3.in the end,we dare to runaway.―1
すると、分かっていたとばかりにユイナが坂月を見詰め、説明を始めた。
「未来予知――予知はね、ディラックの海っていう不可視の、この世のどこにもないけど、どこにでもある不可視の『何か』ね。そこに自分の意思を繋げる事でアカシック・レコードまでの中間地点として、アカシック・レコードにアクセスするの。そうして、やっと情報の検索が始められる。後はさっき話した通り。無限にある情報の中から自分の力で自分の望む答えを見つけ出すの」
「成る程、さっぱり分からん」
うな垂れる坂月にユイナは、
「とにかく、やってみよ?」
と提案する。
「目を閉じて、集中してみて。考えを無にして、ありえない『何か』、ディラックの海を探すの。ディラックの海を探すっていうか、ありえない何かを探す感じが近いかな? ありえない何かを私達が勝手にディラックの海って呼んでるだけだしさ」
ユイナの言葉に坂月は数秒唸るように考えた後、頷く。そして、瞳を閉じる。
出来るだけ何も考えないようにし、ありえない何か――ディラックの海を感じ取ろうとする。元々面倒事の嫌いな坂月だ。少し集中すれば寝れてしまう程に考えを無に出来た。実際に実行してみると、何も考えない様にしている状態からの何かを模索する、という行動は難しい。
「考えない、じゃなくて、考えを無にする、だからね」
意識の外から、ユイナの応援が聞こえてくる。すると、僅かに思考が揺れるが、坂月は彼女のアドバイスを参考にして、少しでも進もうとする。
(…………、)
そして、暫くの時間が経過して――、
「見えた」
そう言って、坂月は下ろした瞼を持ち上げた。
だが、同時だった。
「少し、遅かったね……」
悔しげに眉を顰め、眉間に皺を寄せ、忌々しげな視線を遠くへと投げているユイナの表情が、目に付いた。坂月がユイナの視線を辿る様にして視線を投げると、そこには最早見慣れた襟詰姿。三人の顔。
DFだ。
「見つけたぞ!」
そして視線は返された。
「くっそ……!!」
そして坂月は意識せずともユイナの手を取った。今まで、二回、ユイナと逃げた坂月。その際はユイナが坂月の手を取って先導し、逃げてきた。癖になってしまっていたのだろうか。
だが、今度先導するのは坂月だ。能力が確立していない今でも、いつまでも少女に手を引かれるわけにはいかない、と思うのだ。
「逃げるぞ!」
「う、うん!!」
突然の立場の逆転に驚いたか、ユイナは驚き、眼を見開き、慌てながらも素直に従ったのだった。
坂月達は窮地に追いやられていた。DFメンバー三人に囲まれたのだ。それが、坂月が先導したが故に起こってしまった事だろは言いきれないが、坂月はそう思い込み、責任を感じてしまっていた。
更にはDFの人間が一般人を追い詰めているという光景が珍しく、道行く一般人が壁を作るようにDFの三人と二人を閉じ込めるように群がってきた。
つまり、逃げ場はない。
「どうする……?」
我ながら情けない、と思いながらも坂月は結局、ユイナに頼るしかなかったのだった。
暫くの沈黙の後、ジリジリと詰め寄ってくるDFとの距離を鋭い視線を図りながら、ユイナは静かに答える。
「私は検索が――今の坂月よりは――早いから、検索して、何か打開策が思いつかないか考えてみる。その間は――分かるよね?」
ユイナの提案に坂月は深く首肯する。
予知中には、意識がなくなってしまう。つまり、無防備になるのだ。その間は、坂月がなんとかしてくれ、という事である。
覚悟は無いが、やるしかない。そう坂月は嫌々ながらも確かに把握している。故に、頷くしかなかったのだった。
ユイナの行動は早かった。坂月の首肯を確認したかと思うと――堕ちた。
ストン、と気絶してしまったかの如く、ユイナの体から力が抜け落ちたのだ。
「おっと!!」
大慌てで坂月はユイナの華奢な体を支えてやる。
(検索中か……!!)
すると、だ。DFも黙っちゃいない。
「情報の検索を始めたぞ!」
リーダー格と思われる男が声を上げ、もとよりなかった距離を一気に詰め始めたのだ。
「ッ!!」
連中が坂月達に詰め寄るまで五秒程しかない。DF連中は坂月達アカシック・チャイルドを警戒していたのだろう。故に、距離があった。だが、走ってしまえば大した距離ではない。
だが、ユイナは、その五秒の間に目を覚ました。
そして、彼女は早急に声を上げる。
「腰!」