた反対側は徐々にさらさらと朱金に染まる空気に溶け始めていた。神殿内は既にアルマを中心に巨大な朱金の柱に飲み込まれている。ソルはふ、と口元を緩ませた。断絶された生命の流ウェルテックス・ヴィーテは手繰り寄せられ、既に一つの流れへと連結している。そして溢れた生命の息吹を元の流れに昇華させ、断絶面にあった滞留を丁寧に一つ一つアルマの魔力が介入し、解いていく。雄大な河の如く、静かに力強く流れる生命の流ウェルテックス・ヴィーテへと戻るのに余り時間はかからなかった。



―――――我が声を聴け 感応せよ 我は汝を調律せん



アルマを包む朱金の輝きがその句を持って集束し、残滓を残して消えた。先程まで存在していた空間の亀裂もいつの間にか消え、辺りは神殿の崩壊と怪我人多数の状態のみ。



―――・・・マサカ・・・我ラノ宿願ヲ妨ゲタノ、モ貴様等トイウ、コトカ・・・?



さらさらと消えていく魔族が苦し紛れに呟く。その様子を冷ややかに見下ろすソルが未だ青白い光を放つ太刀の切っ先を軽くその身を撫でるように振り下ろせば、瞬く間に青白い光を残して魔族は消滅した。後に残るのは神殿の酷い有様。なんとかこの場に死人は出ていないとは思うが、救助をしなければならないだろう。ふぅ、と一息ついた所にいつもの定位置である肩口にウラガンがばさり、と翼を休めに来た。



『ソル、アルマ、君達一体・・・・・・?』



リオンの疑問が投げかけられ、困惑や疑惑の視線がかなり注がれている気がするが、まずやるべきことは人命救助と状況収拾。爆音や異音も落ち着いてきたことが分かったのか、神殿外に逃げた幾人かの無事な参拝者も恐る恐る中を伺う気配も感じ取れる。恐らく白羊宮(アリエス)領の首都にもこの異変は察知されただろうし、中央(アルス・マグナ)から魔導師(セージ)や調査員が来る可能性もあるので、ここら一体の状況を安定させたら直ぐに退散させて頂くのが面倒事に巻き込まれない最良の行動だろう。

調律を終えた状況で回復魔法を行使しだすのはいささか骨が折れる。あまり人体組織へ介入する魔法類は得意ではない。ソルに任せた方が確実な気がしたのだが、恐らく兄も兄で先程の攻撃の魔力消費は激しいだろう。とにかくやる事はさっさとやるに限る、思い立ったら即行動。これが後悔しない人生の必勝法だと昔教わったものだ。

早速行動に移そうと周囲を見渡し、負傷者の数を確認。その怪我の程度を認識し、座標も捉え、突き刺さったままの双剣に魔力を流し回復魔法を発動しようとしたまさにその時。



ぐぅううう きゅるるる



場にそぐわない間抜けな腹の虫が神殿内に反響した。

穴があったら入りたい。

先程までのシリアスな雰囲気から一変、リオン達の視線がなんとも生暖かいものになっている。そんな憐れむような眼差しでこっち見ないで。ソルがいつかやっていた腹の虫を止める鍛錬とやらをしておけばよかった。ソルの口元を抑えている様が小憎たらしい。

回復魔法ではなく、土堀できる魔法に変換させようかと本気で思ったが、内心の羞恥とは裏腹に周囲には淡い水色の霧のような光が充満しだし、当初の目的通り怪我人への応急処置よりかはもう少しましな治療を終える事に成功した。もうこのままダッシュで逃げ去りたいがとりあえず。



「・・・・・・すみません、お腹すいたのでなんか恵んでください」



開き直って物乞いをしてみることにした。当然憐れむような眼差しが深まったのは言うまでもない。



一悶着はとりあえず落ち着きました。

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