ロビー
朝の日差しが寝不足な僕の体に突き刺さる・・・。
僕の家から学校までの距離は比較的近い方で徒歩20分くらい
で行ける距離だ。この学校を選んだのは単に家が近いから。
そのほうが楽だし、僕みたいな将来になんも希望を抱いていない
奴がわざわざバスに乗って電車に乗っての往復はまず無理だ・・・
そもそもそこまでして行きたい『高校』でもなかった。
僕の高校はそこそこの学力でそこそこな人しかいない。
『普通』という言葉がすっぽり当てはまるような人しかいない
既に現実に飽き飽きしている虚無感に駆られた人達がいる
もちろん例外もいるが大抵の人は僕らと同じ・・・・・
『普通』に飽きた人たちだけだった。
通学路は毎回決まって同じ景色、季節の変わり目に木の色が
せいぜい変わるくらい、それ以降は毎度同じ。
毎回毎回同じ景色。最初こそは神秘的にも感じ取れたが、
1週間も経てばすでに飽きがきていた・・・・・
人間はつまらない生き物だ・・・
秀「新学期・・・・・か・・・」
まあ今時転校生が来るわけでもないし。
仮に来たとしても僕は話せないし話さないだろう・・・
何よりまた1週間もすれば『転校生』という存在はなくなる。
秀「どうでもいいや・・・」
「あの・・・すみません。『天月高校』ってどこにあるのか
ご存知でしょうか・・・。」
突然後ろから割と小柄なショートカットで気の弱そうな
女の子が話しかけてきた・・・。
この制服・・・僕の高校と同じ制服、ってことは新入生か?
秀「ああ、天高なら僕の高校だ、何なら付いてくるといいよ」
多少そっけない態度を取った。まあ、この程度でラブコメが
発生すると期待するのは思春期の健全な男子諸君だけだ。
「あっ、ありがとうございます・・・」
少女はペコリと軽く小さなお辞儀をした
秀「礼を言われるほど大したことは言ってないはずだけどね」
「いや、転校初日で遅刻なんて、冗談にならないですから」
転校・・・確かに少女は転校といった。ということは
転校生か・・・。どの学年だろうか。
秀「ところでさあ、君・・・名前はなんていうの?」
稀央「『加々美 稀央』って言います・・・
えと、2学年です・・・。」
秀「2学年、てことは僕と同じか・・・。もしかしたら一緒の
クラスになるかもね。そのときはよろしく頼むよ・・・」
稀央「あっ、はいお願いします・・・」
少女は、稀央はペコリとお辞儀した。
秀「そういえば今朝のニュース知ってる?『連続失踪事件』」
稀央「あっ、はい、あのよく報道されてるので・・・
知っています・・・」
秀「僕たちも気を付けないとね・・・僕たちだけじゃなくて
大人まで蒸発したように消えていなくなっちゃうん
だってさ」
稀央「それは、怖いですよね・・・」
秀「でも毎回毎回同じ事件を報道されても困るよね、
毎日この瞬間にも人が死んでいってるってのにさ。」
稀央「それは・・・そうですけど・・・。危機感を持て
っていうことじゃないかと思います・・・。」
秀「危機感・・・か、そういう発想はなかったなあ・・・」
稀央「すみません、偉そうなこと言って・・・」
秀「いや、いいよ。面白い意見だよ。これは」
それにしても偶然転校生に声をかけられて、しかも偶然同じ
学年の転校生だった・・・。偶然・・・普通ではない、偶然。
もしかしたらこの普通と言う連鎖を打破してくれるかも
知れないという期待をした・・・。
そういえばなんで僕はスラスラと初対面の女の子に話すこと
ができたんだろうか・・・。普段はろくに話せた事ないのに
秀「うっ・・・・・・・」
また視界が歪んでいく・・・
物が近くなったり遠くなったり・・・気持ち悪い・・・。
高熱を出した時と同じ感覚だ・・・。
全てのものがぐにゃりと歪んでく・・・この感覚・・・。
稀央「・・・したの?ねぇ、どうしたの?」
秀「えっ、ああ、ごめん何でもない、少し
気分が悪くなっただけだ・・・」
あの感覚・・・さっきも同じように起こった・・・。
なんだろう、言葉で言い表せないよな気持ち、なにか大切な
ものを僕は忘れている気がする・・・。
稀央「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?少し待っててください」
稀央はガサゴソとカバンを漁っている。
秀「薬ならいらないよ」
稀央「えっ?よくわかりましたね」
あれ・・・。僕なんで薬ってわかったんだろう。『デジャブ』って
やつかな?ホントにあるとは・・・
稀央「もしかして・・・秀一くんは私の事知ってるね?
私だけだもん、薬をわざわざ持ってきているの」
秀「いや、知っているってわけじゃないよ、たまたまだよ偶然」
そう、偶然。
秀「さあ、もう少しで天高につくよ、転校初日だろうから
頑張ってね。」
稀央「わざわざ、ご親切にありがとうございました」
稀央はまたペコリとお辞儀した。今度はいつもより深く。
~~~~教室~~~~
先生「これでホームルームを終わりにする」
「きりーつ」「れい!」「「ありがとうございました」」
友A「なあ、隣のクラスに転校生が来たんだって?」
知ってる・・・。
友B「知ってるよ。情報おせーなおまえ。めちゃくちゃ
可愛いんだって?」
それも知っている・・・。
友A「まじかよ、早く見てみたいなぁ~」
もう見た・・・。
友B「なあ、秀ちゃんも知っているの?隣のクラスの転校生」
ああ、ついさっきまで話していた・・・。
秀「加賀美 稀央・・・でしょ?知っているよ・・・」
僕の問いに驚いたのか間髪いれずに友Bは質問する
友B「えっ?お前もしかしてその・・・稀央ちゃんの事
知ってたりするの?だったら紹介してほしいなぁ~
俺、割と魅力ある方だと思うし、俺なら彼女を
幸せに出来ると思うけどなあ~」
それに便乗して・・・
友A「それなら、お前より俺のほうが適任だな!お前みたいな
ゴリラ顔より俺みたいに知的でハンサムな男のほうが
彼女は喜ぶと思うがな」
友B「テメェ、お前はチンパンジーだろこのやろう!毎朝お前ん家
が作っているバナナ食ってんじゃねえぞ!この健康やろうが。」
やっぱこいつらのノリにはついていけない・・・
秀「ごめん・・・少しだけ一人にさせてくれ・・・」
ちょっと空気読めないなかったか・・・。
友B「ああん?新学期早々どうした?体調わりぃのか?
いつもついてねぇよなお前はよ」
友A「もしかして『大』か?気にすんな!俺たちゃもう小学生
じゃねえからよ。隠す必要ねぇぜ」
そう言って2人はゲラゲラと笑っている。
この2人の動力源は多分『笑い』という何かで動いているのだと
僕は思う・・・。
秀「いや、そうじゃないんだ・・・まぁいいや。ごめんな」
そう告げ。僕はそそくさと教室から逃げ出した・・・。
教室から出るとき、僕は後方から舌打ちのような音が聞こえたが
聞いてないふりをした・・・。ただ、この教室から出たかったのだ
もしかすると、僕自身にも春が訪れるかもしれないと・・・
そう、少し期待した自分が恥ずかしくなり、穴場を探して
出て行った・・・。
友A「あいつなんかノリ悪いよな。」
友B「だよな。なんか暗いしつまんねーわ・・・」
確か出て行く時にそう聞こえた・・・。
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長年掃除していない階段は埃っぽくてカビ臭く、
不衛生さを感じさせる・・・。
別館は本館より一回り古く、未だに木造建築であるので巷では幽霊が
出るのだとか言うどうでもいい噂話がまことしやかに囁かれていが
もちろん僕は都市伝説話とか幽霊だとかいう噂話のたぐいは信じて
いない。でも少しだけ「いたらいいなぁ」とか思ったりもする。
まあその噂もあってか人気が少なく、僕にとっては絶好の場所だ。
ここに行く人は僕しかいなく。普通の学校なら屋上は閉まっている
のだが、なぜかここは鍵が壊れていて出入りが自由だった。
もちろんこれを知っているのは僕だけで、教師もほかの奴らも
知らない、いうなれば秘密の場所である。
階段はギシギシと不快な音を立てていて、僕にはむしろそれが
心地よい。
屋上の扉を右手で開くと、標高が高いせいか風が一気に吹いた。
秋だというのにまだ風が暖かい・・・。
ここに来ると、他の人と違うことをしているという快楽を得るので
僕はここが好きだ。加え付けに僕しか知らない。僕だけの小さな世界
に入っているという安心感もある。
これも日常の中のたかが1つなのだが。どうもここは落ち着く。
人間の醜い感情を見なくて済むし。連鎖が連なるこの日常
からひとつ離れた小さな安らぎがここにはあるのだと感じる。
家に帰ると母さんから勉強だの進路だのうるさく言われ・・・
母さんは仕事のストレスを僕らに当たったりして、それを見て見ぬ
フリをする父さんを見ていると、嫌な感情が渦になる。
いつも塾に行かされ。僕の自由な時間は寝る前の1時間だけ・・・。
高校にもなって親がいちいち言うかよ・・・。
学校では他の人と馴染めずいつも孤立しているが、最近ではよく
友Aと友Bが話しかけてくる、だが彼らのノリにはついていけず
やはり馴染めなかった・・・。
別に友達がいないわけじゃないが、彼らとは別のクラスに
なってしまった・・・。
秀「上手くやっていけそうだと思ったんだけどなぁ・・・」
考えてみればにあんなに初対面女子と話せたのは小学生以来だ。
いつか、どこかであったのかな・・・。
小学生の時はリーダー的存在ではあったが、中学、高校になるに
つれてギャップを感じてきていて、今じゃ昔じゃ到底
考えられない『孤立』した存在になっていた・・・。
秀「はぁ・・・・・・」
「な~にため息なんてついちゃってんのよ」
びっくりして声のした方を振り返るとそこには
今朝転校してきたばかりでここの存在を知っているはずのない
少女がそこにはいた・・・・・。
稀央「やっぱりここにいた・・・」
まあ、素人作品なんで言葉のよくわからない所はお許し下さい
後で修正するのでこっそり優しく教えてくださいね